第四話

 本当の仲間なかま……。なりたい、この子たちと本当の仲間になりたい、と思った私は、私の秘密を話した。私はクラスでイジメられていた。お母さんがお父さんと離婚りこんして、私とお母さんが二人でらしていたから。お父さんがいないのは、変だって言われて。だから、私は小学校に行けなくなった。これが私が、大海たいかいにきた理由なのだと。


 話し終わってうつむいている私に、宗一郎そういちろうは話しかけてきた。

「なるほど、イジメか……。分かった。俺も翔真しょうまも、お前のことを絶対にイジメない。絶対にだ。何があってもだ! なあ、翔真?」


 すると翔真は、右手を元気よく上げて宣言した。翔真も私をイジメない。もし私ががイジメられてたら、翔真がまもってあげると。


「え?」と少し戸惑った私に、宗一郎は説明した。翔真も発達障害はったつしょうがいが理由で、イジメられた。だから、イジメられる気持ちが分かる。それに宗一郎もパニック障害が理由で、イジメられたことがあると。だから宗一郎も、イジメられる気持ちがよく分かる、だから約束する、宗一郎も翔真も絶対に、私もをイジメないと。


 そして宗一郎の考えだと、今の時期に大海にくるということは、四月はイジメに耐えたけど五月の連休があって学校を休んで、それから学校に行けなくなったんじゃないかと。


 私はその通りだったので、思わずうつむいた。

「うん……」

「そうか、でも安心しろ。翔真は、お前がイジメられてたら護ってくれるそうだ。良かったな、こいつはウソは言わないから」


 私が見ると翔真は、笑顔で右胸をたたいた。

まかせておいて~!」


 すると宗一郎が右こぶしを前に出して、せかした。

「ほら、お前も、こぶしを出せよ」


 私と翔真は、右のこぶしを前に出した。三つのこぶしがれると、宗一郎は宣言した。

「今から俺たちは、大海の五年生の仲間だ! 俺たちは、協力しあうぞ! おー!」


 私も翔真も、叫んだ。

「おー!」

「おー!」


 そして私は二人を見つめて、微笑ほほえんだ。私の心が少し、あったかくなった気がした。すると宗一郎は、クギをした。俺たちにホレてもムダだと。宗一郎は年下にしか興味きょうみないし、翔真は十九歳以上の女にしか興味がない。萌乃もえの先生は十九歳だから、翔真は女は十九歳になればみんな、萌乃先生みたいに可愛かわいくなると思っていると。


 すると翔真は、無邪気むじゃきな表情でげた。翔真は萌乃先生が大好きだ。私もショートカットが似合ってるいて可愛いと思うけど、やっぱり萌乃先生の方が好きだと。


 私はちょっとイラっとしたが、宗一郎は続けた。

「ま、そういうことだ。取りあえずこの、『こぶしのちかい』の説明をしてやる」


 宗一郎はこの誓を今、六年生の鮫島航さめじまわたるさんから教わったと言った。去年、鮫島が五年生で宗一郎が四年生の時、大海にきて教わった。今日も私と、『こぶしの誓』をやってくれと鮫島さんに言われたそうだ。


 私は授業が終わって、宗一郎と話していた子を思い出した。そうか。あの人は六年生で、鮫島さんていうのか。


 宗一郎は、説明を続けた。宗一郎は去年、四年生の時に鮫島さんに、この誓をしてもらった。おかげで今まで、大海でイジメられたことは無い。それどころか鮫島さんたちに、親切にしてもらっていると。そして鮫島さんもやはり、学校でイジメられたそうだ。大海には、そうして学校に居場所が無くなってここにきた子がほとんどだ。中には家にも居場所が無い子もいる。だからせめて大海だけでもイジメが無い安心な場所にするために、『こぶしの誓』が考えられたらしい。


 それにウワサだと、この大海にきた最初の生徒が考えたらしいが本当のところは分からない。ただ、大海を安全な場所にするために、新入生がきたら今でもこの誓は行われる。さらにウワサでは大海の代表の草間くさま先生ですら、この『こぶしの誓』は知らないらしい。だから一応この誓のことは、今でも先生たちには内緒ないしょになっているそうだ。


 宗一郎の説明が終わった後も、私の歓迎会かんげいかいは続いた。それから三人で何曲か歌を歌ったが、何を歌ったのか、あまりおぼえていない。私はカラオケが終わって家に帰り、ゆうご飯を食べた。

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