配信31 ほぼ速報:『帝王の牙』、勇者指定を解除

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「最近事件のニュースばっかりだったんだけど、久々に勇者関連のニュースが入ってきたぞ~!」

「……」

「バルがめちゃくちゃ微妙な顔をしている」

「そりゃ微妙な顔にもなる」

「まあこの内容を見ればねえ」

「言いたいことはそれだけではないが……まあ速報のようなものだろう。さっさと読め」

「早くてたすかる~」



+++――――――――――――――――――――+++

《『帝王の牙』、勇者指定を解除》


 勇者パーティ『帝王の牙』が、勇者指定を解除されることになったという一報が入ってきた。

 『帝王の牙』は、帝国メルギスで勇者指定を受けた勇者を中心にしたパーティ。この『帝王の牙』は以前、アンデッドであるガムテ・リッチの支配する★3の不死系ダンジョンにて壊滅状態に陥って以降、運び込まれたナタルシャ村で治療を行っていた。


 表向きは壊滅状態に陥ったことで再起不能と判断したとのことだが、『帝王の牙』には以前からあまり良い噂を聞いていない。勇者である人物が派手好きで、宿にはとっかえひっかえで娼婦を呼んでいたという話もある。また、店や同じ冒険者に対して横暴な態度をとっていたという真偽不明の噂も流れている。そうした背景もあったのではないかとメルギスの関係者は語っている。

 関係者によると、「帝王はもともと身内には厳しい方です。壊滅状態になったのは可哀想ですけど、『帝王の牙』自体にもあまり良くない話もあがっているので、国の評判が落ちることを危惧したのではないでしょうか」と語る。

 また、「勇者を指定して後ろ盾になっても、真の勇者にはなれないかもしれない、みたいな話があがっているので、それもあって解除したのかもしれませんね」とも語った。しかし、指定を解除されてもまだ真の勇者になる可能性は残っている。なんとかがんばってもらいたいところだ。

+++――――――――――――――――――――+++



「ついに勇者指定を解除されちゃった人たちまで出てきちゃったな」

「それよりこのニュースの原稿は毎回だれが書いているんだ」

「魔王の部下の人たちが持ってくるからだれが書いてるかはわかんないんだけど」

「まさか報告をすっ飛ばしてニュース風に書いているのか!?」

「そうかもねぇ」


「でもバル的にはどう? この話」

「ふむ。こっちに直接上がってくる報告でも、あれ以来、碌な戦果をあげていないようだからな。人間どもにも愛想を尽かされたんだろう」

「あ、そこはやっぱり注目してたんだ」

「当たり前だ。『我こそが勇者なり』と名乗りをあげた奴等の情報くらいは入ってくる」

「私のとこにも入ってきてるけど、なんでなんだろうね?」

「それは吾輩としても最大の疑問だ」


「この人たちはもともと、えーっと……窃盗被害にあって、パーティにいた盗賊を追い出したんだよね。だけど後継に盗賊系の支援職を入れなかったせいで、壊滅状態になっちゃったっていう話があって」

「そうだったな。それ以来、後方支援職を入れるパーティが増えたようだが」

「そういうことも調査してるんだ」

「……いちおう言っておくと、こっちも増やしたからな」

「増やしたのか」

「そりゃそうだろう」

「それはそう」


「でも最近はちょっと勇者関連のニュースも入ってきてなかったから、久々だね。どこそこのダンジョンを制覇した、みたいなのはあるんだけど。バル的にはここが真の勇者になりそう、みたいなのはある?」

「単純な実力だけでいうなら、やはり……『王剣の守護者』か」

「おお! コスタズの王位継承者じゃん! やっぱりタイジュ=クドーの血筋は強いな~! みんなもそう思うよね?」

「……そういえばコメントが見られるのだったな。いきなり何か言い出すからお前の頭がおかしくなったのかと思った」

「……」

「無言で髪を引っ張るな、痛いだろうが! 不敬者め……!」

「いや最近ちょっとコメント弄らなくなってただけでひどくない?」

「お前も忘れていたのでは……」


「ただ、『真の勇者』は国から指定されてなくてもなる可能性はあるから、がんばってほしいね」

「実力の方は段違いになるかもしれんがな」

「そうかなあ?」

「本物の勇者でなくても、国の後ろ盾があるのと無いのでは、やはり違うだろう。店や町での扱いも違ってくるだろうしな。今回はその中で一組脱落ということになるが」

「またそろそろバル的注目株聞いてみたいな~。勇者指定されてなくても何組かはいるでしょ?」

「まあ、いないことはないが」


「じゃあそのうちってことにして、このあたりでブレイク! このあとも引き続き楽しんでいってくれ!」

「そろそろ邪霊楽団にまともに奏でさせるつもりはないのか?」

「聖歌ならいいよ!」

「それはやめろ」


「ところで継承者という意味ではお前もそうだろうが」

「だって私継承者っていっても99位だよ」

「それもそうだったな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る