ちょろい自分に嫌気がさしても。


 就職活動。
 それは「私は価値ある人間なんですよ」とアピールし、
 その価値とやらが会社、すなわち世間様に受け入れられるまで続ける通過儀礼である。
 すんなり終わる人もいれば、数十回も繰り返すことになる人もいる。

 この話は後者にあたる人の苦悩と救済の物語となる。



 勤めていた会社が自分の身に合わず、転職活動を繰り返す主人公。
 自分が出来るすべてを投げ込んでみるも、感情の欠片もないお祈りを捧げられる日々に、精神をすり減らしていく。
 お祈りを経験した方ならだれもが思うであろう「自分って価値ないんだ……」という暗い感情。それが溜まってドロドロになっていく様がはっきりと伝わる文章になっている。
(なので、精神的に不安のある方は注意すべきかもしれない)


 我々は多くのものを日常的に選んでいる。

 今日のおかずはどのコンビニ(スーパー)で買うか。
 今週はどの小説を読むか、どの動画を見るか。
 今度の夏休みはどこへ旅行にいくか。

 それに対し、「選ばれる」機会はそう多くはない。
 だからこそ慣れず、自分でも驚くほどあっけなく挫折する。


 徹底して現実の話ではあるため「スカッと爽快!」というものではない。
 きっと今後もそれなりに苦悩するだろうとは思うのだ。ちょろい自分が嫌になるかもしれない。

 ただ、行き詰まりを解く鍵は渡されていて、それを手にひと息をつく姿は、今までとは違う展望を期待させてくれる。