第13話 暇つぶしの話

 オンライン会議殺人事件と銘打たれたその事件。

 疑われるのは面倒だから、さっさと解決できると嬉しい。


「殺人事件の解決?」さすがに予想外だったらしい。「頼む相手が間違っているよ。僕は探偵でも刑事でもない」

「……でも、他に頼る人がいなくて……」


 警察官はあまり信用できないし……そもそもすでにこの事件を捜査している。さらに探偵は見つからなかった。


「なぜ僕に頼む? キミとは初対面だろう?」

「あ……えっと、パソコンとか詳しそうだったんで……ほら、休み時間とかよくパソコンを使ってますよね」

「なぜパソコンが詳しいイコール殺人事件を解決してくれそう、という発想になるんだ?」

「……オンライン会議の最中に起きた事件なので……」


 オンライン会議殺人事件なんて呼ばれてるくらいだから、パソコンが詳しい人のほうが良いだろう。


「さっきからキミが言っている『オンライン会議殺人事件』ってのはなんだい? どこで起こった事件なんだ?」

「え……?」この人、知らないのか……?「……この学校、ですけど」

「そんな事件があったのか……」マジで知らなかったらしい。「ともかく僕は殺人事件など興味はない。この学校で僕以外の誰が殺されようが興味はないよ。他の相手に頼むんだね」


 ……自分の学校で起きた殺人事件に興味がない、か……なんとも豪胆な人物らしい。


「そもそも、なぜキミはその事件を調べる? その殺された人間の友達だったのかい?」

「そういうわけじゃないんですけど……ちょっと疑われていて……」

「疑われる? キミが容疑者になっているということか?」

「そういうことですね……」

「それで、キミが犯人なのか?」

「そんなわけないですよ」


 家で大人しくしていた。尸位しい先生を殺す方法など存在しない。


「ならば安心しろ。現代日本で冤罪事件などそうそう起こらない。適当に警察に任せて傍観していれば良い」

「それはそう……なんですけど……」待っていればいつか解決するかもしれない。「……目線が気になりますし……」

「なるほど。目線が気になるなら僕となんか話さないほうが良いぞ。変な勘違いをされる可能性があるからな」


 それはそうかもしれない。ねこ先輩は十分にイケメンだし……


 まぁ、私じゃ釣り合わないから噂にはならないだろうけど。


「別の人を頼るんだね」ねこ先輩は私に背を向けて、「あるいは、そのままなにもせずに待っているか……どちらにせよ、いつかキミへの疑いは晴れるだろう」


 ……


 結局それしか方法はないのだろうか。私ごときが謎を解いて冤罪を晴らすなんてのは夢物語だったのだろうか。


 冤罪が起こるのは低い確率だ。それに今回の場合……電車等の防犯カメラをちゃんと調べたら私が無実なことは証明されるだろう。


 待てばいつか解決する。


 その言葉が真理なのかもしれない。

 でも……このまま待つのもなぁ……なんだかモヤモヤする。事件解決という名目のために動いていたら、少しは気が晴れそうだったのだが……


 それに……私の親友2人だって疑われている。他にも無罪なのに疑われている人たちもいる。


 事件を解決することによって、その人たちが救えるのなら……


「あの……」私はまたねこ先輩の背中に声をかける。「……」


 だけれど、続きの言葉は思いつかなかった。


 私の語彙は少ない。このモヤモヤした気持ちを言葉にする方法がない。いつもなら恭子きょうこが言葉にしてくれるのだけれど。


 結局、私はそのままうつむいてしまった。唇を噛んで、己の無力さを痛感した。


 ねこ先輩が歩いていく音が聞こえる。去って行ってしまうのかと思ったら、


「これから昼食を食べるつもりなんだが、その時の暇つぶしの話がほしいな」

「……?」

「事件の概要くらい聞こう。どうせ食べている最中はなにもできないからな」


 一瞬、ねこ先輩の言葉が理解できなかったが……どうやら私の話を聞いてくれるらしい。


「じゃあ……!」

「勘違いしないでほしいな。僕は探偵じゃないんだ。事件の解決のほうを期待されても困る。あくまでも暇つぶしとして、事件の概要を聞くだけだ」


 それだけで十分である。

 

 誰かを相手に話せば、少しは自分の考えもまとまるものだ。


 というわけで……なんとかねこ先輩に話を聞いてもらうことに成功したのだった。

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