幕間

調査報告書_20XX0531.docx




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 ■■■■■■■に関する調査報告書(二)


 標記の件について、下記の通り報告するものである。


 調査概要


 前回の報告を受け、クライアントにより調査続行の指令が下った。

 なお現地における調査は前回に引き続き諜報員■■■■(以下、甲)と■■■(以下、乙)の二名により実施。


 調査詳細


 以下は私立■■■■学校に在籍する学生■■■■(前回調査における対象六)の身辺調査及び聴取の中間報告である。


一 本人の経歴、人物像

 ■■■■(以下、対象)は二〇XX年■■月■■日に■■市立病院で誕生した。家族構成は父、母、対象の三人家族。現在、十■歳。


 三歳で公立■■■幼稚園に入園。卒園後は■■市立■■■小学校へ入学。同学において対象を知る教師数名に聴取をおこなったところ、対象は幼少からしっかりした子どもであったとの証言が複数寄せられた。物静かでありながら自分の意見をきちんと言える子どもで、感情的になった同級生を諫めるような発言が時々みられたとのこと。特に高学年ではクラスメイトに一目置かれており、児童会役員に推薦されることもあったという。なお、当人は推薦を断ったとのこと。


 二〇XX年、私立■■■■学校に進学。当校は学校法人■■学園の運営する附属校であり、内部進学の他、外部からの入学生にも一定の枠を設けている。対象は当該枠を受験し、上位の成績を収めて合格した。


 ■■学園は傘下の学校に対し、きわめて秘匿性の高い学校運営と独特なカリキュラムの開設を求めることで知られる。外部入学者の審査においても一定の条件を満たしていなければ入学を認められない等の制限が掛かる場合がある。


 このような事情がありながら、対象はその条件を一部満たしていなかったとされる書類が乙により発見されている。しかし実際には対象は特例として入学が認可されており、乙はこれを何らかの書面上にない交渉があったとみて追跡調査をおこなっているが、確たる証拠は見つかっていない。

【中略】


 ■■■■■(前回調査における対象四)とは入学初期から面識があった。同じく外部入学者であることも助けとなり、よく二人で廊下を歩いているのを目撃されていた。二年次に『■■■■事件』が起こるまでは他の友人も交えてコミュニティを形成していた。その中で対象は特に目立つ存在ではなかったものの、内部進学組の生徒とも分け隔てなく接していたことから好意的な印象を抱く者が大半だったとのこと。

【中略】


 対象の『■■■■事件』前後の動向について、前回調査から新たに有力な情報は得られなかった。これは『充分な時間を与えられていながら成果が得られなかった』諜報員の不手際を示すものではなく、『不自然なほどに情報が抹消されている』ことを示している。実際に調査に当たった甲曰く「事件に関わる話題を徹底的にはぐらかされている」との所見を残している。こちらも追って調査を続ける。


 以上のことから推測されるのは、対象が人心の掌握に長けており、それをまったく表立たせない狡猾さを併せ持つ人物であるということだ。対象が『■■■■事件』を真に引き起こした人物であるという証拠はどこにもなく、別の視座から鑑みれば『■■■■事件』よりも大きな事態に発展するのを抑止した立役者と見ることもできる。ひとつだけ言えるのは、対象には非凡な能力があり、熟達したエージェントである我々の追跡を免れるほどの才覚を備えているということである。


 あくまでこれらは一諜報員の所見であることを留意の上、以後の調査方針について指示を願いたい。本項とは主旨が異なるため、委細は補記にて後述する。


二 家族・親族の経歴、人物像

【中略】


四 補記

 『■■■■事件』から約半年が経過し、事件当時の記憶が風化している生徒も多く、聴取による調査の継続は困難と言わざるを得ない。学園の運営側からも一部で調査の継続を疑問視する声が上がっており、現場では調査方針の変更を余儀なくされている。


 また、前回調査において計画していた対象への協力要請については、対象の■■■■に大きな変化が生じたため保留としている。当事象に関しては現在も調査中であるが、現時点では『■■■■事件』とは無関係なものと見られている。


 上記を含めた諸般の事情により、本調査書は途中経過を報告するものとして提出する。

【後略】


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