第15話 恥の文化と少女たち

 「恐竜って、ほんといろいろいて、ほんといろいろな種類があって」

千英ちえが言う。

 「竜盤りゅうばん類と鳥盤ちょうばん類がいて、鳥はそのうち鳥盤類じゃなくて竜盤類のほう。獣脚じゅうきゃく類と竜脚りゅうきゃく類と鳥脚ちょうきゃく類がいて、鳥はそのうちの獣脚類。どっちも、「鳥」がつく分類は鳥とは違うほうなんだよね」

 はい。

 もういちど見回すと、自信たっぷりに言ってる千英以外、だれもが「わからない」という表情だ。

 これは偏差値が高くてもみんな知らない。

 朝穂あさほが「なに、それ?」を言うべきだと思った。

 樹理じゅりが言うとかどが立つから。

 「何」

 ところが、いち早く言ったのは由己ゆき

 「そのリューバンとかジューキャクとか?」

 その由己のことばにいち早く千英が反応する。

 「あ、そぅかそぅか」

 千英は自分が恐竜マニアを相手に話していたのではないことに気づいたらしい。

 「恐竜らしい骨盤を持つのが竜盤類、鳥っぽい骨盤を持つのが鳥盤類。恥骨ちこつって、恥の骨って書くさぁ、その、恥ずかしいあたりについてる骨があって」

 この千英の説明は、わかった子とわからなかった子に分かれる。

 愛はわかったらしくて、口を閉じて軽く「へ」の字にして笑っている。

 由己もわかったらしい。

 あとはわからない。

 樹理はとまどっている。わからないのだろう。

 朝穂もわからない。

 言った千英は平気な顔でみんなを見ている。

 「まあ骨盤ってこのあたりだから」

と由己がみんなを見回して、自分の腰の上のほうを手首でとんとんと叩いた。

 制服のスカートの上の線の、ちょっと下ぐらいだ。

 「そこの左右まん中あたりだから、まあ察してください」

と笑って見せる。

 だいたいわかった。

 下腹部の、どこかの骨なのだろうけど。

 その説明でほっとしたのが愛、かえって顔をゆがめたのが樹理。

 ゆうという向こうの一年生は、やっぱり難しそうな顔をして隣の由己を見て、また前を向いた。

 朝穂は晴れやかな顔をしているつもりだ。

 恥の骨ってストレートな名まえで、そんな名まえをつけられた骨としては災難だろうけど。

 そういう部分に恥を感じる文化なんだから、しかたないね。

 千英の説明が続く。

 「それが鳥っぽい方向についてると鳥盤類、ほかの恐竜っぽい方向についてると竜盤類って分類したんだけど、それって決定的な特徴じゃないことがあとでわかってさ。鳥は竜盤類のほうで、ま、つまり、鳥は恐竜らしい恐竜のほうから発展した、ってことだね」

 「ふうん」

 樹理の生返事。

 機嫌がよくないのは明らかだ。

 樹理の機嫌が悪くなってもしょうがないでしょうが……。

 ほんと。

 こんなのなんだから!

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