第15話 理想郷

月が光輝く東京のとあるビルの屋上で、ある人物は携帯で通話をしながらその場所を訪れていた、「今日は月が綺麗ですね、そちらでは美しい月は見えにくいでしょう」

「そんなことより、計画はどうなってる?」屋上で話している人物の通話相手は現官房長官を勤めている木山だった、「安心してください、彼らは必ず役目を果たしてくれるはずです」木山は電話越しから不安げな声をかけるが、それを気にすることなく屋上にいる人物は、月を見上げながら大丈夫だと言い続けた。




三日後の午前9時、南条はパナマ市の駅へと足を踏み入れていた、駅の中を歩きながら南条は緊張感を隠し、目的地のホームへと向かっている、歩き続けている最中で南条は夕べの事を脳裏に思い出していた、「ロバートは用心深い奴だ、奴にUSBの事を話すと不審に思われるかもしれない」早朝の朝から南条と青葉はリビングのテーブルに集まり話をしていた、南条は椅子から立ち上がり険しい顔を浮かべながら彷徨いていた、「なぁ、南条さん、当てになるかどうかわからないが策は一つだけある、」青葉のその言葉に南条は驚きを見せ、どういった策か青葉に問いかけた、「聞かせてくれ」すると青葉は突然椅子から立ち上がり、奥の個室へと去っていた、「これを使うんです」青葉は部屋からとある長方形のスプレー缶を持ち出し、テーブルの上にスプレー缶を置いた、「なんだこれは?」すると青葉は冷静に説明をし始めた、「これは催眠ガスです、これを使って列車内の換気扇に催眠ガスを流し込み、乗客が眠っている間にUSBを奪い取るんです」そう話した青葉の策に南条の心情は期待と不安が入り交じった、「それは上手く行くのか、どうやって流し込む気だ?」 「催眠ガスは私から機関士にお願いして、張れにくい後列の車両でどうにか流し込んでおきます、南条さんにはあらかじめガスマスクが置いてある場所を伝えておきます、」青葉は止まることなく話し続けた、「鉄道が走り出して、モンテリリオ橋を通過した時点でガスを流し込み始めます、ロバートがいるであろう二号車にガスが運び込まれる前にどうにかマスクを装着しといて下さい」 「負担がでかいな、」南条は気分をほぐすためにコーヒーを飲みだした、「だが青葉、USBを手に入れたらどうするんだ、列車は終点駅のコロサル旅客駅まで止まらないぞ、もし終着時点で敵が起きたらどうするんだ?」不安げにそう問いかけると、青葉はニヤリと苦笑した笑みで応えた、「無茶かもしれませんが、モンテリリオ橋を通過した数分後に、チャグレス川という川が通ります、そこで」

「まさか川に飛び降りろというのか?」南条は焦りながら青葉の話を遮って突然そう言い放った。

突然ふと駅のホームで足を止めた南条は、奥の方でスーツ姿の男達が囲っている光景が見えた、「あそこか、」南条はすぐにロバートだと判断し、駆け足でその場所へと向かった。





「Pronto partirá el tren a Balboa、(まもなくバルボア港行きの列車が発車します、)」各列車内に設置されているスピーカーから運転士のアナウンスが流れてきた、南条は列車に乗車後ロバートと向かい合わせになるかのように特別シートへと座らせらていた、さすがは闇商売のドンであるロバートは、列車の先頭車両をほぼ貸し切った状態でボディーガードと共に乗車したのだ、南条はロバートとの権力の強さに驚かされた、そんな事を考えている間に列車は大きな汽笛を上げて動き出した、「君の優秀さに驚いたよ、まさかあのブラックから設計図を奪い返し、さらに始末までしてくれるとは、お陰でこれからの取引がしやすくなったよ」ロバートは満足そうな表情を浮かべながら列車内のドアに立っていたゼインにワインを用意するよう命じた、ゼインはすぐさまドアを開けて廊下へと出ていった、「早速だが仕事の話をしよう、」急なロバートの話しに南条は咄嗟に振り向くと、ロバートは異様な目付きでこちらを見つめながらシートに背中をもたれた、「この列車の終点地に私が新たに設計した爆弾が運び込まれてくる、だが未だ試作品の段階であり完全体ではない、どこかで試す必要がある」   「その爆弾を俺が発動させると言う事か」 「その通りだ、」やがてロバートはこれまでに見せなかった裏の顔を露にしてきた、「爆弾を起動させる場所はロシア首都であるモスクワだ、」ロバートはそう言い放つと南条はあの日のことを思い出した、最初の任務でムシーナを食い止めた筈が、今度は自分がテロ行為を行うとしている、「あんたはどうして自分の作った爆弾を公の場で起動させたいんだけど」南条はロバートとの計画を探るため率直な疑問を問いかけた、しかしロバートはすぐに応える事なく列車の窓を眺め始めた、「君に知る必要はない、ただ仕事を果たしてくれるだけでいい」ロバートは冷めた口調で南条にそう話した、「お互いに理由を確かめ会えないと、今後の取引がしにくくなる、こっちは命からがら設計図を取り返したんだ、知る権利はある筈だ」南条はじっとロバートの顔を見つめながら強い口調で意見を述べた、するとロバートは少し動揺した顔を見せた、「仕方ない、訳を話そう」。





その頃、列車の6号車に乗車していた青葉は一度腕時計で時間を確かめると、計画の準備に乗り始めた、すぐに催眠ガスが含まれているスプレー缶を満帆に詰めた黒いボストンバックを持ち上げ座席から立ち上がった青葉は、車両から出ていき列車内の狭い廊下へと立ち止まると、その場にしゃがみ込み閉まっていたバッグのチャックを開けた

、中が開かれると青葉はすぐに一つのスプレー缶を取り出した。




「私は新たな国家を作り上げたい、その為には威力を知る必要があるのだ!」南条はしばらく驚きを隠せなかった、ロバートは淡々と爆弾を起爆する理由と、自信の目的を語り続けていた、南条はそのロバートとの話す無謀な計画を必死に耳にした、「どういう事だ?新たな国家、あんたは何を言ってるんだ」咄嗟に出た南条の発言にロバートは睨みを効かせた、「今この世界は混乱な世の中に陥っている、戦争が終わり皆が知らない所で今でも争いは続いている、平和な意識に惑わされ裏では人が人を傷つける世界には、もううんざりしている!」   「それはあんたも同じだ」    「わかるだろ、世界有数の強国には核は今でも保有されている、国家に核があることで世界に屈することはなく、理想郷を造り上げることが出来る、その為には躊躇などしない」じっとロバートは南条の目を見つめながら長々と語った、やがてその場の空気は妙な緊張感に包まれた、「あんた中々狂ってやがるな、」ふと列車の窓を振り向くと、列車は等々モンテリリオ橋へと入り始めた。

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