第28話 どこにもいない

 世界樹様は、精霊の森で最も尊いと呼ばれている。


 精霊姫を経験し、先代の世界樹が亡くなるというのが条件で、世界樹様になる者が現れるという。


「コリン、そっち毒沼。」


 結局、毒沼があちこちにできたのも、森がおかしくなったのも全部水の精霊たちの影響だったらしい。


 森の中の水源がみな腐ってしまったのだから、当たり前なんだけれど。


「あっ!ティーナ様!」


「ん…?水の精霊の子供…」


 やっぱり子供は無事だった。私のもとへ駆け寄ってきて、私に笑顔を見せてきた。


「ねぇティーナ様、森で何があったの?ずっとおっきい音が聞こえてきて、怖かった…」


「そうだよね、ごめん…うん、他のみんなはどこ?」


「世界樹様の中だよ!…あっ、青髪のお兄ちゃん。元気になった?」


「おう。ありがとうな」


 世界樹様の中なら一安心かな。確実に他の子も怪我一つしていないだろう。それに、精霊姫がついていたんだし。


「お久しぶりです、世界樹様」


 世界樹様からの声は聞こえない。


 世界樹様の中にはたくさんの子供たちがいた。親元に返すのは一苦労だなぁなんて思いつつ、私はコリン、精霊姫と共に子供を誘導した。


「そろそろ着くよ。コリン、人数は?」


「大丈夫、全員いるよ」


 そうコリンが口に出した途端、大きな爆発音と、悲鳴が響いた。それは子供たちの耳にも届いたようで、不安そうな顔でお互いを見合わせていた。


 それに、明らかに精霊の足音ではない音がする。


「精霊姫、子供たちをお願いします。コリン、行くよ」


 本当は面倒なことに巻き込まれたくないけれど、胸騒ぎがする。このままにして戻ったら、絶対にだめだ。


「我々は王都より派遣された魔術団である!王女と陛下のご命令により、水の精霊を排除する。」


 見えた景色は、地獄絵図だった。風の精霊は抑えられ、水の精霊は次々に殺されていく。


 魔術団は逃げ惑う水の精霊に雷を加えまくっている。


「ねぇお前ら何してんの?」


「!?てぃ、ティーナ・エフェクター…いえ、任務を」


 どもりながらも冷静に答える魔術団に、コリンが拳を一発喰らわせた。それによって一人が倒れたものの、魔術団は全く攻撃を止めない。


「ティーナ。魔術団の妨害は禁止じゃぞ?」


「王女…なぜ、こんな」


「ふん、我が国に仇をなす者は即刻処分じゃ。」


 次々に殺されていく水の精霊を前に、私たちは何もできなかった。先ほどまで敵同士だった風の精霊も水の精霊を助けてくれと懇願している。


「排除完了、王女様、戻りましょう」


「うむ。またなティーナ」


 そう言って、風の精霊たちと私とコリン以外、何もいなくなってしまったその広場で、多くの精霊は涙を流していた。


 私は頭が真っ白になった。

 

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