25 神様に見られている気がする


 その日、ファミレスが終わったから居酒屋へと向かうと店の前に張り紙が張られていた。

 

「『申し訳ありません。本日は店主の娘が風邪をひいてしまい。その看病のため店を臨時休業させていただきます。』って……マジか……」


 アルバイト最後の居酒屋が休みになった。娘さんが風邪をひいたらしい。

 もう、なんだか神様に見られているような気分になる。

 早く家に帰れって言われているような、佳奈と将来の話をしろと言われてる気がした。


「って……雨降って来たな」

 

 ぽつぽつと商店街の屋根に当たる音が聞こえたと思えば、段々と勢いが増してきた。

 尚更、早く帰らないとな。


「――――――」

 

 突然と聞こえてきた声に驚いて、振り返り見た。

 ザーッという雨の音が商店街の音を支配していた中、その声だけははっきりと聞こえた。それもかなり近い距離で囁かれたような声だった。

 だが、周りを見渡してもそのような女性の姿は見えない。

  

「…………なんだったんだ」


 雨の音ともに消えていった女性の声に不気味さを覚えながら、僕は足早と家へと帰って行った。




     ◇◇◇




 雨が降り始め、商店街の中の人々が足早に動き始めた。

 その中には様々な人がいた。

 雨宿りのために商店街の屋根の下へと入り込む学生。仕事が早めに終わったのか日が暮れ始める時間帯にもかかわらず居酒屋へと入っていく社会人。買い物をしに来たと思われる主婦。

 アルバイトが休みとなり、店の前で張り紙を読んでいる男性。

 その男の近くに立っている、少女。


 その少女は周りとは一風変わった姿であり、夏に入っているというのに首元ある白い服を着て、その上からは黒いフード付きの服を着ていて表情は読めなくなっていた。

 その場にいるというのに周りからは認識されずに人が移動している道の中央にただ立ち、店の前の男性の方をじっと見つめていた。


「――――――」


 その少女が聞こえないと知っていながらつぶやいた言葉。

 だが、聞こえたように振り返って辺りを見渡す様子の男性。


「!」


 その行動に少女は驚いて、体を引いた。

 自分の声は届くはずがないとは思いながら男性の方に近寄って行くと……やはりこちらのことは見えていない。

 ほっと安心したように胸をなでおろすと、再びその男性を見守るように行動を開始した。



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