第3話

報告があったよ。」


そうユースフ兄様が私達に告げたのは、兄弟での話し合いから5日後のことだった。

学院から帰る馬車の中で話をした。


「令嬢が見つかった。」


「そうか、実在したのだな?」


「えぇ、プルメリア領からかなり離れた場所にある孤児院にね。」


「孤児院…。」


「その令嬢の母親はある商会の娘だったみたいなんだが、家から勘当されている。

おそらく、子爵との仲が明るみになったんだろうね。

逃げついた修道院で女児を産み育てていたようだけれど、2年前に病気で他界。

それからはその修道院が管轄している孤児院で過ごしているらしい。」


「そうか。

だけどさ、それだけじゃ子爵の実子とはわからないよな?

いずれ迎え入れるのなら、証拠が必要だろう?」


「ジェイク兄様、証なら彼女を見たらすぐに証明されます。」


「へぇ…。」と微笑むユースフ兄様。


「ユースフ兄様にはすでに報告がいっていると思いますけれど。」

そう言ってチラリと兄を見ると、微笑んだままだ。


「プルメリア子爵家の髪の色はかなり珍しいピンクがかったブロンドです。

瞳の色も薄い色が多く、子爵は空色です。

そして、その令嬢も同じ髪と瞳の色をしていますから、それだけで子爵の実子ということが証明されるんです。

ね?ユースフ兄様。」


「ふふっ。

うん、そうだよ。」


「それも前世の記憶か?」


「えぇ、ゲームのヒロインですもの。

ちゃんと覚えています。」


「これでチェルシーのことを疑いようが無くなったね。

…それでだけどね、このことを両親に隠し通せる訳がないんだ。

私の手の内の者を使っていても、母上が探れば終わりだ。」


「あぁ、そうだろうな。」


「最初は私達だけで探ろうと思ったよ。

でもね、ここまで信憑性が高いのであれば、チェルシーの暗殺も時期が違うだけで狙われているのは確かだと、そう思うんだ。」


「俺もそう思う。

少しずつ違う部分はあるが、根本的な人の相関図は合っているからな。

狙う理由についてもチェルシーの力が邪魔なのか、それが隣国なら力が欲しくて連れ出すこともある。

力でなくて、王子に近い立場というのが気に入らない場合もある。」


「いずれにしても、チェルシーは危ない立場だよ。」


「そうだな。

ここは父上と母上にも話すべきだな。

話した上で、攻略対象者となる者と周辺を探って、危険な人物かどうかを判断した方がいい。」


「お父様とお母様に…、えぇ、そうですね。」


「心配するな。

父上も母上もチェルシーの味方だ。」


「母上が調べていることとも関係しているかもしれないしね。

それに、母上は気づいているだろうし。」


「気づいていらっしゃるでしょうね。

幼い頃に私の頭の中を見透かされましたもの。

お母様の鑑定スキルには叶いませんもの。」


家に帰ると、ジェイク兄様は騎士団へと至急の言付けを知らせるように指示し、ユースフ兄様は偵察に出かけている母に影を使って言付けをした。





執事から呼ばれて食堂に向かうと、すでに家族全員が着席していた。


「おかえりなさいませ、お父様、お母様。」


「あぁ、ただいま。」


「ただいま、チェルシー。

今日は皆で食べましょうね。」


「はい、嬉しいです。」


私が席に着くと始まった夕食。

皆、器用にお肉を切り分けながら、話を始めた。


「話があると聞いたが?」


「えぇ、私も早く帰りたくて、お仕事頑張ったのよ。」


「あの、お2人にチェルシーのことで話があります。」


「まぁ、やっと話す気になったのね?」

そう言うと、ユースフ兄様そっくりの笑顔でニコニコしている母。


「お前達がコソコソ動いていたやつか?」


「父上までご存じだったのですか?

俺の手の者はまだ使っていないのに。」


「あぁ、お前達が領地を遠く離れることがあれば、部下に護衛を頼もうとしていた。」


「あら、あなたも?

私もユースフが支部の者を使っているから、うちの者に張らせていたわ。

いつになったら仲間に入れてくれるのかしらって、とっても楽しみにしていたのよ。」


「…支部の者は気づかれていないと言っておりましたが、やはり張られていたんですね。

それに別に仲間外れにしていたわけではありませんので。」


「だって寂しかったんですもの。

チェルシーが母様じゃなくてユースフを頼るんですもの。

ジェイクにまで話したのに。」


「母上、俺にまでって、どういう意味ですか?」


「ふふふっ。

それで、私の可愛い探偵団はどこまで調べたのかしら?」


「調べたことも知っているんでしょう?」とユースフ兄様。


そんな両親を前に、私はまずは自分のことをちゃんと打ち明けることにした。


「お父様、お母様。

調べていることの前に、私の話を聞いていただけますか?」


コクリと頷く両親。


「私には前世の記憶があるんです。」

それから、ユースフ兄様に打ち明けたように順を追って話し、この世界が前世で遊んだゲームに酷似していること、人の設定はあっているものの少しずつ違う部分があること、そして何より大切なこと。


「私はゲームには出てきません。

小等部で過ごす中で暗殺され、ヒロインが登場する高等部には存在していないんです。」


「チェルシー…、辛かったな。」


「そこまでは私にも読めなかったわ。

あなたが悩んでいることと、あなた達が何を探っているのかだけ。

まさか、あなたの命が関係していたなんて。」

母に抱きしめられた。


「母上、支部の者がそのゲームのヒロインとなる令嬢を孤児院で見つけました。

髪と瞳の色からプルメリア子爵の実子かと。」


「そう。

だったら1度、その子の様子を偵察に行きなさい。

チェルシーが狙われる理由がわかるかもしれないわ。」


「はい。」


「ジェイク、お前はウィロー侯爵の息子と同級生だったな?」


「はい。」


「宰相としての彼は問題ないが、夫人が権力にとらわれているところがある。

王子に最も近いチェルシーを狙う理由にもなる。

息子に近づき、母の様子を探れ。」


「あ…えっと…。」


「出来ないのか?」


モゴモゴとしている様子の兄に、私とユースフ兄様は目を合わせて、笑いを堪えた。

その私達の様子を訝しむ母が、食後のお茶を飲む手を止めた。


「何かあるのね?

チェルシーの部屋かしら?」


「鋭いですね、母上。」


「ユースフ!

別にこれは伝えなくても…。」


「また仲間外れをするのね。

お茶はもういいわ。

さぁ、チェルシーの部屋でお話しましょうね。」


「あぁ、課せられた任務が出来ないなど、許さんからな。」


メイドにお茶を下げるよう支持し、私の部屋へと向かう両親の後を必死に付いていく私達。

そして…。


「まぁ、こんなに詳しい図があるなんて。

もっと早く仲間に入れて欲しかったわ。

これ全部チェルシーが書いたの?」


「前世でこのようになっていたのか。

ん?

この者は騎士団となっているが、知らんな。」


「あの、これから入団するかと。」


「ほう、先のことか。

この名前、覚えておこう。」


「ねぇ、この数字はなぁに?」


これまた兄達に説明したことを繰り返した。

そして両親も持つ疑問。


「ユースフは⑦なのに、ジェイクは対象じゃないの?」


「だが、ここに名前があるじゃないか。」


「あ…これはですね、攻略対象者の元々のお相手といいますか…。」


「は?」

「え?」

両親が揃って驚く。

その横で顔が真っ赤になっていくジェイク兄様。


「あー…、だから任務を了承しなかったのか。」と察した父。

「私は恋愛に口は出さないわ。自由ですもの。」と何故か応援する母。


「すっ、少し頭をよぎっただけです!

決してこのような悪役令息になどなりません。」


「兄上、もしもそうなったら、私が跡取りを作りますから安心して任務を…ね?」


「ユースフ兄様がですか?

少し難しいような気がしますけれど。」


「そうね、私も不安だわ。

リカルド王子に諦めてもらうか、私達がもう1人作るかよね。」


「あぁ、それもいいな。

俺に似た子がもう1人欲しいと思っていたんだ。」


ジェイク兄様を余所に盛り上がっていたら、「俺が継ぐからいいんです!」と怒られてしまった。



この日を境にシスル少年探偵団は、ただのシスル探偵団となった。

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