配信21 速報:火炎樹の森、大雨で危機に

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


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「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「そして緊急ニュースだ!」

「いきなりだな」

「結構おおごとになってるからな! いきなりでもいくぞ!」



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《火炎樹の森が 原因は大雨》


 南アド地方に存在する巨大な火炎樹の森が大雨で全滅してしまったとの一報が入った。

 火炎樹とは火属性をもった樹のことで、燃えさかる火によって成長する。サラマンダーなど火属性の精霊たちが好んで住むことがあり、この樹から時折生まれるエルフも火属性を扱うという非常に珍しい樹。もちろん、住んでいる魔物もほとんどが火に耐性のある魔物ばかり。


 この火炎樹の森は常に40℃以上の熱があり、入るのにも専用の装備が必要な場所。普段であればたいていの雨にも耐えるが、今回は違った。

 原因は、上空での竜同士の激突。それに伴い天気が崩れ、超大型台風が発生。軌道上に乗った超大型台風は馬車並のスピードでゆっくりと南アド地方に接近し、今回の大雨に繋がった。


 火炎樹の森は、そもそも火耐性の素材としてはかなり有用な場所。明確なダンジョンではないが危険地帯・冒険地の一つとして知られている。火属性と親和性の高い杖などの材料もこの森から素材がとられているため、この雨はかなりダメージとなりそうだ。地元で火耐性の衣服を作る女性は、「まだ被害状況がまったくわからない。素材となる魔物もダメージを受けている状況で、気が立っているのかかなり危険な状態。こっちも途方に暮れている」と語る。

 今後、火耐性持ちや火属性系の武具・素材などが高騰する可能性もあり、この季節外れの大雨に人々は頭を抱えている。

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「火炎樹もそうだけど、燃えてる魔物も雨ってダメなのか?」

「場合によるな。それにお前達……、というか、冒険者の間でもよく知られた知識だと思うが、火を纏っている魔物に一気に水を浴びせれば弱点を突ける、というのは知っているか」

「ああ、知ってる知ってる」


「燃えてる敵には水の魔法、っていうのは基本だね。ぐうぜん遭遇した時にもまず水の魔法を試してみる人も多いんじゃないかな。意外に氷とかは、でかい氷をぶつけるだけじゃダメだって聞くし」

「あれは一気に魔力による水をぶっかけるから効くのであって、たいていの雨くらいであれば樹と同じだ。じわじわとは効くが、一気に形勢逆転できるものではない」

「ほー? まあ、樹もそうだけど普通の雨くらいだったら平気なんだ」

「本来なら隠れられる場所があるからな」

「あー、森の中だしね。樹もお互いにお互いを守ってるような感じだっていうし……」


「そうだ。だが今回は普通の雨ではなかった、ということなんだろう」

「そもそもが竜同士の激突で出来た台風だしなあ」

「……竜は前にも言った通り、神獣。しかしその性格も様々だ。穏やかで人間とも絆を結ぶものもいれば、群れて魔物に近いものもいる。上空で衝突したというのなら、好戦的なものがたまたまかちあったんだろうな」

「時々あるみたいだなー」


「そのうえ、進路がたまたまあっちの方向に行っちゃって、そのうえスピードもかなりゆっくりだったって話だからね……」

「そりゃあ、火炎樹の森も朽ちるだろうさ」

「あ、それと関連でもうひとつニュースがあって」

「なんだ、まだあるのか」



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《大雨により川が氾濫 川の魔物たちに注意》


 南アド地方を襲った大雨により、中心を流れるマーゼ川が氾濫。周囲の都市には警戒・場合によっては避難指示が出されているところもある。状況を確認次第、一般人は指示に従って避難。また何らかの対処を求められている方々はじゅうぶんに注意して対処してください。


 氾濫したのは整備されているはずの都市国家マグ・アグ。原因は水量の増加により猛り狂った魔物たちが一気に押し寄せたことにあるという。既に一階部分まで水に浸かっているところもあるといい、避難や救助が進んでいる。

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「……ほう。地図はあるか?」

「今ある? 無い? 無いか。誰かに持ってきてもらおう」

「誰でもいい、すぐ持ってこい」


「ていうか、バル結構興味深そうに聞くね?」

「そりゃそうだろう。吾輩は魔王だぞ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「じゃあなんだ」

「こういう時に地図とか要求するんだと思って」

「……まあな」


「それにしても心配だ。浸水してるってことは水の魔物たちが一緒になだれこんできてるってことだから、気をつけて避難してください。取り残されてる人達は、安全な場所から救助を待ってください! 水の中に入って泳いだりしないように!」

「ふん。そういう奴を狙えば良いのだ」


「不安だったら私たちの声を聞いてね~」

「そこに吾輩を含めるのは何か違わないか!?」

「え、そんなことなくない?」

「そんなことあるだろう!! ……えっ、あるよな!?」


「あ、地図きたって。一旦見よ」

「……なにか納得がいかないが、このあたりで一旦ブレイクだ。地図を見る」

「うっわ、珍しい!? バルがブレイクするって言った!」

「あー! もう、お前はうるさい!!」


「それじゃ、このへんで一旦ブレイク! また後でね!」

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