結婚してくだサイ!

ツーチ

結婚してくだサイ!


 「俺と……結婚してください!!」



 俺の名はエミル。自分で言うのもなんだが密猟者だ。密猟ってのは割のいい仕事だ。象の牙は昔から需要があるし、サイの角なんかは薬として重宝されたりしている。そうした代物が高値で売れるってんで俺ら密猟者はこのアフリカの草原で荒稼ぎしてるってわけさ。



 この密猟。実に割のいい仕事だ。もし密猟で捕まっちまってもたいした罪にはならないし、何ならまた見つからないようにやりゃあいい。だから密猟ってのはおいしい仕事なのさ。


 

 ……10年前までならな。



 だが、世界的な気候変動や密猟によるアフリカのサバンナの動物たちの危機的状況についに世界各国が動き出した。動物たちを守るために密猟者は即刻射殺せよなどという過激な発言もあったが、流石にそうした行為は人権的観点からも見送られることになった。



 が、その代わりに奇妙な刑が新たに作られた。その内容は捕まった密猟者がその密猟しようとしていた動物に対し、プロポーズをするというもの。

 プロポーズが成功すればその密猟行為は無罪放免、さらにプロポーズを受けてくれた動物の牙や角をいただくことが出来る。

 もちろん捕まらなければそんな馬鹿げた刑に付き合う必要はない。しかし今日の密猟でへまをして捕まった俺は今その刑に服すところだ。



 目の前にはオスのサイが1頭。俺が密猟しようとしたサイだ。周囲の草原には刑を見届けるために多くのパトロール隊が囲んでいるため逃亡することは不可能だ。俺は覚悟を決め、目の前のサイに近づいてゆく。



 「俺と……結婚してくだサイ!!」



 俺はサイに近づき深々と頭を下げる。そして、続いてサイの後ろに回りサイの肛門の臭いを嗅ぐ。これがプロポーズの方法だ。肛門の臭いを嗅ぎ続け1分間サイが何もしてこなければプロポーズが成功したことになる。



 (ううっ……くサイ。なんて臭せぇんだ……)



 当然と言えば当然だが、野生動物の臭いは強い。数mの距離でも強い臭いのする対象の肛門の臭いを嗅いでいるのだ。臭くないわけがなかった。俺は気絶しそうな意識を保ちながら心の中で時を数え、その瞬間を待ち続ける。



 あと45秒。






 あと30秒。








 あと10秒。



 ……いける。これで俺は無罪放免、このサイの角も頂戴でき

 『ゴシュウ!!』






 何かの音が頭に響いた。と、同時に俺の視界はサイの肛門から空をとらえていた。その時に俺は理解した。プロポーズが失敗したことを。



 あっけない最期だったなぁ。捕まって、尻の臭いを嗅いで、頭を砕かれて……。まったく……だサイ最後だなぁ。


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