第三十二話

 クリスマスイブの夜に、私はゆめを見た。去年きょねんのクリスマスの夢だった。その時はまだ、お父さんがいた。目をますとベットの横に、包装紙ほうそうしつつまれてリボンが付いているはこがあった。私はその箱を持つと、パジャマのままでリビングに行った。そしてお父さんとお母さんに報告ほうこくした。

「あのね、今朝けさね、ベットの横にプレゼントがあったんだよ!」


 お父さんとお母さんは、笑顔で答えた。

「それは良かったなあ、春花はるか

「春花、早速さっそく、開けてみたら?」


 私は「うん!」と答えて、プレゼントを出した。それは私がしかった『人生じんせいゲーム』だった。私は、よろこんだ。

「お父さん、お母さん! 『人生ゲーム』だよ! 私が欲しかったプレゼントだよ!」

「そうか、良かったな」

「良かったわね、春花」


 私はうれしくて、思わず言ってみた。

「早速、みんなでやろうよ!」


 だがお父さんは、残念ざんねんそうに答えた。

「ごめんな、春花。お父さんはこれから仕事なんだ。仕事が終わってから、ゲームをしような」


 お母さんも、言った。

「それに春花だって、学校に行かなくちゃいけないでしょ? だからゲームは夜にやりましょう」


「うん!」と答えて私は、部屋にもどって着替きがえた。そして朝食を食べて小学校に行って、帰ってきた。しばらくすると、いつもより早くお父さんが帰ってきた。夕食を食べた後、『人生ゲーム』を三人でやった。楽しかった。何も知らない私は、勝手かってにこんなしあわせな日々が続くと思っていた。だが少しするとお父さんとお母さんは、離婚りこんした。私はお母さんと二人で、アパートで暮らすことになった。


   ●


 次の日。クリスマスの朝、目が覚めるとベットの横に『オセロ』の箱があった。数日前お母さんに『クリスマスプレゼントは、何がいい?』と聞かれたので、『オセロ!』と答えていた。


 理由はお母さんはいつも仕事でいそがしいが『オセロ』があったら、一緒いっしょに遊んでくれそうな気がしたからだ。だから私は『オセロ』の箱を持って、居間いまに行った。お母さんはすでに、朝ご飯を作ってくれていた。私は喜んで報告した。

「お母さん、『オセロ』があったよ! サンタクロースがきてくれたよ!」


 するとお母さんは、笑顔で答えた。

「そう、それは良かったわね。でも取りあえず今は、朝ご飯を食べてね」

「はーい!」


 朝ご飯を食べた後、私は言ってみた。

「ねえ、お母さん! 『オセロ』をしようよ!」

「そうねえ、今日は仕事も休みだし……。うん、やろっか!」

「うん!」


 そして私とお母さんは、『オセロ』をした。昼までやって昼ご飯を食べてから、またやった。夕食の時間になるまで、ずっとやっていた。こんなにお母さんと遊んだのは、ひさしぶりだった。

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