第二十六話

 隆太りゅうたは、へらへらした表情ひょうじょうで答えた。

「僕だよ~。隆太だよ~」


 少しイラついた声で、ななみは聞いてきた。

「隆太君? 一体、何の用なの? こっちはみんな、寝てたんだけど?!」


 隆太は再び、へらへらした表情で答えた。

「まだ午後九時だよ~。夜はこれからじゃないか~」


 更にイラついた声で、ななみは聞いた。

「一体、どういうこと?!」


 隆太はここが勝負どころだと、精一杯せいいっぱいねこなでごえさそった。

「僕は、トランプを持ってきたんだ。一緒いっしょにやろうよ~? このドアを開けてよ~?」


 すると、ななみのキレた声がした。

「バカなこと言ってないで、早く寝ろ! 明日も大変なんだから!」


 そして何かがドアに当たったのか、『バン』という大きな音がした。それには隆太もひるんだ。


 だから仕方なく隆太は、一旦退いったんひくことにした。

「そうか~、それじゃあ一旦、退散たいさんするよ~」と言い残して。隆太と翔真しょうまは、一旦ドアから離れた。翔真が聞いた。

「隆太さん、これからどうするんですか~?」


 すると隆太は、余裕よゆうの表情で答えた。

「まあ、こうなるのは予想通よそうどおり。何も心配することはないよ」とパジャマのポケットから、スマホを取り出した。そして翔真に聞いた。

「ねえ翔真君、部屋から出てこない人を部屋から出すためには、どうすればいいか知ってるかい?」

「ううん、知りません~」


 得意とくいげに隆太は、言い放った。

「寝室に閉じこもっている女子を、寝室から出す方法は一つ! 僕らが楽しそうにしてればいいんだよ~」

「おお~! なるほど~!」


 隆太はスマホのボリュームを上げて、ユーチューブの音楽動画を再生さいせいさせた。


 翔真は、聞いてみた。

「隆太さん、これって何の歌ですか~?」

「うん、これは初音はつねミクの『グリーンライツ・セレナーデ』だよ。ノリがいいだろう?」

「はい~」

「それじゃあ、この歌にのって手をたたいてさわごう。そうすれば女子は気になって、寝室から出てくるはずだよ!」


 翔真は元気よく、右手を上げた。

「はい! 分かりました!」


 そして二人は、手を叩き続けた。


   ●


 二日目。私は、ななみさんの声で目がめた。

「さあ、皆、朝だよ~。顔を洗って身支度みじたくをして、朝食を食べよう!」


 私は、ドアのかぎを開けて寝室を出て行く、ななみさんのあとについて行った。雨が屋根やねに当たる音がしていた。寝室から出てすぐの所で、翔真と隆太さんが寝ていた。ななみさんは隆太さんの頭を『パシッ』と叩いて、言い放った。

「隆太君、起きろ! もう朝だぞ! っていうか、まさかここで寝ていたのか?!」


 ぼけまなこの隆太さんが、答えた。

「あれ、ななみちゃん? あれ、もう朝なの? なんてこったー! 午後十一時くらいまでは起きてたんだけど、途中で寝てしまったかー?」


 ななみさんは、あきれていた。

「やれやれ、午後十一時まで起きていたの? 全く、今日も大変なのに……」


 そして、ななみさんはてた。

まったく、男子って本当にバカなんだから!」


 私は世界にいくつかある真実しんじつの一つを、ななみさんが言い放ったような気がした。

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