恋愛成就の処方箋２（ＢＬ編）

第1話

恋愛成就の処方箋２　ＢＬ編

同期入社の二人

残業を終えて会社からの帰り道

男性　坂上 慎也（さかがみ　しんや）

男性　沖田　俊（おきた　しゅん）

俊：もう、随分暖かくなって来たよな。

慎也：ああ、そろそろ桜が咲くころだな。

俊：桜かぁ・・・今年はお花見行きたいよなぁ・・・

慎也：そうだな・・・

俊：・・・

俊：そういえばさ、僕達、同期入社して５年経つよな。

俊：もう同期は、僕達だけになっちゃったよな。

慎也：そうだな・・・

慎也：女は結婚、男は転職したりで、結局、残ったのは俺達二人だけ

俊：うん・・・

俊：そうだ、今日、晩御飯どうする？

俊：何か食べて帰る？

慎也：うーん、そうだな、行こうか

俊：うわっ（慎也の声を遮るように）

俊：急に風が・・・

俊：目に砂が入っちゃって

慎也：大丈夫か？

俊：あぁ、何とか取れたよ

俊：春の風は突然ふくからな

俊：僕も慎也みたいに眼鏡だったらな

慎也：いや、これはこれで面倒なもんだよ

俊：そっか・・・

俊：で、どうする？

慎也：・・・いや、今日は辞めておこうかな

俊：そっか・・・

俊：じゃぁ、また明日な

俊：僕、こっちだから

慎也：あ、あぁ、じゃぁ・・・

俊と別れて一人になる慎也

慎也：あああああああ

慎也：どうして「行く」って言わなかったんだよ、俺！

慎也：折角、最初は勇気を出して、行くって言えたのに

慎也：あんな所で、風が吹くなんて・・・

慎也：でも、改めて聞かれたら言えなくなるなんて・・・ホント情けないな・・・

慎也：「いざ」という時に、勇気が出ないなんて

慎也：でも、俺が俊の事好きだって事、バレちゃうと不味いしな・・・

慎也：あぁーあ、俊との食事が・・・

慎也：仕方ない・・・コンビニで弁当でも買って帰るか・・・

見慣れない古い神社の前を通る

慎也：ん？

慎也：なんだここ・・・神社？

慎也：何か古い感じだけど・・・

慎也：赤い鳥居がいくつも連なってて、幻想的というか・・・

慎也：でも、こんな所に、神社なんてあったかな？

慎也：鳥居がずっと奥まで続いてるんだな・・・

慎也：狛犬の代りにキツネ・・・・

慎也：まぁ、ここで神社の前を通ったのも、何かの縁だし、拝んでいくか・・・

パンパン（柏手）

慎也：俊と友達になって、もう五年

慎也：どうか、今年こそ、出来れば俊とお付き合いがしたいです。

慎也：俊に告白出来るように・・・・俺に勇気をください

パンパン（柏手）

俊帰宅（アパートに一人暮らし）

俊：ただいまぁ・・・

俊：はぁ・・・疲れた・・・

俊：もう、慎也

俊：こっちが、あんなにアピールしているんだからさぁ・・・

俊：ちっとは、気づいてくれよ。

俊：まぁ、僕が誘えばいいんだけど

俊：やっぱり、男が男を誘うって思うと、声が詰まっちゃうんだよなぁ・・・

俊：意識し過ぎかな・・・

俊：でも、慎也って、僕の事どう思ってるんだろう・・・

俊：つぅ・・・たたた（頭痛）

俊：ここ最近、時折この変な頭痛がするんだよな・・

俊：ストレスかなぁ・・・

俊：もう、今日は薬のんで早く寝よ

慎也帰宅（アパートに一人暮らし）

慎也：ただいまぁ・・・

慎也：はぁ・・・疲れた・・・・

慎也：今日も、俊を誘えなかった・・・

慎也：いざ誘おうと思うと、喉が固まっちゃうんだよなぁ

慎也：なんか、蛇に睨まれたカエルというか・・

慎也：それに、タイミングも悪いんだよ、急に風が吹いたりとかさ

慎也：でも、今日の、俊の、お花見の話・・・

慎也：あれってやっぱり、お花見に一緒に行こうって事かな・・・

白狐：そんなもん、そうに決まってるだろ！

慎也：え！

慎也：なに？声？

慎也：どこから？

慎也：えーーーー！

白狐：まぁ、落ち着け

慎也：お、お、落ち着ける訳ないだろ！

慎也：何だよ、この声！

白狐：俺の声だよ

白狐：俺は狐（きつね）、名は白狐（びゃっこ）

白狐：「びゃっこ」って言ってもトラじゃねぇからな

白狐：あんな猫と、一緒にするんじゃねぇぞ

慎也：狐？

慎也：何で、声だけ聞こえるんだよ

白狐：俺は霊だからな、

白狐：まぁ、そのうち、お前にも姿を見せてやるよ

慎也：霊？　幽霊！

白狐：霊って言っても、別にお前を取って食うわけじゃねぇよ。

白狐：俺は、お前が頼むから、わざわざ、来てやったんじゃないか

慎也：俺は、幽霊なんかに、ものを頼んでないぞ

白狐：幽霊じゃねぇよ！

白狐：まぁ、細かい事は、面倒だからいいや。

白狐：お前、今日の会社帰りに、神社に寄（よ）って、お参（まい）りしただろ？

白狐：んでもって、「勇気をください」とかって、願掛（がんか）けしただろ？

慎也：たしかに、頼んだけど・・・

白狐：だから、来てやったんじゃねぇか

白狐：お前、何とか君（くん）と、デートしたいんだろ？

白狐：だったら、俺が協力してやるよ

慎也：ホント？

慎也：でも、俺と俊は男同士だけど、白狐的には大丈夫なの？

白狐：あぁ、そんな事、構やしないよ。

白狐：侍の時代なんて、そんなのばっかりだったぞ

慎也：そうなの？

白狐：あぁ、そうさ

白狐：だから、大丈夫だ、

白狐：俺が、何とかしてやる

白狐：で、お前、名前は？

慎也：俺は慎也・・・

白狐：慎也、お前は、勇気が欲しいんだって？

白狐：でも、勇気なんて、お前次第だからなぁ・・・

慎也：そうなんだけど、何かないの？

慎也：道具とか薬とか・・・

白狐：まぁ、そういうのが、あることは、あるんだが・・

白狐：お勧めはしないぞ

慎也：そんなのがあるなら、教えてよ

慎也：どんなの？

白狐：うーん、「武者玉（むしゃだま）」って言うんだけどな

白狐：ほら、こんなやつ

武者玉を取り出して見せる白狐

慎也：光る玉が、浮いてる・・・

白狐：あぁ、これを使うと、勇気が千倍になる

白狐：今は、これ一つしかないがな

慎也：何それ！　凄いじゃない

慎也：俺に使わせてくれよ！

白狐：ただし、これを使うには、条件があるんだよ。

白狐：使う人間の魂と交換しなきゃいけないんだ

慎也：魂と交換？

慎也：それって死んじゃうって事？

白狐：そういう事

白狐：武者玉を使って、事を成した後に、魂を貰（もら）って天に届ける

慎也：それじゃ、意味ないじゃない

慎也：誰が使うの、そんなもの

白狐：そう言うけどな、昔は割と使われたんだぞ。

白狐：そもそも「武者玉」ってのは、大勢の敵を相手に、戦わなきゃならない武者が使うんだ

白狐：どうせ死ぬなら、沢山の敵を倒して、武勲（ぶくん）を立ててから死ぬって感じでな

白狐：まぁ、だから、告白には、お勧めしないって言ったんだよ

慎也：そりゃ、恋が成就しても、死んじゃったら意味ないしね

慎也：あぁ・・・やっぱり、そんな便利なものは、ないか・・

白狐：そうガッカリするなよ

白狐：俺が長年の経験で、助言してやるからよ

白狐：いいか慎也、まず、告白ってのはな・・・

次の日の会社帰り

俊：今日も遅くなっちゃったな

慎也：そうだな

慎也：（心の声）

慎也：俊、遊びに行こう、俊、遊びに行こう、俊、遊びに行こう・・・・

俊：今日はまだ、木曜日か・・・

俊：あぁーあ、今週の週末、どうしようかなぁ・・・

慎也：俊・・・

俊：何？

慎也：今度の日曜日なんだけどさ、

慎也：俺と、あ・・

俊：あ？

慎也：あ・あ・あそ・・・

慎也：あ・・ひぃ・・・

慎也：あ・あそこの店って何て言ったっけ？

俊：あそこの店？

俊：あそこって？

慎也：いや・・・いいんだ・・・ははは

慎也：はぁ・・・（ため息）

俊の部屋

俊：ただいま・・・

俊：はぁ・・（ため息）

俊：もう、慎也！

俊：もうちょっとだったのに・・・

俊：絶対「遊びに行こう！」だっただろ。

俊：こっちはＯＫの準備して待ってたのに・・・

俊：うっ、痛ぁーー（前よりひどい頭痛）

俊：何か、頭痛が、だんだん酷くなってくる・・

俊：嫌だな・・・何かの病気だろうか・・

慎也の部屋

慎也：ただいま・・・

白狐：慎也、どうだった？

白狐：うまく遊びに誘えたか？

慎也：ダメだった・・・

慎也：やっぱり「いざ」って時に、どうしても、縮（ちぢ）こまっちゃって・・・

白狐：そうか・・・

白狐：俺と話している時の慎也は、それほど腰抜けとも思えないけどなぁ

慎也：俺も不思議なんだ・・・

白狐：やっぱり、今の時代は、男同士は難しいのかねぇ～

白狐：まぁ、でも、こういうのは、場数（ばかず）だからな

白狐：次、頑張ればいいさ

慎也：・・・うん・・そうだな・・・

数日して

会社に出社した慎也

慎也：おはようございます。

慎也：あれ？

慎也：今日も沖田君、休みなんですか？

慎也：もう３日ですよね？

慎也：どうしたんだろう・・・

白狐：慎也、チャンスだ！

慎也：あわわわ、白狐、どうしたんだよ突然

慎也：会社の人に聞かれたら・・

白狐：それは大丈夫、お前以外には聞こえねぇよ

白狐：そんな事より、慎也、チャンスだぞ！

慎也：チャンスって何がだよ

慎也：俊は、病気で休んでるんだぞ

白狐：だから、チャンスなんだよ

白狐：慎也、お見舞いに行け

白狐：病気で弱っている人間は、落としやすいぞ

慎也：そんな姑息（こそく）な・・・

白狐：そんな事言ってるからダメなんだよ

白狐：お見舞いに行けよ、絶対に行け！

白狐：昼間の方がいいから、会社は早退しろ

白狐：俺も付いてってやるから

慎也：えーー分かったよ

俊のアパート付近の公園

慎也：ごめんな、体調悪いのに

俊：ううん、僕の方こそ、ごめんな

俊：折角、お見舞いに来てくれたのに、近くの公園でだなんて

俊：部屋にあがって貰えれば、よかったんだけど

俊：かなり散らかってて・・・

慎也：俺の方こそ、ごめんな、突然・・・

俊：ううん、嬉しかったよ・・・・

白狐：（無声音）今だ慎也、行け！

慎也：俊、こんな時に、あれだけど・・・

俊：え？

慎也：俺、俊の事が好きなんだ

俊：うわっ（言葉を遮るように）

俊：急に風が・・・

慎也：また・・・

俊：慎也、今、何か言ったか？

慎也：いや、だから・・ひぃ

慎也：・・いや・・なにも・・・

俊：そう・・・

白狐：なるほど、そういう事か・・・

慎也：俊・・・えっと・・

俊：うううう・・痛い（激しい頭痛）

慎也：大丈夫か？

俊：ちょっと頭痛が・・・

俊：このところ酷くてさ、起き上がるのも辛い時があるんだ

俊：ごめんな、折角、来てくれたのに

慎也：何言ってんだよ、俺の方こそ、ごめん

慎也：もう、部屋に帰ったほうがいいよ

俊：ごめん、そうさせて貰うよ

俊：今日は、ありがとう

慎也：あぁ、お大事にな・・・

自分の部屋に帰る俊

一人残される慎也

慎也：あぁーあ、やっぱり告白できなかった・・・

慎也：しかも、俊に、悪い事しちゃったな

慎也：白狐！　お前がお見舞いなんて・・

白狐：おい、慎也

白狐：あの兄ちゃん、死ぬぞ

慎也：ちょ、何言ってんのさ

慎也：どういう事だよ

白狐：お前には、見えないかもしれないが

白狐：あの兄ちゃんには、蛇の怪異が付いている。

慎也：蛇の怪異？

白狐：あぁ、蛇の怪異だ

白狐：あの蛇はな「人恋しくて寂しい人間」に取りつくんだ

白狐：そして、ジワジワと弱らせていって、最終的には殺す。

白狐：殺した後、その魂を冥界に連れ去っていくんだよ

慎也：そんな・・・

白狐：あの兄ちゃんの、体調が悪い原因は、それだな

白狐：それと、

白狐：お前が、あの兄ちゃんに近づこうとする度（たび）に、あいつが邪魔をしているのさ

白狐：自分の取りついた得物を、お前に渡したくないんだろうな

慎也：だから、突然、風が吹いたりしたのか・・・

白狐：そういう事だ

白狐：自分の大事な得物（えもの）だからな

慎也：俊が得物・・・

慎也：白狐、お前なら、その蛇を何とかできるのか？

白狐：あぁ、俺なら問題なく倒せる。

白狐：あいつは、それ程強くないからな

慎也：じゃぁ、頼むよ、白狐

白狐：ただ、あの兄（にい）ちゃんに取りついている今の状態じゃ

白狐：衝撃が、直接、彼にも伝わっちまって、

白狐：彼も、死んじまうよ

白狐：奴を倒すには、まず、兄ちゃんから、奴を引き剥（は）がさなきゃいけないな

慎也：どうやったら、引き剥がせるんだよ

白狐：慎也が、奴に「こいつは俺の得物だ」って見せつけてやればいい

白狐：そうすれば、奴は嫉妬に狂って、お前を殺そうと、あの兄ちゃんから離れる

慎也：でも、見せつけるって、どうやって

白狐：うーん、例えば

白狐：お前が、あの兄ちゃんを抱きしめて「慎也の恋人」だって言わせればいいんじゃないか？

慎也：でも、蛇が邪魔してくるんだろ？

白狐：お前が、奴に負けないくらいの気合で、兄ちゃんを抱きしめてやれば、いけるんじゃないか？

慎也：でも、そんな事・・・

白狐：まぁ、お前次第だな

白狐：こうしている間にも、あの兄ちゃんの体力は、どんどん弱っていくぞ

慎也：俺にはそんな事・・・

暫く考える慎也

慎也：そうだ白狐、俺に武者玉をくれ

白狐：武者玉を使えば、お前でも、引き剥がすくらいは、出来るだろうけど・・・

白狐：武者玉を使うって、どういう事か知ってるだろ

白狐：お前の魂と交換だぞ

慎也：分かってる

白狐：分かってるって・・・

白狐：それでお兄ちゃんは助かるだろうけど

白狐：お前が死んだら、意味がないだろ

慎也：それでも、俊を、冥界に連れて行かれるよりは、よっぽどましだ

白狐：でもよ、兄ちゃんは悲しむんじゃないか？

慎也：それは・・・

慎也：彼には、ちゃんと説明するよ

慎也：今は、その方法しかないんだろ？

白狐：確かにな・・・

白狐：わかった

白狐：でも、本当に、それでいいんだな？

慎也：ああ、いいよ

白狐：慎也、一つ言っておくが

白狐：武者玉ってのは、それを使う人間の勇気を増幅させるものだ

白狐：だから、元々の勇気がなければ、幾ら武者玉を使ったって、大して効き目はないぞ

白狐：つまり、お前自身がしっかりと勇気を奮い起こさないと

白狐：奴には勝てないって事だ

白狐：やれるのか？

慎也：え・・・・

慎也：うん・・分かった、

慎也：や、やるよ

白狐：わかった、じゃぁ行くぞ

俊の部屋の前まで来る

白狐：ここが、あの兄ちゃんの部屋か？

慎也：うん、ここで間違いない

白狐：よし、カギは俺が開けてやる

白狐：慎也、覚悟はいいか？

白狐：俺が「武者玉」入れてやるからな

慎也：うん

白狐：よし、いけ！

パン！　背中をたたく白狐

慎也：よし！　いくぞ！

白狐が俊の部屋の鍵を開ける

慎也が俊の部屋のドアを開ける

慎也：俊、入るぞ

俊：慎也・・・どうして、痛っ頭が・・（ひどい頭痛）

慎也：俊！

俊に近づこうとするが、蛇が姿を現し、慎也を近づけさせないように邪魔をする

慎也：く・・近づけない

慎也：くそう・・・蛇め・・

白狐：お、正体見せやがったな

白狐：慎也、行け！

慎也：くうううう

慎也：そんな事いっても・・・

白狐：何やってんだ、好きな男が持っていかれるぞ

慎也：うおおお、俊！

俊を抱きしめる慎也

俊：慎也・・・ちょっ・・・

俊：どうしたんだよ、抱きついたりして・・・

慎也：俊、お前は、俺の恋人だ、いいな！

俊：え？

慎也：お前は、俺の恋人なんだ

俊：慎也、どうしｔ・・

慎也：俊、お前は、

慎也：俺が「死ぬまで」

慎也：お前は、俺の恋人だ

俊：慎也・・

慎也：「恋人だ」って言え！

俊：あぁ・・・

慎也：言え！

俊：僕は慎也の恋人だ！

俊の身体からスッと何かが抜ける

俊：あ・・・体が・・・

慎也：俊、どうした？

慎也：大丈夫か？

俊：あれ？

俊：痛くない・・・あの頭痛がまるで嘘みたいに

俊：どうして

俊：これ、慎也のおかげなのか？

慎也：ま、まぁ・・・

俊：ありがとう

慎也：苦しかっただろ？

慎也：遅くなってゴメンな

俊：ううん・・・

白狐：おい慎也、こっちも仕留めたぞ

白狐：見ろ、こんなにでかい蛇だ

慎也：そっか、良かった

慎也：白狐、お前って、そんな姿をしてたのか

白狐：へへへ、まぁな

そこには大きな蛇を担いだ白狐がいた

俊：うわぁ！

俊：何っ！

慎也：大丈夫

慎也：あれは、白狐っていう狐の霊だよ

俊：白狐？

慎也：俊に取りついていた、あの蛇を見つけてくれて

慎也：退治の仕方まで教えてくれたんだ

俊：あの蛇が僕に・・・あんなに大きい

白狐：そうだぜ兄ちゃん

白狐：もう少しで、あんたは、こいつに殺されるところだったんだ

白狐：でも、その男が勇気をだして、あんたの身体から、この蛇を引っ剥がしたんだよ

白狐：そして、俺が仕留めたって訳さ

俊：白狐さん

俊：ありがとうございます。

白狐：お礼なら、慎也に言いな

白狐：まさに命がけで戦ったんだ

白狐：そうだろ？

慎也：う、うん

俊：え？

俊：どういう事？

慎也：俊・・・

慎也：実は、俊に話さないといけない事があるんだ

俊：話さないといけない事？

慎也：うん

慎也：俺が蛇に立ち向かえたのは、その白狐がくれた「武者玉」のおかげなんだ

慎也：この武者玉を使うと、どんな強大な敵にも、立ち向かう勇気が湧いて来るんだ

慎也：そのかわり・・・

慎也：俺の魂を、捧げないといけないんだ

俊：魂って・・・まさか

慎也：うん、俺はもう、生きていられないんだ

俊：そんな

慎也：でも、俊を助けられてよかった

慎也：だから、俺の命はもういいんだ

慎也：どうしても、俊を死なせたくなかったんだよ

慎也：ましてや、あんな蛇なんかに、俊を連れて行かせるなんて

慎也：絶対に嫌だったんだ

慎也：だから、後悔はしてないよ

俊：そんな、

俊：幾ら僕に命があったって、慎也がいないなら、同じじゃないか

俊：勝手だよ、慎也

慎也：俊・・・ごめんね

俊：白狐さん！

俊：何とかする方法は、ないんですか？

白狐：うーん・・・

白狐：武者玉が魂と引き換えってのは、俺じゃなくて、もっと上の神様が決めた事だからなぁ

白狐：俺じゃ、何とも出来ないんだよ

俊：それじゃ、僕の魂を、代わりにする事は出来ないんですか！

慎也：俊、ダメだよ折角助かった命なんだ

俊：何をいうんだよ

俊：こんな勝手なことやっておいて

俊：僕の気持ちも分からないくせに

白狐：うーん、

白狐：武者玉は使った人間の魂と交換だからなぁ・・・

白狐：代わりの人間って訳にはいかないなぁ

俊：それなら、僕にも武者玉をくれないか！

俊：僕も武者玉を使う

俊：それなら、慎也と同じだろ

慎也：俊、そんな事しちゃダメだ

慎也：それに、白狐は武者玉を１つしか持ってないから、俊の分はないよ

俊：そんな・・・

俊：僕はどうすれば

慎也：俊には、これからずっと

慎也：俺の分まで、生きて欲しい

俊：慎也・・・

慎也：俊、大好きだよ

白狐：えーと・・・あれだ・・

白狐：武者玉ならあるよ

白狐：ほら

武者玉を見せる白狐

俊：白狐さん

俊：それを、僕に下さい。

慎也：ダメだって俊

慎也：白狐！

慎也：お前、武者玉は一つしかないって、言ったじゃないか

白狐：あぁ言ったよ

慎也：だったらどうして、もう一つ持ってるんだよ

白狐：だって、お前、武者玉使ってないもん

慎也：え？

白狐：言葉の通りだよ

白狐：どうしてもの時に、お前に投げつけてやろうと思ってたけど

白狐：使わずに済んだんだよ

慎也：どうして、黙ってたんだよ

白狐：まぁ・・あれだ

白狐：お前たちが、そんなイチャイチャやってるから

白狐：言い出しにくくてな

白狐：悪い悪い

白狐：って事で、兄ちゃん

白狐：そいつは死なないよ

俊：そうか

俊：それはよかった・・・

白狐：慎也、これで、約束は守れたな

白狐：んじゃ、俺はこいつを持って帰るわ

慎也：白狐、君のおかげで人生が変わったよ

慎也：本当にありがとう

白狐：これから先も上手くやれよ

白狐：じゃぁな

白狐の身体が消えていく

俊：慎也、

俊：僕なんか、夢を見ているみたいだ

慎也：これは、夢じゃないよ

俊：そっか

俊：やっぱり夢じゃないんだ

慎也：あぁ

俊：慎也・・・ありがとう

慎也：ううん、俊、これからもよろしくね

俊：うん

慎也：俊、大好きだぞ

俊：僕も

終わり