エピローグ

 エルちゃんの家での幽霊騒動から、五日が過ぎた。

 例によって、お昼休みになると御子柴さんがやってくる。

「そろそろ、ミーコ、って呼んでくれてもいいんじゃない?」

「……う〜ん……」

 まあ、いいんだけどね。さんざん拒否してきたから、今からそう呼ぶのもな。

 どうせなら──

「花奈ちゃん」

「え?」

「御子柴さんのことは、花奈ちゃんって呼ぶ。それで、どう?」

 御子柴さん、もとい花奈ちゃんが、両手で口を押さえた。両目がキラキラと光っている。

 飛びかかってきそうな勢いで、花奈ちゃんが言った。

「じゃ、じゃあ! あたしも、四ノ宮さんのこと、しおんちゃんって呼んでもいい⁉︎」

「──うん。いいよ」

 かつて水凪が使っていた呼び方。

 今はもう、その名前で呼ばれてもイヤじゃなかった。

 友だちは、名前で呼び合うものだ。

「あ、あのぅ」

 ふと横を見ると、いつの間にか別のクラスの女の子が二人、立っていた。

 ひとりは青ざめていて、もうひとりは付きそいのようだ。何となく、いやな予感がした。

 これは……。

「し、四ノ宮さんって、幽霊、見えるんだよね⁉︎ 実は、相談したいことがあって……」

 やっぱり! だと思ったよ。

 これで今週三度目の相談だ。呪われてるんじゃないかな、この学校。

 どうやらわたしは、みんなの間で、不気味でぼっちの霊感少女から、心霊現象のスペシャリストへクラスチェンジしたらしい。

「はいはい、そっちの話ね。じゃあねえ、とりあえず、そこに座って?」

 花奈ちゃんが、愛嬌たっぷりの営業スマイルを浮かべて、二人に空いている席をすすめた。すっかりマネージャー役が板についている。

「それで、どんな相談かな? 幽霊絡みの話なら、きっと、何でもしおんちゃんが解決してくれるよ」

 解決するのは、わたしじゃないけどね。

 わたしはせいぜい、助手役が精一杯だ。

 だからちゃんと話を聞いて、放課後になったら会いに行こう。

 この学校の旧図書室に住んでいる、過保護でさみしがりの幽霊に。


  ※※※


 海堂水凪様へ


 お久しぶりです。

 四ノ宮しおんです。

 たくさんお手紙をもらったのに、ずっと返事ができなくてごめんね。

 色々書きたいことがあるんだ。中学校のこと。あたらしくできた友だちのこと。

 でもやっぱり、なんのことだかわからないかもしれないけど、最初にこれだけは言わせて。

 ごめん、水凪。本当にごめんなさい。

 すこし長くなるけど、もしよかったら、最後まで読んでほしい。

 あの林間学校の夜に、わたしが水凪を置いていった理由。

 あのときわたしが見たものと、考えていたこと。今から全部、正直に書いていくから。

 読み終わったあと、もしわたしを引っぱたきたくなったら、返事をください。

 うそ。ゆるしてくれるなら、そのときも返事がほしい。

 どっちだって、きっと、水凪がどこにいても、会いにいくから。

 じゃあ、書きます。

 あの夜、わたしはね──……


  (完)

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四ノ宮しおんと図書室の幽霊 深水紅茶(リプトン) @liptonsousaku

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