第2話

私が小学校に入学すると、お兄ちゃんがいかに学校の人気者なのかを肌で感じる事となる。


小学五年生となっていたお兄ちゃんは、毎朝早く学校に行ってサッカーをしているが、その応援をする女の子の多い事多い事。

母譲りの大きな瞳に卵形の輪郭、父譲りの通った鼻筋、意志の強そうな口元は見る者を魅了し、学年問わず人気があるようだった。

男の子だって例外ではない。運動神経が良くてサッカーが得意なお兄ちゃんと、皆んなが一緒にサッカーをやりたがる。

「陽平がこっちのチームに入ってくれれば勝利間違いなしだから」

と、いつもお兄ちゃんの取り合いをしていた。


「え、あの子が陽平君の妹なの?」

「全然似てない」

という心無い声も聞こえないわけでは無かったが、それよりもお兄ちゃんの妹である事が何より誇らしかったので、外野の声は全く気にならなかった。

だって、皆んなの人気者のお兄ちゃんは私に一番優しいのだから。

私が一言「お兄ちゃん!」と呼べば、試合中でも笑顔で手を振ってくれる。

皆んなの羨望の眼差しを一手に浴びて、私は鼻高々だった。



小学校に入学すると、早速私は絵画教室に入った。勿論、ママの反対の憂き目にあったが、パパとお兄ちゃんが説得してくれたのだ。

「週2で塾にも通う」という約束の元。

塾はつまらなかったけれど、絵画教室は楽しかった。毎日でも通いたいほど楽しかった。

絵画教室の先生は、どんな些細なことでも

「美和さんはとっても上手ねぇ」

と、褒めてくれたから、余計だった。

パパもいつも「この色使いがいいね」

とか、

「この線はとっても綺麗だ」

と褒めてくれたし、私が望めばスケッチブックでも高い絵の具でも何でも買ってくれた。

ママの小言も苦々しい顔も、絵に没頭してれば無視出来た。

私はパパの顔を描き、お兄ちゃんの顔を描いた。ママの顔も何度か描いたが、どうしても怖い顔になってしまって、結局一枚も渡す事は無かった。



話は戻って、お兄ちゃんについて。


そう言えば、こんな事があった。

「一段目からジャンプして降りて、一番高い段からジャンプ出来たやつの勝ちね」

学校の階段を使った、いわゆるチキンレース。

「いいよ」

お兄ちゃんは簡単にそれに乗った。

「陽平君、大丈夫?危ないよ」

皆んなや私の心配をよそに、なんと兄は初っ端一番上からジャンプしたのだ。

「きゃー!」

私を含む見ていた者は皆、悲鳴を上げたが、お兄ちゃんはどこ吹く風で全然へっちゃら!という顔でVサインまで決めた。

この話を聞いたママは真っ青になってすぐさまお兄ちゃんを病院に連れて行った。結果、どこにも異常なし。

さすがのママも泣きながらお兄ちゃんを叱っていたし、担任の先生からも長ーいお説教をされていたけれど、学校ではお兄ちゃんはヒーロー扱いだった。

「さすが陽平」

と、皆口々に言った。


優しくて、運動神経も抜群で、成績も優秀。そこに〝勇敢〟も加わったのだから、向かうところ敵なしだった。




中学校に行っても。その名声は下がるどころか上がり続けたのだった。















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