配信20 ニュース:そのゴーレム、本当に敵?

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「ところで、バルのとこってゴーレムっている?」

「は?」

「ゴーレム」

「お前だって城に居るだろうが。見た事ないだろう」

「いや、他のところに居るかもしれないし」


「……作りたい奴は作っているのではないか?」

「どういうこと?」

「あれは作り物だからな」

「要は魔物としてはいないけど、ダンジョンの主とか魔人によっては自分で作ってるってこと?」

「そういうことだ。ゴーレムは魔物扱いされているが、実際には魔力生命体。魔力を吹き込んだ人型の人形に過ぎない」

「ほうほう」

「お前の言うアカデミーとかの護衛で突っ立ってることもあるだろう」

「あー! そういえば、あれもそうかあ」


「ゴーレムは、お前達のいうところの人造兵器だ。お前達の方がそれには詳しいんじゃないのか」

「えっ。そうかなあ。いや私は専門外だからそうかなあって言うしかないんだけど。まあでも、確かに今回のニュースはそんな感じの話だしね」

「……」

「なんか冒険者ギルドからこれを読んでほしいっていうお願いが」

「お前たち、この配信を無料の広告か何かと勘違いしてないか?」

「というわけで、本日のニュースはこちら!」



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《ゴーレムを倒さないで!? 冒険者探索用ゴーレムが倒される事例が頻発》


 ゴーレムといえば、どんなものを思い浮かべるだろうか。

 ゴーレムとは命を吹き込まれた人形と考えている人もいるかもしれないが、実際には命というよりも魔力で動いていて決められた行動しかできない魔法生物だ。制作者によって微妙に姿形が違うところが特徴だろうか。

 ダンジョンに生息するゴーレムは侵入者排除のための兵士だが、冒険者ギルドもゴーレムを活用していることをご存じだろうか。


 比較的探索が進んだダンジョンは、冒険者ギルドが制作したゴーレムを放っていることがある。主に低層階の警備と、倒れた冒険者の回収だ。全滅寸前の冒険者達を助け出し、外へと運ぶのが役割となる。しかしそのゴーレムが最近、素材目的や、はたまた存在を知らない冒険者に倒されているのが目撃されている。このところの冒険者の増加によって、そんな事故の起きる回数が増えているようだ。

 ゴーレムはダメージを受けると反撃をするため、仲間が連れ去られていると思って攻撃し戦闘になってしまう場合もあるという。


 ギルドのゴーレムは胸と背中部分に大きく『GUILD』の文字が刻み込んである。きちんと確認し、余計な戦闘は避けてもらいたい。

+++――――――――――――――――――――+++



「……吾輩が言うのもなんだが、ちゃんと説明くらいは聞いておけ」

「それはそう」

「冒険者ギルドだって、『ここには回収用ゴーレムがいるから安心』……みたいな話はするんじゃないのか」

「まあ勝手に冒険者名乗ってるような人達も増えてるからね」


「……そういえば、こっちでも見慣れないゴーレムがいる、という報告が時々あがっていたな。ほとんどの奴らは気にしていないようだが」

「気にしないんだ。まあそうでなきゃゴーレムとか放てないよね。……お、なんかこれに関して『知らなかった』みたいなコメントが来てるんだけど」


*:そういえばうちの近くのダンジョンでも見た事がある。

*:低層階にいるからすごい気をつけて進んでた

*:なんか急にふえてて怖かった

*:倒れた冒険者を運んでて、大変だと思って倒した事ある……。めっちゃ自慢してたけどもしかしてアレって回収用ゴーレム……?


「意外にありがちだなぁ!?」

「なんだお前ら馬鹿なのか?」

「『やっちゃったことあるひと』が書き込んでるからそう見えるだけだよ。前々から冒険者やってる人はたぶん知ってるでしょ」


*:知ってたけど、魔物との戦闘中に近くにいて当てちゃったことがある。魔物もパーティもちりぢりになったことある

*:それうちのパーティもやった。


「知ってたら知ってたであるあるがあった」

「まず戦闘機能を無くした方がいいんじゃないのか……?」

「多分、魔物に攻撃された時の対策用なんだろうけど……、そもそも魔物と人類の区別がつかないのがなんとも」

「それに人型もいるからな、こっちは」

「こっちもテイマーとかいると、結構大きめの動物連れてる人とかいるから……」


「そういえば、最近は小型のゴーレムもあるらしいね」

「小型というと、人間サイズか?」

「もっと小さくて、本当に人形サイズ。手に乗るくらいとか」

「何のために存在しているんだ、それは。そうそう複雑な動きもできんだろう」

「子供向けのお芝居とかだよ。最近は子供向けに限らずに趣味で動画みたいなの作ってる人もいるらしいけど」

「……いろいろと考えるな、お前達は」

「いいじゃん、実は結構バルも楽しんでるでしょ?」

「ぜんぜん! そんなことは! ない!!」


「あっははは! それじゃあ、このあたりで一旦ブレイク!」

「ギルド印のゴーレムを見かけたら破壊しろ!! 以上だ!!」

「いやまだこのあとも続くんだけど」

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