配信22 続報:氾濫したマーゼ川、ケルピーに注意

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「今日もまだ大変だな、マーゼ川」

「今日もその話か」

「だって報告が入ってくるし」

「その報告が相変わらず吾輩の方に先に来ないのはもう突っ込まないからな」

「堂々とつっこんでくれてありがとう!!」


「まあ私の方に報告するとそのままニュースで読んでくれるからついでに魔王様への報告も済んで一石二鳥! みたいな風潮はある」

「本当に一度殴り飛ばすぞ全員」

「というわけで、あんまりバルと遊んでてもアレだから話を進めると」

「吾輩はお前に付き合っている立場なんだが?」


「昨日に引き続いてマーゼ川の氾濫の話なんだけど」

「なんだ、他に何かあったか?」

「ケルピーが発生してるらしいんだけど」

「そりゃいるだろうよ」

「そうなの?」

「マーゼ川にはもともといるからな。それよりニュース……ではなく報告を早くしろ」

「はいはい。昨日に引き続きのニュースだからさっさといくよ」



+++――――――――――――――――――――+++

《大雨により川が氾濫 川の魔物たちに注意》


 都市国家マグ・アグを襲ったマーゼ川の氾濫は、いまなお続いている。

 竜の激突によってできた台風が南アド地方を襲った今回の災害だが、現地では昨夜から取り残された人々の懸命な救出活動が続いている。だがそれを阻むのは一緒に入り込んだ水棲の魔物たちだ。ただでさえ魔物が魔王によって活性化しているいま、水棲の魔物たちが泳ぐマグ・アグはある意味でダンジョン化していると言えよう。マグ・アグの首長は冒険者ギルドにも既に依頼し、事態収拾に動いているようだ。


 その中で、どうやらケルピーを捕獲するべく動いている者たちがいるという。

 ケルピーは水辺に棲む馬で、水辺に近いダンジョンなどにも生息している魔物だ。見た目は馬だが後ろ足が魚の尾になっていて、そのたてがみは海藻になっている。人を惑わし好戦的でもあるが、一度手懐けてしまえば水上を自由に動けるようにしてくれたり、重い荷物を持ってくれたりするなどの助力が得られる。水のダンジョンに赴く際は、ケルピーを従えたテイマーを探せ、と言われるほどだ。

 そんなケルピーを手懐けようと、テイマーだけでなく商人や一般人までマグ・アグの周辺に集いつつある。マグ・アグは現在封鎖されているものの、中に入ろうと忍び込んだり他の魔物に襲われたりと事故が多発している。それが救出活動ならびに討伐の横で起きているのだからたまらない。


 マグ・アグを現在闊歩しているのはケルピーだけではない。首長は「まだ何があるかわからない。特に護衛のいない商人は危ないので、冒険者に任せてほしい」と困惑しながら語った。

+++――――――――――――――――――――+++



「こういう水害の時ってすぐ出てくるよね、ケルピー」

「それが奴らの仕事だからな」

「というか、ケルピーって結局なに? 水の近くにいる馬の怪物だってことだけは知ってるんだけど」

「たったいまお前がニュースで読んだだろうが!?」


「いやもうちょっと詳しいこと聞きたいんだよ。だいたい、人を惑わすって何?」

「あー……。そうだな、奴らは普通の馬のふりをすることができる……ということだ。上半身の見た目だけなら白く美しい馬だ。そんなものが水辺で休んでいるように見える。すると、なんといういい馬だ、捕まえよう……という人間を引きずり込んで、水の中で食い殺す」

「うわ」

「とはいえ手懐けた人間には懐くからな。ある程度は仕事を手伝う。……だからこそ不用意に近づく人間を更に別の種が食い殺す、なんてことがありえるのだ」

「どうやって手懐けるの?」

「手っ取り早いのは、馬具をつけてしまうことだ。それで契約がなされる。とはいえ、つけるのは大変だぞ」

「へー。テイマーだともっと簡単なのかな」

「テイマーならある程度補助ができるのではないか?」

「それはありそう」


「それこそケルピーだけ捕まえるのめっちゃ上手い人とかいそうだな~」

「そいつはもうケルピー専門でギルドでも立ち上げろ。貸し馬車業者とか需要あるだろう」

「水上のケルピー専門の貸し馬車業者は既にあったよ」

「過去形ではないか」

「投資型で、契約してケルピーの持ち主になれるってのが売りだったんだけど、実際にはまだ現物のいない……、捕まえていないケルピーに投資させられてたり、いたかと思えば実際に乗ろうとしたら既にメチャクチャに酷使されたものがやってきたりとかですごい問題になって、他にもいろいろあって倒産したよ」

「今の話の方が聞きたいんだが!?」

「えー。でもこれ確か二年くらい前に話題になったやつだよ」

「そんなことはどうでもいい、聞かせろ」

「え~~」


「それじゃあ、なんかバルがうるさいからこのあたりで一旦ブレイク! ちょっと待っててね!」

「待て、吾輩のせいにするな」

「っていうか私だって資料がないと話せないからね!? それじゃ、今日も楽しんでいってね!」

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