第五話

 すると早速さっそく、お母さんに聞かれた。

「フリースクールは、どうだった?」


 私は、素直すなおに答えた。

「うん、まあまあだった」


 そしてお風呂に入って、ベットに入った。でもその日は、なかなか寝つけなかった。ずっと翔真しょうまのことを考えていたからだ。数学の力で、地球の温暖化おんだんかを止める? そんなことが本当にできるの? それにもし私がイジメられたら、まもってくれるって……。


 そんなことをずっと考えていたら、スマホのアラームが鳴った。起きる時間になっていた。ベットから出た私は、洗面所の鏡の前に立ち呆然ぼうぜんとしていた。寝不足ねぶそくの、ひどい顔をしていたからだ。すると私に、ふつふつと怒りがわいてきた。


 だから朝ご飯を食べて大海たいかいに行って翔真の顔を見た時、怒りをぶちまけた。

「こらー! この天然数学てんねんすうがくヤロー! あんたのこと一晩中考えていて、結局、一睡いっすいもできなかったじゃない! 一体、どう責任を取ってくれんのよ?!」


 次の瞬間しゅんかん、教室中がざわついた。

「え?」

「え? それって、告白?」

「翔真君は、どうするんだろう?……」


 翔真は頭を下げて、言い放った。

「ゴメンナサイ。僕は、十九歳以上の女の人じゃないと、興味がわかないんだ。だから十九歳になったら、告白してくれるかな?」


 私の怒りは、頂点に達した。

「だっ、だっ、誰がお前なんかに告白なんかするかー! バカー!」と叫んだ私は、少し気分がすっきりした。しかし私と翔真が作り出してしまった微妙びみょうな空気は一日中、教室をただよっていた。


   ●


 ある日、大海の玄関でくつを脱いで洗面所でせっけんで手を洗い、紙コップでうがいをした私は午前の授業を受けた。すると昼休みに、宗一郎そういちろうが翔真に教えていた。


 宗一郎は少し、イラついていた。

「だーかーらー、温室効果おんしつこうかガスの排出量を実質ゼロにすることを、カーボンニュートラルっていうだって!」


 私は、なるほど、地球の温暖化を止めるために教えているんだなと気づいた。

 だから私もスマホでググって、説明した。地球の温暖化を止めるには、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーをやすことが必要だと。


 宗一郎もスマホでググって、説明した。確かに今は、『クリーンコール技術』がある。高品質石炭こうひんしつせきたんの選別、石炭の液化・ガス化などで石炭を燃やした時に発生する二酸化炭素にさんかたんそ硫黄酸化物いおうさんかぶつ窒素酸化物ちっそさんかぶつを減少させる技術だ。これはすごい技術だ。でもこれからは、カーボンニュートラルを目指すべきだ。その技術力を、再生可能エネルギーを増やすために使われるべきだ、と。


 翔真は、喜んでいた。

「へー、そうなんだー。僕、知らなかったよ~」


 すると宗一郎は、ツッコんだ。お前が知らなさすぎるんだ。数学の力で地球の温暖化を止めたいっていうんなら、数学だけじゃなく、こういうことも知っておくべきだ、と。 


 私も、そう思った。

「うん。そうそう」


 翔真は、またしても笑顔だった。

「うん。分かったよ~」


 すると萌乃もえの先生が笑顔で、プリントを私たちにくばり始めた。

「みんな、えらいわね~。翔真君が夢をかなえるために、知識ちしきを教えてあげて。でも他にも、覚えなくちゃいけないことはあるわよ。例えば、漢字とか。

 というわけで~、今日の国語の問題は『走れメロス』から出題しました。みんな、配ったプリントをやってみてねえ~」

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