第二十七話

 身支度みじたくをしてみんなで朝食を準備して食べる前に、ななみさんの話があった。

「おはようございます、皆さん。今日は男子のはん山菜採さんさいとり、女子の班はりをしてもらいます。

 ですがごらんとおり、今日は雨です。ケガや事故に巻き込まれないように、注意をしてください。それでは、いただきます!」


 朝食を食べ終わり食器を洗うと昨日のように、優希ゆうきさんのところに女子が集まった。優希さんは説明した。ななみさんが言ったように、今日の女子の班は釣りをする。動きやすい服装ふくそうにして倉庫そうこにある釣竿つりざおを一本づつ持って、玄関げんかんに集合。また、ななみさんが言ったように、ケガや事故には気を付けること、と。


 十分後には玄関前に、釣竿を持った女子の班が集まった。

 「それでは、川に向けて出発します!」と優希さんは、ペンションを出て左の道を下りだした。


 五分後には、川に着いた。そして優希さんは、号令ごうれいを出した。

「それでは皆さん、がんばってニジマスを釣ってください!」


 私は取りあえず、川に釣りばりを入れてみた。少しして竿を上げてみたが、ニジマスはかかってなかった。一匹も釣れずに十分くらいすると、優希さんから声をかけられた。

春花はるかさん、調子はどう?」

「いえ、全然ぜんぜんダメです……」

「あなた、釣りはしたことあるんだっけ?」

「いいえ、ありません……」


「ああ、そうだっけ。じゃあ、しょうがないかあ」と優希さんは、私の竿を手に取った。そして説明を始めた。今やろうとしている釣り方は、テンカラという。釣り糸をき取るリールが無い、べ竿を使う釣り方だ。初心者でも簡単だ。そして釣り針は、昆虫こんちゅうているばりを使う、と。


 さらに優希さんは毛ばりを川の中に流し入れて、説明した。釣るのは結構けっこう簡単かんたんだ。ニジマスはながれがゆるいところをこのむから、流れが緩そうなところに毛ばりを流す、と。


 するとウキに、変化へんかがあった。

「ほら、ウキが水中すいちゅうしずんだでしょう? そしたら竿を上に引き上げて、あわせるの……」


 見てみると釣り糸の先に、ニジマスがぶら下がっていた。私は、感心かんしんした。

「すごいです! 優希さん!」

「まあ、釣り方をおぼえればだれでも釣れるようになるわよ。さ、春花さんもやってみて」


「はい!」と私は、川の流れがゆっくりそうなところに毛ばりを落とした。少ししても何の反応も無いので、毛ばりを上流じょうりゅうに向かって動かしてみた。その時だった。ウキが沈んだ! 私は思わず、さけんだ。

「優希さん、ウキが沈みました!」


 すると優希さんは、冷静れいせいに答えた。

「あわてないで。竿を上に引き上げてあわせて!」


「はい!」と私は竿を上げた。すると魚が引いている手ごたえがした。それに負けないように、私は竿を引き上げた。すると釣り糸の先に、ニジマスが釣れていた。私は思わず、はしゃいだ。

「やりましたよ、優希さん! 私、釣りましたよ!」


 優希さんは、笑顔で答えた。

「よくやったわね、春花さん。それじゃあその調子で、どんどん釣ってね! 

 そして釣りもちゃんと、覚えてね。中学生になったら、小学生に教えられるように」


「はい!」と私は、釣ったニジマスをクーラーボックスに入れると、再び毛ばりを川に流し入れた。私は生まれて初めて魚を釣って、興奮こうふんしていた。


 しかし私の後ろで優希さんは、つぶやいていた。

「この雨、なかなか止まないわね……。しかも朝よりも、強くなってるわ……」


   ●


 同時刻。ペンション。


 ななみはまどから外を見ながら、ためいきをついた。

「まずいわね、この雨は……」

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