　節分（せつぶん）の日が、やってきた。授業（じゅぎょう）が終わると、豆（まめ）をまくことになった。萌乃（もえの）先生が、まき方を教えてくれた。

「福（ふく）は内（うち）！　鬼（おに）も内！　と叫（さけ）んで豆をまきましょう。鬼を追い出したら、かわいそうですからね」

　私は小学校で節分では、『福は内！　鬼は外！』と叫んで豆をまくと教わった。だから『鬼も内！』というのは、大海（たいかい）っぽいなあと思った。スマホでググってみると、鬼という字（じ）が入る場所では、同じように『鬼も内！』というらしい。群馬県（ぐんまけん）藤岡市（ふじおかし）鬼石（おにし）や栃木県（とちぎけん）の鬼怒川温泉（きぬがわおんせん）など。また鬼を祭（まつ）ってある神社でも、やはり『鬼も内！』というらしい。

　大体（だいたい）、人種差別（じんしゅさべつ）が問題視（もんだいし）される現在、鬼というだけで忌（い）み嫌（きら）うのも、どうかと思う。鬼にも人権（じんけん）、いや鬼権（おにけん）があるのではないか。

　鬼といえば桃太郎（ももたろう）を思い出すが彼は、『きびだんご一つで重労働（じゅうろうどう）をさせられた。労働最低賃金（ろうどうさいていちんぎん）をもらえなかった』と犬、サル、キジに訴（うった）えられた人物である。叩（たた）けばほこりが出る、半（はん）グレと言っても過言（かごん）ではないのだ。私は思う。やはり桃太郎のやり方は、間違っていたと。では桃太郎は、どうすれば良かったのか？

　まずは、証拠固（しょうこがた）めである。サルに命令して、『鬼に財宝（ざいほう）を奪（うば）われた』という証言（しょうげん）を集めるのだ。更にキジに命令して、鬼ヶ島（おにがしま）にその財宝があるのか確認（かくにん）させる。そのうえで犬に命令して、警察（けいさつ）に通報（つうほう）する。警察もこれだけの証拠があれば、動かざるをえないだろう。そして警察が家宅捜査（かたくそうさく）して、鬼ヶ島の財宝を回収（かいしゅう）する。そして警察からご褒美（ほうび）に、自分の報酬（ほうしゅう）を受け取る。もちろん犬、サル、キジにも報酬を分け与える。うむ。これが令和（れいわ）の正しい桃太郎だ、と私は納得（なっとく）した。

　そして「福は内！　鬼も内！」と叫んで豆をまいていると、宗一郎（そういちろう）と翔真（しょうま）にからまれた。

「うわー、鬼より怖（こわ）い奴（やつ）がいるぞ！　昼食担当主任（ちゅうしょくたんとうしゅにん）の鬼だー！」

「本当だ～。鬼のお面（めん）をする必要がないね～」

　二人に向かって豆を投げながら、私は叫んだ。

「うるさーい！　鬼じゃなくて、お前たちが出て行けー！」

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　バレンタインデー前の日曜日。私は台所（だいどころ）で、眉間（みけん）にしわを寄（よ）せていた。

　去年（きょねん）のバレンタインデーはちょっと気になる男子にチョコレートをあげようかな、とコンビニでチョコレートを買って準備（じゅんび）していた。しかしバレンタインデーの当日（とうじつ）その男子が、あまりにも多くの女子からチョコレートをもらっていたので渡（わた）す気が無くなって、結局（けっきょく）お母さんにあげた。

　今年は取りあえず、四人にあげようと思った。宗一郎と翔真と萌乃先生と常治（じょうじ）先生。私は、考えた。宗一郎と萌乃先生と常治先生のチョコは、コンビニで買おうと。そして翔真にだけは、手作（てづく）りのチョコレートをあげようと。

　いやいや、深（ふか）い意味とか無いから。ただ大海に通って料理をするようになったから、自分がどこまで美味（おい）しいチョコレートを手作りできるかどうか、試（ため）してみたいだけだから。

　それにこの間、翔真は気づいてないかも知れないけど、私を励（はげ）ましてくれたから。だからそのお礼（れい）もあるから。私がお礼もしない失礼（しつれい）な女子だと思われても困（こま）るから。それから、それから……。

　とにかくあれよ、実験（じっけん）よ、実験！　私の手作りのチョコレートが美味しいか美味しくないかの実験よ！　まあ、手作りっていっても、スーパーで買った板チョコを溶（と）かしてハート形のチョコレートにするだけだけど……。うーん、それでいいのかな？　ちょっと一味（ひとあじ）、足（た）した方がいいのかな？　でもそれで万（まん）が一、美味しくなくなっちゃったら困るし。うーん……。