第24話 望み

「このままどうすればいい?」テンパりながらもワゴン車の運転を続ける高橋は、一度後ろを振り返り南条にそう問いかけてきた、南条はバックドアに座り込み埋め込まれたチップを確認しながら冷静に応えた、「とりあえず今はなるべく遠くへ敵から離れる事が最優先だ」 「全く、今回の任務は予想外ばかりだ」そう呟くと高橋は笑いながら再び運転に集中し始めた、

「一体どうして私なんか襲うとする?」シートに持たれてかなり疲れきった様子の東堂は、ふと、どうして敵の標的とされるのか疑問に思い南条達に問いかけた、しかし南条は答えていいものなのか判断に戸惑った、「南条さん、」その時、咄嗟に青葉が南条の袖に掴みかかった、「青葉、」 撃たれた事により瀕死状態である青葉の微かな視線に眞鍋は小さく頷いた、「教授、あなたが作り上げた開発エネルギーを悪用する人間が存在するんです、狙いはあなたでもあり、あなたの魂でもあるんです」 その言葉に東堂は思わず言葉を失い落胆してしまった、「そんな、私はそんな物の為に開発したのではないぃ!」思わず感情が爆発し南条に掴みかかったその時、「ダダダダダダダ!」突然背後から敵の弾丸がワゴン車から飛んできた、その襲撃によって立ち上がってしまった東堂が標的となり、胸に何発もの銃弾が貫通してしまった、「教授ぅぅぅぅ!」東堂はそのまま胸を抑えながら床へと倒れ死亡してしまった、南条は亡くなった東堂が受け入れられず何度も名前を呼び続けた、「南条さんそこにいては危険です!」畠山は扉を開けて応戦しながら南条に呼び掛けた、「畜生、死んじまったのか」高橋は悔しさを滲ませながら運転に集中した、「奴らは東堂の命もそうだが、狙いは設計図だ、」畠山は必死な様子で南条に言いかけている、南条は亡骸と化した東堂の顔を見つめながら、一つ頭の中で何かを決心した、その時、後ろから一斉に敵の弾丸がこちらへと襲ってきた、「ダダダダダダダ!」ワゴン車のドアには幾つもの穴が開けられた、「クソ、これからどうすればいい!?」高橋はこの危機的状況に南条に問いかけてきた、「畠山、」ふと名前を呼ばれた畠山は、何かと南条の方を振り向いた、「青木を頼んだぞ、」南条は畠山にそう告げると腕時計を見つめながら怪しげな準備をし始めた、「まさか南条さん、リセットするつもりですか!」すると南条は一瞬の迷いなく頷いた、「そんなことをしては危険ですよ!リセットを繰り返し続けると、本来の自分がどこにいるのかわからなくなってしまいます!」しかし南条は畠山の警告に聞く耳を持たず、時計をセットし始めた、用意が終わると南条はふと青葉の方を振り向いた、「南条さん…」 既に青葉の目は弱りきっていた、「青葉、もう少しの辛抱だ、」南条は青葉の手を優しく握り締めた、「もしかしたらお前と会うのはこれが最後かも知れない、フッ、必ず任務をやり遂げて見せる、青葉、」

南条は悲しげな笑みを見せて青葉に別れを告げ、リセットを行うとしたその時、青葉が微かに口を開いた、「娘さんが……あなたの帰りを…待ってます……!」南条は青葉の顔を見つめながら深く頷き返した、やがて立ち上がると、南条は一度高橋に向けて言葉をかけた、「高橋、どうにか12時を過ぎるまで粘ってくれ、」 「あぁ、わかってる、保証は出来ないけどな」南条は高橋の後ろ姿を信じて埋め込まれたチップを押し込んだ。






2011年3月17日、福島県◯◯市、東日本大震災発生から6日後のこと、奇跡的に津波から避難することが出来た私は、被災者が家が津波で流され生活を余儀なくされた、とある中学校の体育館へといた、ふとブルーシートの引かれた場所へ生活する周りの人々を見ると、皆の顔つきはこの先への不安と、家族の一人が行方不明になり絶望した表情をした人々で溢れていた、私は津波で流される前にどうにか手に取る事が出来た、娘と二人で映った写真立てを取り出した、カメラの前でニッコリと笑うその笑顔は一つの災害で一気に失われることになってしまった、私はその現実を受け入れる事が出来ず、ふと立ち上がり、無我夢中で体育館から抜け出した。

変わり果てたあの頃の住宅街は、瓦礫の山が散乱する景色になっていた、私は何も考えることが出来ず、ただ瓦礫の間をとぼとぼ歩き続けた、歩く最中には、懸命に行方不明になった被災者を探す自衛隊の姿が目に映り込んだ、中には既に瓦礫の中で下敷きとなり助からなかった死体が運ばれていく姿は、私の中で目に焼き付いて頭の中で離れなかった、やがて津波が来る前に住んでいた、自宅の敷地に辿り着いた、あの頃の愛しい我が家とは一変した景色がそこにはあった、その姿を目に焼き付け、どこにぶつければ良いのかわからない心の底から浮かんでくる悔しさを滲ませながら、瓦礫の一つを手に取った、じっと握り締める瓦礫を見つめながら、段々と涙が零れ落ち始めた、

「大丈夫ですか?」 突然横から一人の男性が私を心配して言葉をかけてきた、思わず涙を堪えて横にいる男性の方を振り向いた、「この景色は決して忘れてはいけない物です、私はそう感じます」振り向いた先に立っていたのは南条であった、「すみません、私以外にも辛い人は大勢いるのに、ご心配をかけまして」  すると南条は意を決して一言言葉をかけた、「東堂さん、私はあなたを知っています、そしてこの後何をするかも」 「?、何故あなたが私の名前を、」

東堂は見覚えのない男に名前を知られていることに疑問を感じた、「どこかでお会いしましたっけ?」  すると南条は険しい目付きで東堂のもとに駆け寄ってきた、「後でわかりました、娘さんの事は本当に残念でした…」南条は複雑な表情を見せながら東堂に言葉をかけた、東堂は怪しげな男に更に疑問が募った、「あんた、誰だ?」

東堂は娘の事で怒りを露にし始めようとしたその時、洋服のポケットに閉まっていた娘との写真立てを抜き取った、そしてその写真立ての写真の裏に隠していた一枚の紙切れを抜いた、「ここに記載されている開発を今すぐ中止してください!」南条は無我夢中で東堂にそう言い放った、「お前!よくも勝手に娘の形見を奪ったな!」東堂は怒りの余り南条の胸ぐらを掴むと、南条の加尾を睨み付けながらながら怒号が飛んだ、「誰か知らないが、これは、私の、いや娘が私に託した未来なんだ!」    「今その未来が悪用化されようとしているのは、今、この時なんです!」南条は胸ぐらを掴まれているのを何も抵抗せずじっと東堂の目を見つめながら、意思を貫いた、「どういう事だ?」東堂は南条の返した話に耳を傾けた、「いずれ貴方は私と会った日の事を思い出す筈です、その時、貴方は開発を止めてください!」ふと時計を確認すると、11時半の時刻を針は差していた、「畜生、もう時間がない!」

その時であった、東堂の後ろから見覚えのある男の姿が目に見えた、その瞬間、咄嗟に南条は同様する東堂の肩を掴んみ身体を投げ出して飛び込んだ、東堂は南条に押されて横へと倒れた時、目の前に見えたのは、拳銃を構えた斎藤の姿だった、二人が地面へと倒れ込んだ次の瞬間、南条は東堂を庇いながら銃を斎藤に向けて発砲した、そして、同じく斎藤も南条に向けて既に発砲していた、「バン!バーン!」その場は二発のどでかい銃声が鳴り響き、斎藤は右足を撃たれその場に倒れ込んだ、「大丈夫ですかぁぁぁ!」 ふと東堂の方を振り向いた瞬間、突然口から血が溢れてきた、「ブッハァ!」気がつくと南条はその場から倒れ込んでしまった、「しっかり!救急車、誰か救急車を!」微かに見える時計の針は間もなく12時を差し込もうとしている、助けを呼ぶ東堂の腕を握り南条は一言言葉を投げ掛けた、「……!」 東堂は咄嗟に頷いて、助けを呼びにその場から走り出した、「あとは、信じるだけ…」時計の針は12時を差し込んだ。

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