未来予知を手に入れたら、イチャイチャしないのが原因で後輩が死ぬ未来が見えた
和鳳ハジメ
第1話/頭の中に何かいる
世の中には未来予知が本当に存在して喧しくしゃべる、と知ったのは高校二年生の秋だった。
それまでの彼、井馬七海(いま・ななみ)の悩みは強いていうなら女の子っぽい名前。
病院の屋上にて青空の彼方を遠い目で見上げていると、頭に直接声が響いて。
『ンンンッ、無反応とは悲しいですぞご主人ッ!! この未来を予知するシステムッ、通称システムさんを無視するとは』
(やっぱ事故の後遺症ってコトで相談するべきかなぁ……でも俺が頭おかしい奴って思われるのも嫌だし)
『ホッホウ? ご主人様は正常! このシステムめが保証しますぞ!! ただご主人様は未来が見えるようになっただけッ! そしてそれをサポートするこのシステムめと話せる様になっただけですぞ!!』
(失明どころか右目そのものが、ぶっつぶれてたって話だもんなぁ……精密検査では脳に傷はなく後遺症もないのが奇跡って言われたけどさぁ)
二週間前、七海は交通事故に巻き込まれて重傷を負った。
頭部を強打、右目は潰れ眼球摘出、幸か不幸か骨折はないが全身傷だらけ。
当然のように意識不明の重体で、目覚めたのが三日前だ。
「空は青いけど、視界が半分ってのはまだ慣れないよ」
ベンチに座ったまま、誰に言うでもなく呟く。
この異常を誰にも話さない理由は、父と母の反応にあった。
彼の両親は、祖父の代から続く小さな中華料理屋・井馬飯店で働いており。
(フツーの時でも結構忙しいってのに、……俺が目覚めて診察受けたとき、妙な反応してたもんなぁ)
死んでもおかしくない事故で、意識不明の重体の息子が目覚めた。
そして、失明した右目以外は問題ない。
だと言うのに、一瞬であるがとても悲しそうな顔をしたのが忘れられない。
『ムムッ、悩んでおられるなご主人! いい、皆まで言わずともこのシステムとご主人の仲は以心伝心!! ――それについては代償、あるいは対価だったと思えばいいのであるぞ。時がくれば戻ってこよう』
(何か知ってるなら、答えを言ってくれないかなシステム?)
『ノンノンッ、それよりご主人!! 新たな未来予知を受信したである!! 場所は屋上の一つ下の階ッ、通りがかったボインで美人の看護師さんがカルテを落としてしゃがむゥ!! ――ラッキースケベチャンス到来!!』
(どうして君はそう、ラキスケ押しなの??)
『フゥ~~ッ! 盛り上がって来たぜェ!! パンチラまで一分! その未来を見せるから、是非とも活用してくれよな! システムさんとのお約束だぜ!!』
(頼むから選択肢くれないかなぁッ??)
最初は病室に入ってくる医者の姿が。数秒前にぼんやりとしたイメージで浮かぶだけだった。
次に隣のベッドの老人が箸を落とすシーン、その次は美人で巨乳な女医の胸のボタンがはじけ飛ぶ瞬間等々。
気づけばシステムは喋っていて、ラキスケを進めてくる。
『ウッシャッ、急ぐんだご主人! 未来予知は欲望のままに使ってこそナンボだぜ!! なーに、本来はそのまま他の誰かがラキスケを目撃するだけですぞ!! それのオコボレに預かるだけ……ハリーハリー!!』
(…………確かに、そう言われると罪悪感は薄れるね)
七海は足早に移動する、パンチラの未来は見えた。
放っておくと美人の看護師さんが、落としたカルテを拾おうとして足を滑らせ転び。
スカートが大きくめくれて、パンチラならぬパンモロだ。
(でも――――、それはダメだ。俺が俺を許せなくなる、見た未来が変えられるって言うなら尚更だよ)
『ンンンッ、なーんと高潔なご主人! でもシステムめとしては、未来予知を悪用して成り上がるぐらい方が面白いというもの!! ま、見えるタイミングも景色も現状は完全ランダムであるからして? だからこそ限られたラキスケを堪能して欲しいのであるぞ!!』
(黙れシステム、別に俺は未来予知なんていらないんだ、誰が未来予知なんて欲しいって言ったよ。でも……見て、変えられるなら少しでも皆で幸せになれそうな方にしたいってだけだ)
妄想かもしれない何かの甘言になど乗っていられるものか、例え本物であったとしても井馬七海は将来井馬飯店を継ぐと決めている。
未来予知なんて必要ない、ラキスケで女性の性的な姿を見るぐらいなら恋人に頼むかエロ本を買えばいい。
――下の階に降りた彼は、周囲を見渡して。
(居たッ! 不味いちょっと離れてるッ)
『残り二十秒ッ、あのマブい看護師とすれ違ってパンチラするにはギリギリであるぞ!!』
(まだ走るなって言われてるけど……ええいっ、少しだけなら平気ってコトで!!)
廊下の端と端、対面に見える看護師は大量のファイルを抱えて運んでいる。
彼女の近くには、お見舞いに来たであろう幼子がはしゃいでいて。
――その幼子との衝突を回避しようとして、バランスが崩れたのだと七海は確信した。
(間にっ、合え――ッ)
幼子に気づき、美人の看護師が進路を少し変える、幼子は前を見ずに走って。
次の瞬間、危険を察知した彼女が足を止めた。
幼子はそのまま走り去って親が追いかけて注意をする、しかし彼女の持っているファイルの束は止まった事でぐらりと揺れて。
「――――――おっと、大丈夫ですか?」
(コングェラッチレイショオオオオオン!! 未来は変わったぞご主人!!)
看護師は己が助けられた事を知って、慌てて礼を告げた。
「っ!? あ、ありがとう……助かったわ危うく落とす所でした。……って、君は確か三階の病室の井馬君だったわね」
「あ、よく俺らの病室に来てくれてる……」
「ふふっ、覚えていてくれて嬉しいわ。そうそう、五分ほど前にお母さんがお見舞いに来てたわよ」
「マジですか? ありがとうございました、すぐに戻ります」
「いいえこちらこそ……あ、ぼちぼち退院とはいえ走っちゃダメだからね」
「ごめんなさーいっ」
未来は変えられた、その事にホッとしながら病室に戻る七海であったが。
ラキスケを逃したシステムは、案の定うるさくて。
『ムムムッ、見損なったぞご主人! あのラキスケがフラグとなって、巨乳看護師ハーレム女医さん付きもあったかもなのにッ!!』
(…………それ、すっごい薄い可能性じゃないの? 限りなく細い可能性でもエロ本展開にしたがるのやめよう?)
『ググッ、流石はご主人……見抜かれていたか。あのラキスケからのハーレムルートは、このシステムめの未来予知範囲の外でワンチャンあるぐらいだったのだが…………つくづく惜しいと思わんかね?』
(俺が思うと思う?)
『はふぅんッ……ですよねーー』
七海はそれとなく感じ取っていた、この未来予知システムを名乗る何かは。
己と他の誰かと恋仲になれるような、そういうラキスケを勧めていると。
――まるで、何かを避けているように。
(君の思い通りにはならないからね)
(ホホホっ? 何のことやら、ささっ、もうすぐ病室ですぞご主人! このシステムめは黙っておきますから思う存分にご母堂と親子の会話に興じるがよろしですぞ!!)
(はいはい、このままずっと黙っててくれれば嬉しいんだけどね)
そうして七海は、母である善子が待つ病室に入った。
母の主な用は着替えと、当然の事ながら彼の様子を見に来た事であったが。
もう一つだけ、今回は用事があったらしく。
「え、佐倉ちゃんがお見舞いにくるって?」
「そうなの……七海が嫌なら断っておくけど……」
「本当にあの佐倉ちゃん? 俺の部活の後輩で、学校一番の美少女だけど変人の、…………うーん、嬉しいけど、俺らそんなに仲良かったっけ? いや、佐倉ちゃんが案外と優しいってコトか?」
「……………………どうするの?」
「いや大歓迎だよ! 他のヤツらはお見舞いに来てくれないしさ、会話に飢えてたんだ。それに佐倉ちゃんって凄い可愛いから大歓迎だよ!!」
「…………そう、七海はそうなのね」
「ねぇ母さん? さっきから反応ヘンじゃない?」
「気のせいよ、アンタは一生目を覚まさないかもってお医者様から言われてたから、目覚めた後からずっと気が抜けてるだけ」
「ごめんね心配かけて、でも、もう平気だからさ! 父さんにも俺は元気だって言っておいてよ」
その後も、母と他愛ない会話をして一時間程すごして。
次の日である、七海は朝から面会時間がとても待ち遠しかった。
佐倉紫苑は部活の先輩後輩の仲でしかないが、抜群の美少女だ。これを期にもっと仲良くなれるかもしれなくて。
――そして彼女が病室に入ってきた瞬間であった。
「………………ぇ?」
視界がぐらりと揺れて夜になる、どこか見覚えのある場所に、佐倉紫苑その人が思い詰めた顔で立っている。
未来予知が発動したのだ、まるで七海自身がそこに居るような、今までにない高い精度と没入感でのビジョンが現れたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます