1 君と彼女と『はじまりのループ』(2)

 家についてからも、私の気持ちは曇ったままだった。母親の心配する声にもなんて答えたかわからない。濡れた服を洗濯機に入れて回す。風呂場でシャワーを浴びる。そんなこともしたくないと思うくらい、私の気は滅入っていた。


 私はシャワーを浴びて自分の部屋に入った。何の変哲もない、普通の部屋。漫画やアニメのタペストリーが置いてある、少しヲタクっぽい感じの部屋。そんな部屋のベッドにうつ伏せになって倒れこむ。そして朔也のことについて改めて考え出した。


(なんであいつが他の女と……。)

 最初に出てきたのがそんな気持ちだった。多分悔しかったんだろう。そんな気持ちが一度出てくると、その気持ちはとめどなく溢れ出した。

(なんで私じゃないんだよ……。)

(なんで朔也にもっとアプローチとかしなかったんだろ……。)

(なんでなんでなんで……。)

 こんなこと考えたって後の祭りだ。もうどうにもならない。頭ではそんなことは分かっていた。でも私の心がそうはさせてくれなかった。頭で止めようとしても、心が言うことを聞かなかった。


 最低なことを考えてるのは自分でも分かっていた。でもそんなことを考えてしまうくらい、私は朔也を妬んでいた。


 ――ケータイの着信音がなってハッとした。どうやら寝ていたらしい。枕元に置いてあったスマホを見ると19時を回っていて、そこには登録されてない電話番号が表示されていた。一瞬出るのを躊躇ったが、私は受話器のマークをスライドした。


「もしもし?」

 声の主は落ち着いた声をしていた。

「あの…どちら様でしょうか?」

「朔也の友人の丸山雫まるやましずくです。」

 本人は友人と言っているが、朔也に女友達はいないはず。おそらく声の主は朔也の彼女だろう。そんなことを考えてしまい、聞いたことを後悔した。

「……そうですか。それで何の用ですか?」

 私は思わずそっけない態度になってしまった。まだ気持ちの整理が出来ていなかった。けれど次の言葉を聞いた瞬間、私はさっきの気持ちをずっと後悔することになってしまった。


「……殺されました。朔也さんが。」


 私は雫から朔也が搬送された病院を聞いて、すぐに向かった。

――雨はいまだにしつこく降っていた。


 言われた病院に着くと、朔也の両親が手術室の前で呆然としていた。両親から通り魔に朔也が刺されたと聞いた。もう私たちにはどうすることもできない。ただ朔也が助かることを祈るしかなかった。でも朔也は助からなかった。

(……え?……ホントに死んだの?)

 信じられなかった。認めたくなかった。でも朔也は死んだ。私は悔やんだ。いなくなれなんて願った自分に。


 その時、見知らぬ女の子が話らしかけてきた。彼女は黒髪のロングヘアで、私と同じ高校の制服を着ていた。

「あなたが晴香さんですね。」

「……どうして私の名前を?」

「説明は後で。とりあえず着いて来てくれませんか?」

「……なんでそんなことを?ここで話せばいいじゃないですか。」

 もううんざりだった。私は何も話したくなかった。ただただ目の前の出来事を受け止められなかった。


「朔也さんを助ける方法があります。」

「……え?」

「あなたにしかできないんです。だから、場所を変えて話しましょう。」


「……分かった。場所を変えよう。」

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