配信16 ニュース:山の悲劇、マイコニドに要注意!

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「いやー、前回、コカトリスの卵料理専門店の話したじゃん?」

「それがどうした?」

「わりと知ってる人が多くてさ。『ここですよね~!』とか『○○のことだよな、食べに行ったことある』みたいなコメントがよく来てて」

「すっかりこの状況に慣れきってる奴らばかりなの、逆に怖いんだが……」

「みんな意外に知ってるんだね、こういうお店」

「……まあ、この周辺の奴らからすればそうなのではないか。お前たちからすれば、コカトリスの卵料理なぞそうそう食べられるものでもないのだろう?」

「そうだねえ。今後も、魔物の食べられる部位、募集してます」

「……」


「ただそんな裏で、悲しい事件も起こってるんだよな。私たちにとっては食材ではあるけど、その食材が魔物だったら……というやつです」

「ほう! どんな功績だ? 聞かせろ」

「魔王みたいな事言わないでもらえる!?」

「魔王なんだが!?」


「というわけで、本日のニュースはこちら!」

「しまった、もう鉄板ネタみたいにされている……ッ!」



+++――――――――――――――――――――+++

《マイコニドに注意! 山での単独行動は厳禁》


 先日、ハース山で遭難した40代の人間男性を探すべく、地元の自警団と依頼を受けた冒険者が捜索を行った。この時期のハース山は採取はもとよりキノコ狩りが始まる季節。ハース山原産のキノコは地元でも有名で、キノコ料理に舌鼓を打つ旅行者も多く見られる。

 しかし、山の中には脅威に溢れている。地元民であっても、山の中で遭難する事がある。

 この日、捜索が行われた男性も地元の男性。キノコ狩りの達人と呼ばれる人物で、よくハース山に登っては地元の料理店にもキノコを卸していたベテランの一人だった。二日経っても戻らない夫を心配した妻が通報したことで事態が発覚。ギルドにも駆け込んだことで、冒険者の手も借りての捜索になった。


 しかし単なる人探しと思われた冒険者達の前に現れたのはマイコニドだった。

 マイコニドとは人間サイズの巨大なキノコで、軸の部分から手足が生えた姿をしている魔物だ。胞子を吸い込んでしまうと同化させられてしまうこともある厄介な魔物だ。過去には精神を汚染されながらマイコニドになりつつあった男性の話が悲劇として語られることも。彼らは知能があり、ある程度交渉できる中立種もいるが、不幸なことにこの山に巣くったマイコニドは知能を持たない敵対種。不安に駆られた自警団と冒険者が先を急ぐと、残念ながら件の男性はマイコニドに同化させられており、冒険者の手によって退治されることとなった。


 男性は以前にも数日間山でキノコ狩りをするなどして、通報が遅れたことも要因。緊急時連絡用の魔力パネルも持っていなかった。

 捜索に参加した冒険者は「もっと早く見つけてあげられれば、と思います。マイコニドは中立種と敵対種の判別が難しいので、見かけても不用意に近づかないでください」と沈痛な面持ちで述べた。同じく参加した自警団も、「一人での行動は絶対にしないで。また、滞在期間やルートを家族に報告したり、遭難時の為に魔力パネルを携帯するようにしてほしい」と続けている。

+++――――――――――――――――――――+++



「うむ。亡くなった男性には心からお悔やみ申し上げます」

「ふむ。マイコニドどもか。個人的にはもう少し数を増やして一気に山の下の村へ……」

「うおー! この野郎! 魔王みたいな事言うな!」

「魔王なんだが!?」


「というか何回やらせるつもりだこれは! さすがに一日一回にしろ!」

「天丼のつもりじゃないよ! 人が亡くなってるんだぞ!」

「この流れでそんなことを言われても吾輩が困るんだが……」

「とにかく、ただでさえ魔王の影響で魔物が活性化してるんだから、一般人が山の中に入るのは要注意だ!」


「それとたぶん、亡くなった方にあれこれ言うのもどうかと思うけど……ううん」

「ベテランだから大丈夫という油断もあったんではないか、ということか?」

「うわ、ハッキリ言うなあ。事実はわからないけどね。マイコニドに触っちゃったのかもしれないし」

「ふはははっ。いいぞ、どんどん油断せよ。それが命取りとなるだろう」

「って魔王本人が言ってるから、山に入るときは注意してね。ニュースでも言ってるけど、何日滞在するかとか、緊急時の連絡手段は持っていた方がいいと思うなあ。もしかすると、マイコニドから逃げて遭難、そこから更に二次被害……とかもありえるから」

「いいか、これを聞いているマイコニドども。山の中にはどうやら驕り高ぶった人間どもが多いようだ。そいつらは油断している。そこを狙え。産めよ、増えよ、地に満ちよ。そして進軍を開始せよ――」


「……えっ。ひとつ聞いていい? この配信ってマイコニドも聞けるの、これ?」

「全国配信なのだからそりゃ聞いているはずだ」

「聞いてても中立型の知能種しか聞いてないんじゃないかな……」

「こういうのは宣言しておくのが大事なのだ。それに知能種でも敵対型はいるぞ」

「えっ、ほんとに!?」

「キノコだからな。そりゃ吾輩が把握していない種だっておるわ」

「キノコ怖いな!? でもキノコって、実際食べられる奴より食用不明のものの方がめちゃくちゃ多いっていうから……」

「魔物のキノコとてそんなものだ」

「マジかよ!」


「ってことで、皆さんも山には気をつけて! 特に山の中なんて、魔物どころか普通に猪とかクマとかいるからな。ここらでブレイク! 今日も最後まで楽しんでいってくれ!」

「ところでお前はキノコ料理はイケる口か?」

「このタイミングで!?」

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