第36話 犠牲

 空間を一度消去して町につなげる魔法は、どうにか成功した。ただ、これをどう閉じればいいのか。


 まぁここには看板を立てておけば入るバカは中々いない…かな。私なら入るかもしれないけど。


「…なんか、さっきよりも酷い有様じゃない?」


 向こうに行って帰ってくるまでに少なくとも2時間は経ってるとはいえ、こんな短時間でなぜもっと酷くなった?


 足首の辺りまで周りが隆起している。さっき平らにしたばかりだというのに…


「あのドラゴンしっかり見てたのかな…おーい、ドラゴーン」


 …いない。空間認識をしたらいくつか気配は見受けられるけど、全部あのドラゴンのものではない。ただ、地下に気配がある。


 地面に足を叩きつける。靴に強化魔法をかけ、また全力で足を振り下ろす。強化魔法してなかったら足の骨はポッキリ折れてたかも。


「穴…こんなに広く?」


 覗き込んでも奥が見えない。光魔法で照らしてみても、どうやら幻術がかかっているのか、深くは見えない。


「…そういえば、私水を大量購入したな」


 バックの中には、かなりの量の水が入っている。全部の蓋を開けて、水魔法で一箇所に全てを集める。


 ちょうどいいから周りの水も全部集めた。


「水魔法展開、『滝』生成」


 穴の上に滝を作り、穴を満たしていく。そろそろ満杯になりそう…もし中に人がいたら申し訳ないね。思ってないけど。


「…おい!!何してくれ……ティーナ・エフェクター!?」


 おや新キャラ。…見知らぬドラゴンが2匹出てきた。びっしょびっしょに濡れたそいつらを一瞥し、声をかける。


「ねぇ、この穴の上に隆起した土とか岩があったってことは…隆起させたのお前ら?面倒なことしてくれたよね、ホント。」


「ちげぇよ!!よく見ろ、俺は水属性だしそいつは炎属性なんだからそんなことできねぇよ!」


「ふーん。じゃ、なんで地下にいたの?」


「地下に避難壕があんだよ。穴の数だけ避難壕が…」


「あーじゃあ水でやったの間違い?…じゃあさ、城付近にあった穴も水で満たしちゃおっかな?」


 知らない人が聞いたらサイコパスみたいだよねー。実際は違うんだよ、城の奥深くに一つだけとんでもない大きさの魔力があった。多分そこに犯人がいる気がする。


「嫌なら犯人の名前と…リュークの居場所を言え、バカ共」


 最後絶対余計な一言だったわ。怒らせたかなぁ…仕方なくない?こんな時に弱気にでちゃだめだし。


「そんなん知らない、この水を出すからどけ」


「…さーん」


「は?」


「にーい、いーち」



「…ゼーロ。」


 風魔法、大地魔法展開。風魔法『雷鳴』、大地魔法『促成』


 しかし、ドラゴン2匹は逃げて行った。流石にもうちょっと手加減するべきだったか?いやいや、私は どうせやるなら全力で の精神だからそんなことしないけど。


 ドラゴンの走っていく先に、私が作ったあの異空間魔法の裂け目があった。


「待って!!」


「待てと言われて待つと思うか!」


「そうじゃない…!」


 あの魔法の使用条件は、作った時と同じ魔力量でその魔法を使うこと。もちろん彼らはそんなこと知らないんだから、一体どんな代償が降るか…


 魔法を使い、その裂け目に入る。薄目を開けただけでわかる。こんなに、醜い最後を迎えただなんてね。残念だった…



 …手も足も、首も何もかも、それらが全部バラバラにくっついている。ところどころ赤い肉が出ていて、まるで見るに耐えなかった。


「…たす…け…はんに…ん…ど…」


「…助けられない、この魔法は私でさえまで全貌を理解していないのに…ごめんなさい、私が…甘かった。あなたたちの体を再編成する力なんて、持ってないから」


 自分の体がバラバラになった感覚は一体、どれほど気持ち悪いものだろう。


 王宮にそのままおいておくわけにはいけない。どこか、遠いところに運ぼう。海にでも落としておけばそのうち爆発して消えるかな…


「…犯人の名前、もっと早く言って欲しかった。」


 それに、あの赤いドラゴンはどこだ?あんなことが起きたこと、言いたくはないけど言うしか無いし。始末書レベル…いや、下手したら犯罪レベルの事件を起こしてしまった。


 気分が悪いものを見てしまったものだね。


「城の方の穴、あれも見に行かないといけないのに…益々面倒だよ、このドラゴンの町は。」


 これが終わったらデザートを沢山買わせよう。王宮の奴等と…クソドラゴンどもにももちろん。


「…風魔法展開『浮遊』」


 これがあるなら箒はいらないわけじゃないよ?こっちはずっと地中深くも見渡しつつやるから超消耗する。比べて箒は全くと言って良いほど魔力を消費しない、飛ぶのに特化してるから。


「いた…」


 いやなんで?なんで普通の民家の下に埋まってんの?わけわからん、まさか死んでないよね?


「おい、起きろドラゴン。顔踏むよ?まじで。」


 …脈はあるか。生きてるなら別に良いんだけど、他のドラゴンの体が地面に埋まってたりして、これまた魔法を使う必要があるみたいだ。

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