第4話 おじゃまじゃないよ?

 とある訳あり戸建の前。

 その戸建てに住むのは、訳ありな親子。


「えっと、住所は、ここであってるかな?」

「うん、ここのはずだね」


 年若い男女の二人。同僚であり、戦友として肩を並べたのもついこの間のこと。

 今日は、それぞれ転属したが、親しくしていたとはいえ、元上司に当たる人達の新居。ついこの間までは、寝食を共にしていた相手でもある。新居引っ越しのお祝いパーティーに招かれただけだと自分に言い聞かせ。


「…ふぅ。よ、よし…」


 男の方が緊張ぎみに勢いを要するが、


「先に行くよ~」


 相方は気負わずに、扉を開く。


「ま、まって!」

「おじゃましま~す」

「お、おじゃま、します」


 緊張しながら来訪を告げると、タタタタタッッッ! という足音と共に、

『お~か~え~り~』という声が聞こえたかと思えば、勢いよく飛び込んできた?!


 その勢いを認めて、とっさに先に入っていた彼女の前に割り込み、受け止めた。


『おかえりな~さ~い~!』


 勢いよく自分のお腹めがけて飛び込んで頭グリグリしながら応えてきたのは、見慣れた弟分の顔だが、何かを期待しているらしい表情が浮かぶ。


「えっと、おじゃまします」

『…ぶー! おじゃまじゃな~い!』

「え? あ! ふふっ、ただ~いま(* ´ ▽ ` *)ノ」

「そっか、タダイマ」


 この子にとって、二人は長期の仕事に出掛けていってただけで、やっと帰ってきたと解釈されてるんだ。


『おかえりなさ~い! おみやげは!?』


 キラッキラな満面の笑顔でおみやげの催促に、ちょっぴり苦笑いな二人。

 この弟はしっている。大人なお姉ちゃんが何日も出掛けたら、美味しいものを持って帰ってくることを! お兄ちゃんもいっしょだから、スゴイハズッ!


 ほんの少しの間が空くと、


 ナイの? もしかして? ナイと、泣いちゃうんだから! と顔だけで訴えてくる弟分。

 ついつい、二人で顔を見合わせ、同じことを思っていた。この子にとっては、自分たちは家族の一員としてカウントされている。それだけのことが、とても嬉しくなった。


「大丈夫、おみやげは持ってきてるよ」

「うん、色々あるよ~。だから、なかないよね?」


 現金にも、キラッキラな笑顔が戻った。


 二人はアイコンタクトで荷物の中で、この弟にお土産になりそうで喜びそうなモノがあることを願いつつ、急いでリストアップすることにした。


 向こうではお手頃だけど、こっちでは手に入りづらい果物や、大きな鳥の羽根、キラキラした宝石の原石の欠片など、新しい仕事の話なども。美味しいものや、珍しいもの、そして何より見知らぬ出来事を知ることこそが、一番のお土産になる。

 そして、めったに会えない相手に会えることも。遊んでくれるのが何よりの楽しみです。


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