配信17 速報:魔術師オクマ氏の死因判明、裏切りによる呪いか

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「さてさて。冒険者の中にはよく魔術師や魔法使いがいらっしゃると思うが。魔王の城の中にも、明らかに人間みたいな魔術師が居るんだよな」

「それがどうした」

「いや、人間ですかって聞いたら、だいたいみんなそうですよって答えてくれたから。意外にいい人たちだなと……」

「何をやっているんだ!?」

「でもみんな微妙な顔というか苦笑していた」

「それはそうだろうよ」

「ああいう人たちって元から魔王信者だったりする?」

「それは人によるだろう」

「今度呼んでみる?」

「多分来ないだろうよ……」


「まあでも、一部の人達にとってはそれは裏切りになるかなって」

「裏切り、なあ」

「ちょっとフリにしては弱かった?」

「これ、フリだったのか!?」

「まあ私も散々裏切り者とかコメントで言ってる人いるけど、謎すぎるんだよな」

「それは謎すぎる」


「そういうわけで、裏切りが招いた悲劇。あるいはお互いが裏切りと思っていなくても起きてしまった悲劇のニュースが入ってきたので、読み上げようと思うよ」

「やはりフリとしては弱いな……」



+++――――――――――――――――――――+++

《先日死亡した魔術師オクマ氏、死因はウンディーネの呪いと判明》


 先日、ミ=レア共和国の宮廷魔術師オクマ・スフェル氏が亡くなっていたことは記憶に新しい。オクマ氏はアカデミー時代からその魔術の才能を遺憾なく発揮し、貴族出身であることやそのニヒルなフェイスも手伝い、男女問わず人気を誇った人物。アカデミー生でありながら国の魔竜討伐に参加したのを覚えている人々もいるだろう。世が世なら勇者指定されていてもおかしくなかった人物だ。

 また、オクマ氏はその功績から、若いながらも宮廷魔術師に抜擢された新進気鋭の魔術師だった。美しい奥方を残して旅立った、享年27歳の人間男性。彼の突然の死を、多くの人々が悼んだ。


 しかし、当初睡眠時の自然死と思われた彼の死が、ここへきて急展開を迎えた。その体から呪いの痕跡が見つかったのである。オクマ氏の遺体から呪いの痕跡が見つかった事で、葬儀は見送られていた。当初はミ=レア王も激怒してその理由の解明を急ぎ、必ず犯人を見つけ出すと宣言した。

 そして今回、オクマ氏の死亡理由が判明した。

 なんとそれが、ウンディーネの呪いだというのである。ウンディーネは水属性の下級精霊でありながら、愛した人間と結婚することもある種族。結婚することで魂を手に入れ、子供を産むとその不死性すら失うという種族だ。反面、伴侶が裏切るような事があれば呪いが発動するのである。その呪いとは、睡眠時に呼吸不全に陥るというもの。この事実には当の宮廷魔術師達も驚きを隠せなかった。よくよく調べてみると、彼の奥方であるマーサ・スフェルはなんとウンディーネ。そのうえ、オクマ氏が隠れて愛人を数名囲っていた事実も判明した。その付き合いはアカデミー時代から続いていたという。


 意図せずして「犯人」となってしまったマーサ・スフェルは、「彼の交友関係は知っていました。でも、私がウンディーネであることは魂を手に入れても変えられなかった」と涙ながらに語った。そして愛する夫を失った彼女はそのまま名もなきウンディーネへと戻ってしまった。当局では既に彼女を判別することもできなくなってしまい、この事件は犯人不在のまま不起訴となった。

 ミ=レア王はこの結末に頭を抱えながら、「ウンディーネとの結婚は今後禁止する」とだけ明言した。

+++――――――――――――――――――――+++



「……そもそも、この人はどうしてウンディーネと結婚したんだろうね?」

「さあ。人間の考える事はわからん」

「魔術師なんだったらウンディーネがどういう性質なのか知ってるだろうし。自分はウンディーネ一筋のつもりでも、やっぱり他の人を前にすると変わっちゃうのかなあ」

「一瞬でもそうなってしまったからこそ呪いが発動したのだろう。ウンディーネ自身にもその呪いは止めることはできんからな。自分で納得していたとしてもだ」

「ウンディーネ自体が変わった性質だよなあ。そもそも魂を手に入れて人間になるとか」

「人間がそれを言うのか?」

「は? あー、わざわざ精霊と結婚しようっていう人間がってこと?」

「……。……ああ、まあ、そういうことだな」

「それもそうかもなあ」

「……」


「それにしても、ウンディーネって魔物じゃなくて精霊なのによく知ってるな?」

「魔王なのに、ということか? ふん。この世界については吾輩が一番よく知っておるわ」

「長生きだから?」

「まあな」


「じゃあ今後もどんどん魔物や精霊のことについて語ってもらおうか!」

「吾輩からタダで知識を引き出せると思うなよ……!?」


「というわけで今日はこのあたりで一旦ブレイク! 配信は音楽が終わってもまだまだ続くよ!」

「おい、吾輩の話を聞け!」

「それじゃ、また後で~~!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る