第18話 かつての敵、かつての仲間

突然の列車内からの銃声に南条はすぐに音のした方へと振り向いた、振り向いた先に見えたのは、ドアの窓の中に映り込む拳銃を構えた青葉の姿だった、「まさか本当に撃っちまうとはな、まんまとやられたもんだ」座り込む佐竹の手には赤く染まる血がついている、青葉が放った銃弾は僅に佐竹の左肩へと命中し、大きな致命傷を与えることが出来ていた、「参ったな~、」佐竹は冷静な口調で呟きながらこの危機的状況を打開する策を考え始めた。「青葉ぁぁ!仕留めたのか?」南条は慌てた様子でこちらに駆け込んできた、「そこから動かないで下さい!まだ佐竹が生きている可能性があります」青葉も焦っている様子で南条にそう言い放った、すると次の瞬間、ドアとドアの繋がる廊下に身を隠していた佐竹が突然、南条のいる方のドアを勢いよく開き拳銃を向けてきた、そして次に佐竹は躊躇なく南条に向けて引き金を引こうとしたのを南条は咄嗟に拳銃を持っていた佐竹の片腕を掴んで、銃口を人のいない方へと力づく抑えつけた、すると、「バン!バン!バン!」佐竹は南条に抵抗を受けていても臆することなく壁へと発砲した、「グギュゥゥ!」お互いが今ある全ての気力を振り絞って片腕を掴みあっている、そんな状況のなか青葉は慌ててドアを開けると、目の前で横たわっている少女を見つけてすぐに抱き抱えようとしたその時、抑えつけていた佐竹の片腕が青葉と少女の方へと銃口が向けらてしまった、「そこから離れろ!」南条は抑えつけながら必死な顔で叫んだ、「はぁ…」青葉は一瞬そのままの姿勢で立ち止まったものの、一度大きく息を呑み込むと、すぐに少女を抱き抱えた、「ウオォォォォォォォォ!」必死に南条は佐竹に撃たせないよう指を抑えつけるも、佐竹もこれまでに見せなかった叫び声を上げながら引き金の所まで僅に迫っていた、二人は残りの気力を全て出しきるかのように叫んだ、そして、「バーーーン!」どでかい銃声と共に拳銃が発砲した、青葉はふとゆっくり目を開けると、目の前に映った光景には佐竹の片腕を掴み床に体を抑えつける南条の姿が映り込んだ、佐竹が放った引き金はほんの微かに青葉達の横を通過したのだ、後ろを振り向くと大きなひびが広がるガラスの中心で弾が埋め込まれている状態のドアが映り込んだ、「もうあんたの邪魔はさせないぞ、」南条はそう警告すると銃を取り出し佐竹が抵抗しないよう背中に突き付けた、「南条さん、こいつには聞きたいことがあります、まだ殺さないで下さいよ?」青葉は心配そうに南条の話しかけると、すぐに青葉は佐竹に問い詰め始めた、「どうして設計図をこの列車で奪おうと計画していたのを知っていたんだ?」

すると佐竹は焦りを見せる様子はなく、青葉の顔を見上げると又あの不適な笑みを見せてきた、「知ってどうする?俺を始末すればいい話だろ」


「違う!この計画を伝えているのは私と南条さん、そしてTIMEの人間だけだ、だがお前を雇っている人間はこの事を普通知ることは出来ない」するとその青葉の発言に南条は動揺し始めた、「まさか、青葉それって!」

「この男を雇っていた人間は仲間の誰かという事だ」。



しばらくの間、列車の廊下内では南条と青葉は状況の理解に戸惑いを見せていた、「とにかく今は設計図を奪わないと意味がない」頭を抱えていた青葉に冷静さを取り戻そうとそう呟いた南条は銃口を佐竹に向けたまま立ち上がった、「やばい、急がないと脱出出来なくなりますよ!」二人が佐竹に目線を外していたその時、床に這いつくばっていた佐竹が突如体を仰向けに変えて、こちらに向けていた銃を奪ってしまった、「しまった!」南条が動きに気づいた時には佐竹は南条の腹部を蹴り上げ、そのままの勢いでロバートが眠る一号車へと走り出した、「止まれぇぇ!」走り去ろうとする佐竹に咄嗟の判断で青葉は引き金を引いた、「バン!バン!」二発撃ち込んだ弾は、一発は壁へと当たりもう一発は南条がゼインと争う時にガラスを割った穴をすり抜けてロバートが乗せた網棚の荷物へと当たってしまった、佐竹はそのまま臆することなく走り抜けた、「大丈夫ですか南条さん!?」  「先に行け!」南条の言うままに一号車へと走り出そうとしたその時、佐竹が向かっていった一号車から突如爆発が起きた、突然の爆風により青葉は思わずその場から飛ばされていった、「ドーーーン!」前からは炎と黒煙が南条達の方へと襲ってきた、「ゴホ!ゴホ!」マスク越しからも煙の影響は出ていた、前には倒れた状態の青葉、列車の外を見ると広い海が差し掛かっていた、「行くしかない!」意を決して炎の奥へと走り出そうとしたその時、南条の足が突然止まった、流れ込む煙の間から何故か死んだ筈の妻が立っていた、「どうして君がここに」ふと目を閉じ、再び目を開けると妻の姿は忽然と消えていた、「ヴ、ヴウァーーー!」すると爆発した一号車の方から呻き声のような物が聞こえてきた、慌てて我に返った南条は何も考えることなく炎中へと飛び込んでいった、一号車から中はまるで炎の海のように赤く染まり、そして身体中から灼熱の熱が南条を襲ってきた、「クゥグゥゥ!なんて事だ」辺りをよく見るとさっきまでガスによって眠らされていたロバートやボディーガードらが深い火傷を負って倒れており既に死亡していた、ふと一番燃え上がっている荷物に不審を抱いた南条は荷物の外に張られているカードに目を向けた、カードに書かれていたのはまさかの小麦粉であった、「小麦粉で爆発が?」南条は燃え上がるロバートとの死体をみて衰退していると、「ヴゥァァ、!」突然後ろから先程聞いた声が聞こえてきた、恐らく声の主は爆発する寸前に一号車へと飛び込んでいった佐竹であると南条は咄嗟に判断した、そして後ろを振り向くと、南条の予想通り瓦礫に潰れて血を流している佐竹の姿があった、「あんたひどい様だな、」南条はふと佐竹を視線から離すと炎の中でUSBを探しながら佐竹に呟いた、佐竹は重症を負いながら自分の力だけでは抵抗することが出来ない不甲斐なさに思わず鼻で笑った、「俺に話しかけていると時間が間に合わないぞ、グフゥ!」すると佐竹の口から血が吐かれた、 「!、やっと見つけた」南条は炎の中でようやくロバートが隠し持っていたUSBを見つけ出すことが出来た、USBを握り締めすぐにその場から去ろうとしたその時、一度倒れる佐竹の前で何故か立ち止まった、「グゥ、何してるんだ、このままだと間に合わなくなるぞ?」佐竹は弱りきった目で南条の顔を見つめた、南条は何故かすぐに立ち去ろうとせず、じっと佐竹の顔を見つめていた、「フッ、お前の仲間を殺した男の最後を哀れに傍観したいのか」佐竹は出血を止めながら南条にそう言い放った、すると遠くから南条の名前を叫ぶ青葉の姿が見えた、「南条さん!早くしてくださいもう本当に間に合わなくなります!」時間が経ち何とか目を覚ました青葉は、既に脱出地点のチャグレス川を列車が走っていることに焦りを感じて、咄嗟に南条の名前を叫んだのだ、「早く逃げたらどうだ?」すると南条はようやく佐竹に向かって口を挟んだ、「本当なら今すぐここでお前を撃ち殺してやりたいよ、あの時、目の前で仲間を殺害した時のように、脳天になぁぁぁ!」南条は抑えていた感情を露にして銃口を佐竹の頭部に突き付けた、「さっさと引き金を引け!!」佐竹は南条を睨み付けて突き付けられている銃を手で抑えた、「今ここでやっやてる、」南条は覚悟を決めたかのように雄叫びを上げると、次の瞬間引き金を引いた。







「カチカチ、カチカチ」ふとゆっくり目を開けた佐竹は状況が理解できなかった、佐竹は銃を突き付けられていた南条に肩を貸されて、黒煙の中車両を抜け出していた、佐竹は気力を振り絞って南条の足についていった、「青葉!まだ間に合うか?」   「もう時間がありません!躊躇せず飛び込んで下さい」青葉はそう言い終えた瞬間、川へと飛び込んだ、南条はグッと佐竹の腕を握り締め横を覗いた、もうスピードで走り抜ける列車は間もなくトンネルの中へと入っていく、覚悟は出来た。次の瞬間、南条は佐竹と共に列車から川へと飛び込んでいった。

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