第46話 兆し

 ――倒れるフェリル。

 私が魔王の力を宿している事を知っていた。

 そして、おそらくだけど、本当は私を魔王の力ごと消すのが目的だったんだろう。


 私を消すチャンスはいくらでもあった。

 私はフェリルを膝枕した事があるし、話している時もずっと無防備だった。

 あの精霊魔法が使える宝珠があれば、ヤサクニの防御を突破して簡単に仕留められるはず。


 それでも私と一緒にいてくれたんだ。

 それはきっと、『友達』だって思ってくれていたから。


(……約束、守るから!)


 フェリルの想いに応えるためにも、エレオノーラたちを救わないと!


「邪魔をして……!」

「レムリア様ぁ……今度こそ……!」


 立ち上がってくる二人。

 そして、魔法を放とうとするが、その瞬間に私はアポカリプスで高速移動をする。


(魔法を撃たせる時間を与えちゃいけない!)


 アンナベルに一瞬で近寄り、正拳を放つが、命中したアンナベルは崩れ落ちる。


「……つ、土人形!?」

「ふふっ、今日は受ける日じゃありませんよ♪」


 離れた場所に移動していたアンナベルが連続でストーンバレット……石礫を放ってくる。


「……このっ、このぉ!」


 あの石礫は、グラビティフィールドを貫通してくる威力があるので、拳で迎撃。

 これでなんとか対応するが……


「……私を見ないというのは、あまり関心しないわね」


「えっ……くっあぁぁあああ!」


 エレオノーラの放った雷魔法が直撃する。

 その威力は凄まじく、私の周りの地面を抉っていた。


「う……ぐぅ……」


 グラビティフィールドのおかげでダメージは軽減されてはいるが、そう何度も受けられるものではない。


「……温いわね、レムリア様。それとも、『理想』になった私でも、本気になってもらえないという事かしら?」

「な、何を……くっ!?」


 その瞬間に、四方から雷球が襲ってくる。

 包囲される前に高速移動でその場を離れるが、その動きを呼んでいたかのように、別の場所からも雷球が迫ってくる。


「この戦い方って……アオイさん!? 理想って、もしかして……」

「そうよ。私ではレムリア様の隣には立てない。でも、いつかアオイ様のようになれば、私はレムリア様の隣に……お二人と一緒に歩けるんですわ!」

「そ、そんな事しなくても、私もアオイさんも……きゃあぁっ!」


 地面から現れた石の壁。

 左右から迫り、私の両手両足を取り込み、私は大の字の磔状態で拘束されてしまう。


「レムリア様ぁ……アンナベルだけじゃなくてぇ、私も見てくださいよぉ……」


 動けない私に、近づいていくるアンナベル。


「ア、アンナベル……ぐぅっ!」


 そして、思いっきりお腹を殴られる。

 だが、私は激痛よりも気になる事があった。


「アンナベル、その手……」


 血まみれのアンナベルの手……おそらく、これが魔力を無理やり引き出している代償だ。


「やめて、アンナベル! そんな状態じゃ、動くだけでも……あうぅ!」


 またしても、私を殴る。


「うるさいですねぇ。今は私がいたぶる版で……あれ?」


 そう言いながら、アンナベルは魔力を手に集めるが、その瞬間にまた血が噴き出る。


「あれれ……?」

「奇遇ね、アンナベル。さっきから私も、同じような状態なの」


 そこに近寄ってくるエレオノーラ。

 同じように、手から血を流していた。


「魔法を撃つと体が傷つく……魔物に憑依されて、潜在魔力も無理やり引き出された時の症状に似ているけど、私はただ、いつものように魔法を使って……いつものように……?」


 授業で習った内容を確認するという、本来の思考がよぎったせいか、自分の今の行動に疑問を持つエレオノーラ。


「いつものように……私はフェリルやアンナベルと一緒……そして最近は、アオイ様や、レムリア様と……で、でも……さっき私は、フェリルに魔法を放って……レムリア様を倒そうとして……倒す……? レ、レムリア様を……私が……?」


「私もなんで、誰かをいたぶって……あれぇ? たしか私は、人に向かって魔法を撃たないって決めたはずでしたよねぇ。だから、防御魔法ばっかり練習して……あ……ああ……」


「……! ふたりとも、正気に戻って……」


「わた……わた……あ、ああああぁぁあああっ!」

「あ、うあああぁああああ~!」


 正気に戻りかけた瞬間、瞳に黒い影が映り、同時に叫び声をあげるふたり。


「やめて……」


 想像を絶する苦痛なのだろう。

 二人は立っている事すらできずに膝をつき、叫び続ける。


「やめて……やめてよ! なんでこんな事……狙い私なんでしょ! 二人は関係ない!」


 なんとか動こうとするが、私を拘束する強固な石の壁により、身動きがとれない。


「……ぐぅ、うぅぅぅぅうううううっ!」


 それでも、なんとか動こうと手足を動かす。

 肩は外れ、足首も感覚が無い。


「うぅ……うぅぅ! うあぁぁあああっ!」


 ……だが、それでも私の体は動かない。


(何が、魔王の力……魔王の武具……)


 この世界を滅ぼす存在の魔王。

 その力を宿したのに、目の前の友達すら助けられない。


「魔王の力だっていうんなら……全てを滅ぼす事ができる力だっていうんなら……もっと私によこせぇぇええええ~~!」


『……いいだろう』


「……え?」


 その言葉に応えるかのように、ヤサクニがいつも以上の黒い光を放ち、私を覆っていく。

 そしてその光は、私を魔王モードではない、別の姿へと変えていく。


「な、何が……」

「レムリア様……?」


 私を見るエレオノーラ達。

 そんな二人に私は――


「……消してやる」


 ――出した事がない、冷たい言葉を発した。

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