眠れる山の戦神

白里りこ

眠れる山の戦神


 健忠けんちゅうたちは民族全員で、里を守る山のうち一つを、ぐるりと取り囲んでいた。赤子や老人、病人までもがここに集っている。健忠も、足の弱い妹を背負って、仏頂面で集まりに参加している。

 こんなことをして何になる、と健忠は苛々していた。敵軍はもうすぐここに襲来すると言うのに、こっちは軍備も何も整えずに下らない祭りをやるなんて。皆で心中でもするつもりか。付き合っていられない。年老いた父にそう言ったら、頭に軽く拳骨を食らった。

 ──弘姐山こうしゃさん様のお力を侮るでない。

 何が弘姐山様だ、と健忠は吐き捨てるように言いたくなったのを、辛うじてこらえた。皆が信仰する山のことを悪く言ったら、もう一度拳骨が来ること間違いなしだからだ。


 友安ゆうあん大陸の少数民族、壮弘そうこう族は、山に囲まれた盆地にて、農耕や牧畜をしつつ細々と生きてきた。里は自然の要塞とも言える地形だが、同じ大陸に住む他の民族の襲撃を受けたことが何度かあると、口承では伝わっている。しかしそれらは全て、一族を見守る戦神、弘姐山様が追い払ってくれたとか。

 極めて疑わしい話だ、と健忠は思っている。山が助けてくれるだなんて他力本願も甚だしいし、荒唐無稽だ。こんな迷信にしがみつくから、自分たちは滅びるのだ。今から、もう、すぐに。

 一族存亡の危機だというのに、呑気に祭りなんか開いて、何になる。これだから頑固な老人は困るのだ。

 せめて、妹だけでも生き延びさせてやりたかったが、当の本人が頑として受け入れず、自分も儀式に参加すると言って聞かなかった。

「言い伝えを疎かにしちゃだめだよ、兄さん。だって弘姐山様が最後にお目覚めになったのって、たった五十年前のことなんだよ?」

「五十年も経てば、噂に尾鰭など付き放題だろう」

「そんなことない。兄さんは小さい頃から優秀で、友安大陸のあちこちで勉強をしてきたから、ここの風習が変なものに見えてるのかもしれないけど……でも、兄さんはここで生まれたんだよ。だからね、伝統を大切にして欲しいな」

「……伝統ねえ」

 親や妹を置いて自分だけ逃げる訳にもいかず、何だかんだ断れなくなってしまった健忠は、重い重い溜息をついて、儀式の始まるのを待った。


「調査はどうだった、健忠」

 時を遡ること数十日前。一族のお偉方に囲まれた健忠は、長老に問いかけられて、密かに拳を握り直した。

「ご命令通り、他所の民族の様子を沢山見聞きして来ましたが……俺たちの力では、とても豪雷ごうらい族を止められないと、痛感するばかりでした。そして、奴らは必ずこの集落に攻めて来ます。俺の計算では、恐らく四十日後には……。こうなったら、素直に降伏するか、故郷を捨てて散り散りになるか。いずれにせよ、俺たち壮弘族は敗れることになるかと」

 ふうむ、と長老は腕を組んだ。

「具体的に何が奴らの主戦力なのか分かったか」

「はい。奴らは鉄で出来た謎の絡繰からくりを大量に、かつ独占的に輸入しているようです。それらは機関銃と呼ばれていました」

 他の大陸から遠く離れた場所に位置する友安大陸は、長らく独自の文化を築いて来た。しかし、北の海辺を本拠地とする豪雷族は船の技術を磨き上げ、遂に他大陸に到達したのである。他所の大陸では恐ろしく強い武器が出回っており、豪雷族はそれらを手にできる唯一の民族となった。

「機関銃のうち、軽機関銃は歩兵が持ち歩くもので、弓などとは比べ物にならない速度の弾を幾つも連射します。これを食らえば、最前線の歩兵など一瞬で全滅するでしょう。そして重機関銃と呼ばれるものは、防御に用いられます。これは軽機関銃と同じく弾を発しますが、持ち歩けません。ある地点に据え置くことで、そこより後方に敵軍が進軍するのを阻む狙いがあると思われます」

 長老は顔をしかめた。

「その弾とやらの威力はいかほどだ。山を崩壊させるほどのものか?」

「山……!? いえ、一発につき人間を一人、といったところです」

「ふうむ!」

 長老はやや声量を上げた。

「では早急に、言い伝え通りの儀式を執り行うとしよう!」

 周りのお偉方が重々しく頷いた。健忠はぽかんとした。

「儀式……? 戦闘準備ではないのですか」

「まあ、似たようなものだ。皆で戦神に祈りを捧げるのだよ」

「で、でも長老、そんな言い伝えは、単なる気休めで……」

「話はこれで終いだ。健忠、その時が来たら、お前さんもきちんと儀式に参加するように!」


 ***


 豪雷族の若大将たる冒緋ぼうひは、馬に乗り大軍勢を率いて進軍していた。壮弘族の里は攻めるのに難儀な地形をしているが、山々の低い所を迂回して行けば進むことは不可能ではない。何も弱小の民族相手に慌てる必要もないし、付近の民族たちは全て降伏しているから物資の調達も容易い。じっくり着実にやれば勝てる。

 何故、豪雷族は、こんな辺境の里までをも手中に収める必要があるのか。理由は簡単なことだ。この友安大陸を一つの国家に統一してしまえば、もう民族同士の争いは起こらない。そして、一致団結して国家を建設できれば、他大陸の強国とも渡り合える。このために豪雷族は、他民族を片っ端から降伏させ、彼らの文化や言語を禁じ、彼らを全て豪雷族に同化させて来たのだ。だから、壮弘族を攻撃するこの軍事行動は、結果的には友安大陸の人々を救うことに繋がるのである。


 やがて冒緋たちは山を回り切って、盆地の内部に到着した。青々とした麦畑が広がる、のどかで平凡な里だ。──人っ子一人いないことを除けば。

 辺りを、異様な静かさが支配している。

 これは何かの罠か、と冒緋は考えた。無防備なように見せかけて、こちらが油断して里に降りきったところで、襲いかかる算段か?

 それから冒緋はフッと笑った。

 壮弘族は優れた製鉄の技術など持たないし、こんな山の中に籠っていては機関銃など入手できるはずもない。これはただ、豪雷軍を恐れて戦闘を放棄し、どこかに逃げ去っただけのことに違いない。仮に、本当に急襲するつもりだとしても、所詮は矢と投石と刀しか知らぬ連中だ。容易く追い払えるに決まっている。

「壮弘族の男どもを探し出せ! 長老を生け捕りにし、我が元に連れて参れ! 行くぞ!!」

 冒緋は叫ぶと、馬を駆って坂を下った。念のため、用心深く周囲を観察し、軽機関銃をいつでも撃てるよう気を張っていたが、壮弘族の者は本当に一人も現れない。冒緋たちはあっけなく里の中心部まで攻め込むことができてしまった。

 違和感を拭い切れないまま、冒緋は部下を引き連れて、里で最も大きいと見られる屋敷を目指した。せめて長老ならば家に座して待っているであろうと期待したが、馬を降り、扉を壊して中に侵入しても、家は空っぽで人間の気配はなかった。

 どういうことだ? 壮弘族の者は、どこへ消えた?


「申し上げます!」

 部下の一人が馬で駆けつけてきて、長老の家の外から冒緋に話しかけた。

「何だ」

「壮弘族の者たちは、この里の東にある山の麓に、集結している模様です」

「ほう。……我らをそこまで誘い込んで、兵站線を伸ばすつもりか? 無駄なことを」

「いえ、それが、偵察の者たちが言うことには、奴らは戦う準備を何一つしていないそうです。武器も持たず、陣も組まず、老若男女がただ山の方を向いて、妙な歌を歌っているとか」

「……は?」

「私にも、何が何だか。全く意味が分からないのです」

「そうか……ご苦労。後は我が直接出向いて確かめよう。野郎ども、ついて来い!」


 豪雷族の大軍勢が皆して里を横断するのに、大した時はかからなかった。麦畑を踏み荒らして突っ切り、真っ直ぐに東を目指す。見ると確かに、壮弘族の者たちが山の麓に集って、こちらに背を向けている。どうも、山を一つ分ぐるりと囲んでいるように見えた。皆、地味な色の着物と帯を巻き付けているだけで、誰一人として武装していない。

 こんな戦は初めてだ。何と面妖なことだろうか。混乱する冒緋の頭に、よぎった言葉がある。


 ──この地面の続く先、遠い遠いどこかの集落は、難攻不落と言われているんだよ。

 これは、そう、小さい頃に祖母が語っていたお伽話だ。

 ──その集落の人々は、戦には滅法弱い。しかし山が彼らを守っている。敵がうっかり足を踏み入れると、お山さんが怒って追い払ってしまうんだと。


 まさか、この里は、あのお伽話に出てくる集落なのか? あの集落が実在するというのか。

 山が怒って敵を追い払うとはどういうことだろう。山が要塞の役割を担っているということか? しかし冒緋たちは既に西から山を抜けて里に踏み入っている。何の妨害も受けていない。

 ……いや、壮弘族の者たちの行動から察するに、彼らが囲んでいるこの山が「怒る山」なのだ。人々はその力を信じて、あのように祈りを捧げている。

 ……馬鹿馬鹿しい。

 神話の時代などとうに終わっている。今は技術力の時代だ。伝説に縋って危機を乗り切ろうなど、愚の骨頂。こっちは、海外から手に入れたこの武器で、奴らを降伏させるどころか、皆殺しにだってできるのだ。何を恐れることがあろうか。

 冒緋が気を引き締めて再び山を睨みつけた時、ふと、風が、壮弘族たちの声を運んできた。

 

 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。

 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。


 冒緋は眉をひそめた。壮弘族の言語は知らないが、この不思議な抑揚のある歌は、聞いていると何だかくらくらしてくる。まるで怪しい術でも使っているような……そんなものがあるはずはないけれど。


 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。

 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。


 だんだん腹が立ってきた。手始めに誰か一人撃ち殺して見せよう。そうすればこの馬鹿げた儀式も終わるに違いない。冒緋が軽機関銃を構えた時だった。


 山が、ぐにゃりと変形した。



 ***


 健忠は気のない声で歌っていた。妹は懸命に声を張り上げている。

 ああ、自分はここで死ぬのだ。里のおかしな伝承のせいで、変な歌を歌いながら、あの得体の知れない弾に頭を撃ち抜かれて死ぬ。

 人生とはあっけないものだな、と健忠は思った。自分一人、いや自分と妹二人だけでも、逃げれば良かった。いや、実際にそうしようとしたが、妹を背負って山を越えようとすると、何故か必ず老人たちが立ちはだかって、帰れと怒鳴られてしまう。加えて妹も戻りたいと言って、年甲斐もなく泣いて暴れるものだから、もう断り切れなかった。諦めるしかなかった。


 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。

 みいみいみいみ、みいみいみみいみ。


 ズズン、と地響きのような音が鳴った。驚いた健忠が山を見上げると、弘姐山の形が大きく歪み始めていた。

「……え?」

「兄さん、歌を続けて!」

「あ、ああ……」

 健忠が呆気に取られながらも、みいみい歌っていると、山はどんどん変形した。その形はまるで──巨大な、あまりにも巨大な、人間の形をしているようだった。地に伏せて、すやすやと眠っていたが、すぐにパチッと目を開けた。

 足元から首の下までは緑の木々に覆われ、顔と手は土の色──濃い褐色をしている。瞳は果実のように赤い。胸元には、黒々と光る大きな丸い玉が連なった首飾り。長い髪は薄青い透明で、澄んだ沢を思わせる。

 やがて弘姐山は、もそもそと動き、正座の姿勢を取った。

「んんーっ、よく寝たあ!」

 弘姐山は女性の声で言った。

「なあに、皆、また里が危ないの? 面倒な奴らだねえ、人間ってのは」

「誠にその通りであります!」

 長老が、皆の歌声を掻き消さんばかりの声量で言った。

「豪雷族の大軍勢が、里にやって来ています。弘姐山様、どうか彼らをとっちめて下さいませ!」

「ん、いいよ」

 弘姐山はあっさりと頷いた。

「あたしが寝てる間に、もう見返りは貰っちゃってるし。毎年お祭りをしてくれてありがとねえ」

「滅相もないことです。私どもがこうして生きているのも、貴方様のお陰ですから」

「そかそか。よおーし、それじゃあ一丁、行ってきますか!」

 ワアーッと、壮弘族の人々は歌をやめて歓声を上げた。弘姐山は皆にニヤリとした笑みを向けると、二本の足で立ち上がった。あまりにも背が高いので、顔が雲に隠れてしまっている。

「んー、これ、邪魔」

 弘姐山が手を一振りすると、雲はすっかり払われて、天気は晴れになった。弘姐山はやや屈み込んで豪雷軍を見つめた。

「うんうん、これが敵さんか。ぴしっと隊列を組んでいるね。よく訓練された兵たちだ。あたしの姿を見ても大半が逃げ出さずに残っているとは、肝の据わった連中……いや、腰を抜かして動けないでいるのかな? あは、ちっちゃすぎて分かんないや」

 弘姐山は何故か、首飾りの黒い玉を一つ引きちぎった。その大きさは、直径が大樹の一本分くらいといったところか。

「とりあえず、楽しくやろう。ただ踏み潰すだけじゃ、つまんないからね。そおれっ」

 弘姐山は右手をぶん回して、低く玉を投げた。玉は冗談みたいな速さですっ飛んで行き、豪雷軍の前列の兵の全身をグシャッと潰した。それでも勢いは一向に衰えず、そのまた後ろの兵の体も瞬く間にグシャッとなる。

 グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ。

 哀れ、豪雷軍は縦一列分の兵が一瞬にして壊滅してしまった。

「うんうん、快調快調」

 弘姐山は愉快そうに笑った。


 ***


 冒緋は愕然として、しばらくは指示も出せずに固まっていた。後方で、恐れをなした兵たちが逃げ始めている。まずい、という気持ちが募りに募って、ようやく冒緋は声を上げた。

「怖気付くな! 撃てい!」

 おー、と一斉に軽機関銃からの弾が山女に向かって放たれる。しかし山女は微妙に顔をしかめただけで、びくともしない。

 それはそうだ、と冒緋は今更ながら思う。山だぞ、相手は。そんなどでかいものに発砲して何の意味がある。

 断腸の思いで、冒緋は撤退命令を出した。重機関銃を設置した地点まで後退する。兵たちはやぶれかぶれで重機関銃での発砲も試したが、相手に命中したところでパチパチッと何かが爆ぜるような音がするばかりで、一向に効いていない。

「──」

 山女は何かを不思議そうに問いかけると、重機関銃の一つに手を伸ばして軽々とつまみ上げた。彼女はそれをしげしげと見つめていたが、やがてバキバキと片手で握り潰してしまった。

「ヒッ」

 兵たちはますます怖気付いて敗走していく。しかし山女は攻撃をやめない。あの首飾りの玉をまた引きちぎってはこちらに投げ、引きちぎってはこちらに投げる。これではまるで、相手の方が巨大な機関銃を所持しているかのようだ。どこにも勝ち目がない。

「──」

 山女は、壮弘族の方に向かって問いかけた。長老が何か答えたらしく、山女は再びこちらを向いた。そして右手を大きく振りかぶって、いきなり、冒緋のことを手のひらでぶっ叩いた。地面に、手のひら型の凹みができて、冒緋と馬はその中でぺしゃんこになった。


 ***


「これで終わり? 長老ちゃん」

「ええ、ええ、本当にありがとうございます。しかし豪雷族の奴どもは人数が多い。また軍隊を寄越すやもしれません」

「了解ー。じゃ、その時になったらまた起こしてよ。あたし、それまで寝てるから」

「承知いたしました。何卒よろしくお願いします」

「ふぁー。おやすみん」

 弘姐山は伸びをして元の場所まで注意深く移動し、もそもそとうずくまった。すぐに、スウッとその形が変化して、いつも通りの山岳の景色が戻ってきた。

 健忠はほとんど放心状態で弘姐山を眺めていた。

「ね、兄さん、言ったでしょ。伝統は大事にしなくちゃね」

「ああ……」

「里の危機も一時的に去った訳だし、帰って休もう? 私のことずっとおんぶして、疲れたでしょ」

「ああ……」

「……兄さん?」

 妹は怪訝そうな声を出した。

「どうしたの? 珍しくぼんやりして」

「ああ……」

「えっ、えっ、本当にどうしたの。大丈夫?」

「ああ……問題ない。ただ……」

「何?」

「綺麗な方だったな……と思ってだな……」

「……エ? それってまさか、弘姐山様が?」

「そうだ」

 健忠はよいしょと妹を揺すり上げた。

「俺は昔から友安大陸のあちこちを回ってきたが、あんなに綺麗で魅力的な女性を見たのは初めてだ」

 健忠の肩を掴む妹の手に、僅かに力がこもった。

「アー、ええと、一応確認なんだけど、兄さん、弘姐山様のことを好きになっちゃったの?」

「そうとも言う」

「どえええ!? そんなことってあるゥ!?」

 妹が心底驚いていたが、健忠はまだ夢見心地であった。

「豪雷族どもは、またここに来るんだろうな……そうしたら弘姐山様はまたあのお姿を見せて下さるんだろうか……」

「ヒエーッ! 母さん父さん、大変だよ! 兄さんが、兄さんが……とうとうおかしくなっちゃった!」

「おかしくなどないだろう」

「いやおかしいって! 絶対!」

 とりあえず健忠は、家に帰って妹を椅子に座らせてやった。妹はまた騒ぎ出した。

「山に恋をするなんて聞いたことないよ! バカなの!? どうやって結ばれるつもりなの!? 無理でしょ! 諦めなって!」

「もちろん、俺たちの行く先には数多の障害が立ちはだかるだろうな。しかし俺は諦めないぞ。どんなに困難な状況でも、どんな逆境に立たされようとも、突破口は必ずあると……他でもないあの弘姐山様が、身を以って教えて下さったのだからな」

「やめてやめて、本気で言ってるみたいに聞こえるからやめて!」

「本気だが?」

「ウワアーッ!!」

 この後健忠は、家族総出で説得されたのだが、意志を曲げることはついぞなかった。


 ***


 しばらくすると、長老の予測通りに豪雷族の第二軍が里に攻め込んできたが、弘姐山は難なくこれと戦って見せた。弘姐山は、かの不思議な首飾りを予め自ら修理していたらしく、またしても玉を引きちぎってぶん投げて、容赦なく敵を薙ぎ倒した。この戦により、豪雷族は大幅に戦力を失ってしまった。健忠はというと、再び人間型の弘姐山にお目にかかれて狂喜乱舞していた。


 大陸で最大勢力だった豪雷族が弱体化したことにより、各地で反乱が勃発した。製鉄技術や銃の作り方なども各民族の間に広まり、友安大陸全土が血で血を洗う戦国時代を迎えることとなった。


 その一方で、無敵の民族として名を轟かせた壮弘族の里は、誰にも手を出されることなく、平和そのものであった。取り立てて重大な問題と言えば、健忠が、眠っている弘姐山相手に愛を囁く日々を送ることになったことくらいだが──山のままでも可愛いよ、とか何とか──しかしそれはまた別の話である。



 おわり

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眠れる山の戦神 白里りこ @Tomaten

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