現し身を消した夏

我のうつしし身は

ただただ、試練に耐えることばかりであった。


引きれた顔。

縮れた髪。

曲がった背中。

醜い、醜い我が現し身。

そんな我に、まさか白羽の矢が立とうとは!


神に捧げる贄に選ばれ、白装束を着せられた醜い女が、

地面を叩きつける激しい雨の中、静かに歩き始めた。


あぁ、この苦しみも、悲しみも、憎しみも、恐れも

もうすぐ濁流に吞み込まれて消えてしまうだろう。

ようやく、この醜い現し身から魂が開放されるのだ。

それも、村人たちに感謝されながら……


女は、微かに微笑み濁流へ飛び込んだ。

そこから金色の龍が立ち、黒雲を引き裂いたという。


遠い遠い昔の夏の話。



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月猫 @tukitohositoneko

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