第2話 謁見の間と学園

 王城というのは、いつまでたっても恐ろしい思い出しかないから嫌いだ。

 近くに降り立つと、門番が私に一礼をして扉を開けた。

 レッドカーペットの質感は少し好きだ。フワフワとしている所を歩くのが好きだから。

「お久しぶりでございます、国王。ティーナ・エフェクターです。」

 テンプレートの様な言葉を紡いだ後、顔を下げて礼をした。

「顔を上げよ。そなたの美しい瞳が見えぬ」

 そう言われ、顔を上げた。目に入ってきたのは赤い髪と金色の瞳をした若い男性だった。

 燃えるような赤髪に縁取られた整った顔の中に、金色の宝石が輝いているようにみえる。

 後ろから声がかかる。

「久しいな、ティーナ。兄様、妾は髪の方が好きじゃ。おとぎ話でもあまり見ぬ色じゃ。」

 桃色の髪と、黄緑の瞳を持つその女性は、私より1つ年下の姫だ。

「あー、そうだな。そう、ティーナは何故ここに来た?」

「2年もお休みを頂いてしまいましたが、学園に復帰したく参りました。」

 淡々とした会話のあと、書類にサインすると私の復帰が正式に決まった。

「ふわぁ…余りにもつまらない話で妾は眠とうなってきた」

「姫は悪夢で眠れていないんだ、許してやってくれ。…そうだ、ティーナ」

 突如として真剣な顔になった王を見て、私も姿勢を正す。

「稀代の魔女候補が少しずつ選ばれ始めている。ティーナも良かったら目指してくれ」

 そう告げられた。稀代の魔女…それは特殊な魔物との唯一戦闘が出来る強さを誇る、国一の魔女の証だ。

 一緒に渡された紙には、Aクラスと書かれている。これは陛下なりの私への贔屓だ。

「では、精進してくれ」


 王城から出ると、大きなため息が出た。キリさんとばかり話していたから、久々の他人との会話に怖がっていたけれど、案外どうにかなってしまった。

「まぁそうでないと困るんだけど」

 と、呟いて私は王城を去った。海を渡らなくては行けないのでまぁまぁの距離だ。


「ティナ、帰ったのか?」

「ただいまキリさん…これ本当疲れたよ」

 キリさんの顔を見ると安心するなぁと思いながら王に貰った紙を手渡した。

「Aクラス…?2年のブランクあるのに…?」

「陛下の贔屓1番最悪?でもそうでもしなきゃ野望未達成」

「地味に韻を踏もうとするな下手だぞ。え?マジか。頑張れ、ティーナ。」

 そういってまた私の頭を撫でるあたり、きっと私を心配してくれているのだろう。

 部屋に一旦戻る。

 かなりの量の服が詰まったクローゼットの中、1番奥に制服が入っている。

 黒と赤を基調とした大きなリボンの飾られているローブタイプの制服は、少し甘い香りがする。

 髪をハーフアップにしたので、さっきよりかは全然軽い。

 チャイム音と共に教室に入った。断じて遅刻ではない。Aクラスあるあるなのだ。

「ん?ティーナじゃん!」

「あ、コリン」

 私の名前を呼ぶその人は、Aクラスの中で1番目立っていた。…悪い意味で。Aクラスともなれば赤髪や金の瞳…そう陛下のような人が多いのだが、この人は違う。

 青髪に赤い瞳だ。

「なんでドア閉めるんだよ!!」

「明らかにAクラスにいるはずない成績の奴がいたからだよごめん」

 そう言うと、コリンは目を見開いて私をじっと見つめた。

「お前…そんな性格だったか?」

「2年で変わるものなのね?」

 そう言って近付いてくる女性は、私の同い年には見えない程大人っぽかった。赤い髪に赤い瞳…魔力量はかなりあるけれど、祝福は少ないらしい。

「アリス…突然話しかけちゃ失礼だよ…!」

 金髪で金の瞳をした、赤い女性にそっくりな女性がやってきた。こっちは真逆か…!

「申し遅れましたわ。わたくしはアリスティア・ローズですわ。以後よろしくお願い致します。是非、アリスと呼んで下さいな」

 赤髪の女性はそう言った。

「えっと…私はリュシアルカ・ローズです。リュカと呼んでください…」

 金髪の女性はそう言った。直感的に分かる、この2人は稀代の魔女候補になるだろう。まぁ、私に勝てるわけなさそうかなって感じだけど。

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