第56話 逆だったんだ
もしも
その後はどうなっていただろう。
いや……違う。できなかっただろう。
だって、今私が生きているのだから。それが……証拠だ。
「
その後の言葉は、
後悔しているのか……それともまったく別の感情か……
「少なくとも動揺はしていたようだな。キミはまともな精神状態ではなかった。そうでなければ……2つの事件の結び目が同じになることはなかっただろう」
「……もやい結び、ですか」2つの事件のロープは、同じもやい結びが用いられていた。「……
無意識のうちに証拠を残してしまった。
警察関係者と犯人しか知り得ない情報を残してしまったのだ。
「……次に
そこまでは私も知っている推理だ。
問題なのは、どうやって講義動画を入手したか。
11時9分まで講義をしていた動画を、
「その11時9分の講義動画を、私はどうやって手に入れたんですか? まさか時計の針をずらして講義動画を撮影してください……なんてお願いが受け入れられるとでも?」
「お願いなんてする必要はなかったんだよ。その講義動画はすでに用意されていた」
……用意されていた……?
思わず会話に割って入ってしまった。
「……なぜ、そんな動画を用意する必要が?」
「本人も用意したつもりはなかったんだろうがね」……ならばなぜ動画がある? 「要するに……11時9分まで講義をしている動画があれば良いんだよ。他のことは、問わないんだ」
他のことは問わない。
重要なのは11時という時間だけ。
「あ……」
「その通り」はじめて正解した気がする。「今回の事件で流されていた映像は去年のプログラミング演習での講義だった。調べてみたところ、去年のプログラミング演習は2限目……つまり11時9分は講義時間中だ」
だから時計の時間が11時9分だった。それは……本当にその時間が11時9分だったからだ。問題だったのは……それが1年前の映像だったということ。
「キミから
「授業態度、ですか?」
「ああ。講義の進み具合に限らず、自分が決めた範囲まで講義をする。そして内容は教科書を読み上げるだけ。それだけ雑な講義を行う教員なら……去年の資料を使いまわしていてもおかしくないと思ったんだ」
使いまわし。
つまり
「使いまわしは悪いことじゃない。去年の資料を用いて今年の時間を節約するのは悪いことじゃない。だが……評判の悪い講義をそのまま使いまわすのは、あまり褒められたものではないな」
生徒からの意見を受けて講義内容を変更、なんてしなかったもんな。
おそらくオンライン授業が始まる年に資料を作って、そのまま使っているのだろう。だから授業時間が長かったり短かったりする。去年の反省を受けて修正とかはしてなかったんだろうな。
だからこそ……今年の講義の続きとして映像が映し出されても……なんの違和感もなかった。
「
「……」まだ2人の知恵比べは続いている。「……
「考え方が逆だったんだ」……逆って言われても……「11時9分にチャットが送られて反応したんじゃない。11時9分に反応があったから、11時9分にチャットを送信したんだ」
11時9分に反応があった……?
まだピンとこない私に、
「去年のいつの講義なのかは知らないが……
とにかく
その動画を
そして……
「
それがリアルタイムでチャットに反応したトリック。
言われてみれば、とても簡単なことだった。なんでそんなことを思いつかなかったのか、というレベルの簡単なことだった。
今ここで
それがオンライン会議殺人事件の真相だった。
超常的な力なんて一切ない。ただの1人の少女の、復讐の物語だった。
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