第29話 何かできたのかな

 暫く呆然としていると、精霊姫が抑えきれなくなったのか…たくさんの子供が出てきた。


「ママ…?」


 聞き覚えのある声だった。あの水の精霊の子供だ。母親の服であろう布の前に立ち尽くしながらも、周りを見回している。


「ね…ぇティーナ、様…ママ、は?みんなは…?」


「…ごめん、護るって言ったのに」


 子供は目に沢山の涙を溜めた。胸が締め付けられたかのように、呼吸が苦しくなってきた。


 体がどんどん冷たくなっていくのを感じる。この景色を目に入れていたくない。私は振り返って、早足で歩いた。


「ティーナ…」


 コリンの声を聞こえなかったフリをして、私は銀の杖を握りしめた。


 いつまでも冷たい杖は、今にも折れそうだった。




「ただいま…」


「おう、おかえりティナ。…ゆっくり休めよ」


 深くは聞いてこないキリさんに、一体私は何度助けられたのか。あの日だって、確かそうだった。


 銀の杖を立てかけて、エリカの花に水を霧吹きでかけた。ネックレスもドレッサーに置いて、服を着替えてすぐに眠ってしまった。




 まぁ、私がどうして2年間も閉じこもってたかと聞かれたら、それはそれは簡単な話だ。


 そう、三年前…初めて学校に行った日から、すでにおかしかったんだ。



「ティーナ様!この問題教えて?」


 学校での授業は、基本的にCクラスで行っていた。魔法学なんてするのは初めてだったけれど、天性の才能だったのか、すぐ身につけることができた。


「もちろんいいよ!えっとね…」


 学校にも馴染むことができた。元の世界に帰れないって気づいた時は悲しかったし、ビックリしたけど…まぁ、上手いことできている。


「でも、どうしてみんな私のことティーナ様って呼ぶの?」


 そういう文化なのかなとも思ったけれど、周りの人はどうにも違うらしく、前から思っていたことを軽く疑問に思っただけだった。


 けれど、それを口にしたのが間違いだった。


「え?だって史上最高の稀代の魔女様の娘で、さらに紫の髪と緑の瞳なんだもん!

 次代の稀代の魔女様を敬わないわけにはいかないじゃん!」


「…え?」


 まぁ、よく考えたら当たり前だった。


 どの世界にも、固定概念っていうのはあるもので。特にこんな風に、学校でも習うようなものの中に、髪や瞳の色によっての記述があったら…


 それが何百年も前からなら、髪や瞳が珍しければ敬う。これが普通で、一般常識だったから。


 当時の私は、これを弁えていなかったから辛かったんだと思う。


「じゃあ、クラス委員長は…」


「はいはーい!私やりたいです!」


「えー?やっぱティーナ様でしょ!」


「あ…そう、だよね。冗談冗談」


「それでいい?」


「…うん」


 どの場所にいても、私は勝手に立場が上の人間として扱われていた。…もしも、この頃から魔法が上手く使えていたなら…


 こんなこと、考えなかったのかもしれない。


 

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