21. 顔合わせ

「その件についてなんですけど」と朱雀が言う。「彼は、お願いがあったサスケさんではないんですよ」


「え、そうなんですか?」


「はい。彼については、我々もコンタクトが取れていない状況でして。チャンネルも消えてしまいましたし。それで、代わりになってしまい申し訳ないのですが、こちらの小次郎さんにお願いすることにしたんです」


 朱雀から目配せがあり、挨拶するように促された。胡桃に目を向けると、胡桃は探るような視線で見返してきた。昔の知り合いの前でキャラを演じるのは、普通に恥ずかしい。しかし、忍者としてのプライドが羞恥心をかき消す。堂々とすれば、バレない。そう言い聞かせて、佐助は口を開く。


「拙者の名は小次郎。あの大剣豪、佐々木小次郎に憧れ、剣士になり申した。以後、お見知りおきを」


「は、はぁ、よろしくお願いします」


 戸惑う胡桃を見て、佐助は自信を得る。キャラになりきれば、うまく誤魔化せそうだ。


マネージャーのカベツヨも、困惑した表情を朱雀に向ける。


「あの、小次郎さんはどのような方なんですか?」


「ふむ。少し変わっていますが、仕事はできます。レベルは22なので、平均的ではありますが、ダンジョンに関する知識は豊富です。また、ダンジョン配信についても知識があるので、きっとお役に立てるかと」


「なるほど」


「拙者からも、質問よろしいでござるか?」


「はい。何でしょうか?」


「お2人のレベルとジョブ、ダンジョンの経験歴について、お聞かせ願いたいでござる」


「えっと、私は1週間前に冒険者になったばかりなので、ダンジョンの経験はありません。レベルは5です。ジョブは、一応、『黒魔導士』です」


「僕は2年くらいダンジョンの経験があって、レベルは32です。ジョブは、『格闘家』です」


「ほぅ。カベツヨ殿はダンジョンの経験があるのでござるか」


「はい。と言っても、今の会社に就職してからは、あまり行けていなかったので、2年くらいのブランクがあります。最近、胡桃が冒険者になるということで、久しぶりにダンジョンに潜ったりしているのですが」


「そうでござるか。なら、拙者よりもレベルが高いゆえ、カベツヨ殿がいれば、心強いでござるな」


「いえいえ。ダンジョンはレベルが全てではないですから、小次郎さんの力もお借りしたいです」


 それから4人は軽く談笑し、詳細な配信については後日話し合うことになった。


 ――胡桃とカベツヨが帰った後、朱雀と佐助はバーに残った。朱雀は、神妙な顔でコーヒーカップを置く。


「あの2人、どう思う?」


「胡桃殿はとくに気にならなかったでござるが、カベツヨ殿の方が気になったでござる。彼は何か隠しごとをしているように見えたでござる」


「ほぅ。どうして、そう思う?」


「彼は2年ほどのブランクがあると申しておりましたが、そのブランクでレベル32は高いでござる。だいたい2年もブランクがあれば、30くらいはレベルが下がると言われているゆえ、2年前の彼は、レベルが60くらいないとおかしいでござる。しかし、それくらいのレベルなら、このダンジョンでは有名人のはず。ただ、拙者は彼の名前は聞いたことが無いゆえ、不審に思ったんでござる。むろん、2年前はこのダンジョンにいないので、拙者が知らなかっただけの可能性もござるが」


「それで言うなら、確かに私も彼の名前は知らないね。でも、君も知っているだろう? レベルが高いのにちゃんと報告しない人間を。彼もそういう類の人間かもしれない」


「……確かに」


「ただ、君が言うように、私も彼は怪しいと思う。『格闘家』と言っていたが、本職じゃない気がするんだよね。歩き方を含めた振る舞いが、『格闘家』っぽくないという根拠のない勘なんだけど」


「調べた方がいいかもしれないでござるな。彼の入場記録を調べることは可能でござるか?」


「難しい。このダンジョンでは、入場記録をいちいち記録していないからね。君は、冒険者免許を入場ゲートにかざし、このダンジョンに入った記憶はあるか?」


「……ないでござる」


「だから、電子的に彼の足取りを追うのは難しい。そしてもちろん、人力で記録するなんて面倒なこともしていないから、彼の入出場に関する記録は無いのさ」


「不便でござるな」


「仕方がない。ギルド長が見てきたファンタジーに、ICカードで入出場を記録するなんて描写が無かったのだから。でも、調べる方法が全くないわけではない。自衛隊が入口に設置している監視カメラだ。そのカメラを見れば、彼に関して、何かわかるかもしれない」


「見せてもらえるのでござるか?」


「そっちにもコネはある」


「流石でござるな」


「だから、彼については私の方で調べておこう。とりあえず君は、何も知らないフリをして、彼らに協力してあげて」


「承知」


 佐助は朱雀と別れ、先にバーを出た。そして、壁に寄りかかっている人物を見て、ギョッとする。胡桃だった。胡桃は、佐助を認め、顔が明るくなる。


「やっと来た」


「どうしたでござるか?」


「ねぇ、何でそんな変な喋り方をしてんの?」


「何の話でござるか?」


「飛車成佐助君だよね?」


「はて、それは誰のことでござるか?」


「ふーん。とぼけつもりなんだ。なら、カメラに撮って、地元の友達に送っちゃおう。佐助君が変な喋り方してるって」


「……どうしてわかったんですか? それなりにうまく変装できているつもりでしたが」


「確かに、ぱっと見じゃわからないと思うよ。でも、私は君のこと、ずっと見ていたし」


「え」


「あ、いや、違うよ! あの女をぎゃふんと言わせるためだから。ってかさ、どっか行かない? 久しぶりに会ったし、話そうよ」


「……ダンジョンの外でもいいですか?」


「うん!」


 そして2人は、ダンジョンの外にあるチェーンのカフェへ移動した。

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