陶器の馬

 前の住人が子供部屋に残していった私を見つけた彼は大喜びした。真珠のような柔らかな艶のある、陶器でできた馬。彼は私を新しい土地での最初の友達にと望み、私は彼の希望に応えて動くことができるようになった。


 引っ越したばかりでまだ友達もいなかった彼は、学校から帰ってくるなり部屋にこもって私と遊ぶようになった。彼が来るまで窓辺で寂しく埃をかぶっていた私は、また子供の遊び相手になれることが嬉しかった。


 唯一の懸念は、彼が予想以上に活発な子供だったことだ。


 ぬいぐるみと違って私の体は柔らかく曲がらないということが、彼にはよくわかっていないようだった。彼は私を大好きだと言って抱きしめてくれた。私は細く脆い陶器の脚が折れてしまわないかと体を強張らせていたが、怯えていることを決して彼には悟られないように気をつけてもいた。


 私は彼の友達でいなければならない。彼の隣にいられるように、対等でいなければならないのだ。彼の機嫌を損ねる恐怖に屈し、彼に服従したなら、その時、私はおもちゃに戻ってしまうだろう。






 ある日、彼は野球のボールを持って部屋に帰ってきた。


 キャッチボールしようよと言って、彼はボールを投げる。私は危ういところでそのボールをかわした。繊細になびくたてがみが折れるところだった。


「ごめんね、私は人間みたいにボールを取ったり投げたりはできないんだ。当たったら割れちゃうからやめてよ」


 彼は口をへの字に曲げて、床に転がったボールを拾い上げた。


「これくらいで割れたりしないよ。なんでボール遊びもしてくれないの? 友達なのに」


 彼はボールを私に向かって投げ、また拾っては投げた。私は壊れる恐怖に脚を震わせながら、それでも半分冗談のように「やめてよ」と言いながら、かろうじてボールを避け続けた。


 いつしか彼の口元には笑みが浮かんでいた。


「ほら、ちゃんと投げ返してよ」


 硬いボールがまっすぐに飛んでくる。もう、逃げられない。


「——助けて!」


 叫んだ瞬間、私の体のあらゆる関節は硬直し、風に揺れていた毛並みは動きを止めた。


 真っ二つになった私を前に泣き崩れる彼の姿にも、人形に戻った私は何も感じなかった。

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