第24話 由己と優と収斂進化

 「そぃでさ」

と、千英ちえはまだ口のなかにチョコレートが残っている状態で話し始めた。

 でも、話しにくかったらしく、チョコレートを飲み込み、ウーロン茶を一口飲み、あとあいからティッシュをもらって口のところを拭く。

 愛は

「そっちに置いといて」

と言ってティッシュの箱を朝穂あさほに渡したので、朝穂はその箱をまた由己ゆきとのあいだに置いた。

 千英が続ける。

 「二人がお菓子取りに行ってるあいだ、こっちでペンギンのはなししてたんだけど」

 ゆうはまだカステラを食べている途中なので反応しない。樹理じゅりも反応しないようだ。

 千英が続ける。

 「オオウミガラスっていうペンギンそっくりさんの鳥がいたんだけど」

 貴重な鳥だとわかっていて乱獲したら絶滅した。

 あれ?

 「取ってもだいじょうぶ」と思ってみんなで取ったらなくなった、と違うじゃん?

 むしろ、うぐいすあんは一つしかないから、自分が取って見せびらかして自慢してやろう、と思ったら、うぐいすあんのどら焼きがなくなった、というパターンだ。

 そのうぐいすあんのどら焼きは由己のところに渡ったし、由己はそれを標本にして見せびらかそうなどとはしていないが。

 「その、オオウミガラスって、ペンギンとは違う種類なんだ」

 その千英のことばに

「えっと」

と、カステラを食べ終わったらしい優が反応する。

 「そういう鳥がいた、ってことは、いまはいないんですか?」

 おっ!

 さっきは姉の愛が同じような質問をしていた。

 さすが姉妹!

 だから、ティラノサウルスと羽根はね羽根はね恐竜も、それぐらいは似てたんだよ。

 わからないけど。

 「人間が乱獲してね。絶滅したんだ」

 「あっ……」

 優が目を見開いたまま、じっと千英を見つめる。

 姉の愛も似たような反応をしてたかな?

 ま、どら焼きは黒あんも栗もうぐいすも絶滅したけどね。

 千英は続ける。

 「でも、オオハシウミガラスとか、ウミスズメとかいう種類はいまも残ってて、動物園とかにはいるけど、この仲間って、白と黒で、海に潜ってサカナを捕ったりして、ペンギンに似てるんだけど、ぜんぜん別の種類」

 由己もじっとその千英を見上げている。

 由己と優が千英をじっと見ていて、背丈も同じくらいで、似ている。体つきも似ているし、まとっている雰囲気も似ているみたいだ。

 まじめそうで。

 けど、片方は愛の妹、片方は違う。

 そういうこと?

 「そういうのって、あるんだよ」

 千英が言う。

 「クジラなんかもともとカバの仲間だったのに、海で生きるようになったら形がサカナに近づいたでしょ? オオウミガラスとペンギンも、鳥としてはだいぶ違う種類だけど、おんなじような場所で、おんなじような生活をしてると、形が似てくるんだよ。収斂しゅうれん進化っていうんだけど」

 あ。

 それ反対。

 絶対反対!

 だって、「同じ八重やえがきかいという環境で同じように短歌を作っていると朝穂も樹理のようになる」ってことでしょ?

 収斂進化絶対反対!

 ……でも。

 樹理のようにまじめで、顧問の恵理えり先生や部長の道村みちむら先輩や総乃ふさのさんに忠実で、って生活してれば、樹理のようにしかなりようがないよね。

 なるほど。

 それが進化か。

 朝穂はそんな進化をしないように気をつけよう。

 進化しないのは……。

 ……いいことなのか?

 いいことだ。

 いつまでも、というわけじゃないけど、いまは、朝穂は朝穂の作りたい短歌を作り続けたい。

 その朝穂の思いとは関係なく、

「翼竜とマニラプトル類は、形とか、飛ぶ構造とかは似なかったけど、飛ぶ、っていう方向性は、さ、一致してたわけ」

 千英はそう言って、続いてカステラの個包装を破いた。

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