異世界生活・8日目

早いもので、私がこの教会へ来てから8日が経ちました。一週間でずいぶんと慣れた気がしますね。ずっと気を張っていたのだと思います。なんと、熱を出してしまいました。


「大丈夫かい?」


マーサさんがお水を持ってきてくれました。いつも飲んでいるお水なのに、甘くて美味しいお水です。身体に清浄な力が染み渡るような…そんな心地がしました。


この世界では、薬は貴重品です。その代わりになるのが薬草類。漢方薬のようなものですね。漢方薬と違うのは、生の葉っぱをお茶のように煮出して飲む事でしょうか。これがとても苦いのです。


そういえば、異世界系の小説では錬金術師だとか薬師なんて職がありましたね。この世界にも居るのでしょうか?私にもそのような知識があれば良かったのに。もしくは魔法で人々を癒やすことが出来たなら。

そんな夢のような話、流石にありませんよね。


熱のせいでしょうか。普段なら考えないような事が次から次へと出てきます。

うまく思考がまとまりません。まぶたが重くなり、そのうちすっかり寝てしまいました。


目を開けると、真っ白な花畑に立っていました。私はその花畑を歩いています。

すると、目の前に美しい一人の女性が現れました。神話に出てくる女神様のような人です。

その人はニッコリと笑って、手招きしていました。その人に付いていくと、花畑の真ん中にガゼボ…東屋があります。その中にある椅子へ座るように促されました。


『お茶はいかが?』


そう言われ、素直に頷きます。何故かそうするへきだと思ったんです。ふとテーブルを見ると、いつの間にかお茶が用意されていました。ボンヤリと、そのお茶を頂きます。ほんのり温かく美味しい紅茶です。


『貴女が望むのはなぁに?』


そう聞かれました。

望み…?何でしょうか。そういえば、薬草が苦くて飲むのが大変だったのですよね。お湯で煮ただけですから薬効も低いでしょうし…。もっと、孤児院の子どもたちにまで苦くない薬が手に入れられると良いなと思いました。もちろん、魔法も使ってみたいですが品物なら、私だけでなく他の人にだって用意できるようになるでしょう。


「私に優しくしてくれた人達のためになるような事がしたいです」


そんな風に答えたと思います。

もしかしたら、元いた世界に帰りたいと願えば叶ったのかもしれません。ですが、その時の私にはその考えは全くありませんでした。

女性はニッコリと微笑んで


『貴女が望むものを用意してあげる。だから……をよろしくね』


そう言うと、周りが真っ白になっていきました。その後は覚えていません。気が付けば三日ほど経っていました。

熱はすっかり下がって、熱が出る前よりも心なしか身体が軽い気がしました。


夢のこともうろ覚えで、私の目が覚めた事を知ったご近所さん達や、孤児院の子供たちが大勢お見舞いに来てくれたので、夢の事はすっかりと忘れてしまいました。


そうして、さらに一日お休みを頂いた私はすっかり元通りになりました。

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