第11話 案件配信

〈またいきなり始まって草〉

〈案件配信?〉

〈普通案件なら予告するだろww〉

〈相変わらずめちゃくちゃすぎる〉

〈配信キタ!〉


 例の如く突然始まった柊彩な配信には、これまた例の如く一瞬でたくさんの人が駆けつける。

 ただいつもと違うのは、前回のコラボ配信で柊彩の圧倒的な強さが知れ渡ったことから、純粋なファンもかなり生まれつつあるということ。


 なのでこれまでと比べると、柊彩の配信を待ち望んでいた人のコメントも増えている。

 その様子に少しだけ驚きつつ、柊彩は少しだけ人が集まるのを待ってから配信を始める。


「どうも、ヒロです!今日は突然ですが案件配信のため、とあるお店にお邪魔してます!」


 カメラの向こうに立っているのは日聖。

 今回は案件ということもあって台本を用意し、カンペを見ながら話している。


「そのお店というのは、こちら!」


「初めまして、ドゥースシャルルのオーナー、羽土はど瑛人えいとです」


 普段バッドエンドが使っている仮の名前を聞いた瞬間、柊彩は吹き出しかけていた。

 もしこれが配信じゃなければ間違いなく突っ込んでいただろう、名前を考えるのが適当すぎる、と。


「本日はひい……ヒロさんに当店の紹介を頼んだところ、快く引き受けてくれました。いやぁ、本当に嬉しいです!」


 そしてバッドエンドもまた、柊彩の本名を出しかけて慌てて訂正している。


「本日はどうぞ、よろしくお願いします……」


「いえいえ、こちらこそ……紹介を任せていただき、ありがとうございます……」


 お互い他人行儀な喋り方に慣れないのか、今にも吹き出しそうである。

 その様子に日聖は頭を抱えながら、一度中断するようにカンペで呼びかける。


「すみません、リスナーの皆さん。今から少し準備しますので、少々お待ちください」


 画面を隠し、音声もミュートにしたのを確認した後、日聖が叫んだ。


「なんですか今の!こんなのじゃ配信無理ですよ!」


「いやぁ、そう言われても」


「柊彩とあんな丁寧な喋り方なんてできねぇよ、笑いそうになる」


「それでも20万人超える人が見てるんですよ、頑張ってください!」


「マジか、うし、バッドエンド」


「おう」


 すでに多くのリスナーがいるとわかると、二人はすごく真面目な顔つきになった。

 勇者も人気ブランドのオーナーも、そう簡単に務まるものではない。

 仕事モードに入れば人が変わったようになる。


「じゃじゃん!」


 配信が暗点から戻ると、柊彩の服装は変わっていた。


 白いポロシャツにジーンズというすごいシンプルな格好。

 だが筋肉質でがっしりとした体型の柊彩は、それだけで様になっていた。


「ファッションは引き算って言われる通り、シンプルな服装でも十分オシャレに見せることは可能だ。ただそれはこうやって、自分の体型にあった服を選んだ場合の話だ」


〈似合う〉

〈やっぱドゥースシャルルのオーナーなだけあるな〉

〈なんか顔おかしくね?〉

〈緊張してる?ww〉


 柊彩をモデルにしつつ、バッドエンドは一つ一つポイントを説明していく。

 口調はいつもの調子に戻っているのだが、それ以上にタメになる話をしているからか、それに突っ込む人は一人もいない。


 ちなみに柊彩はというと、気合を入れたはいいものの慣れないモデルにやはりどこか緊張していた。


「おい、チャット欄見えてるぞ。俺に対するコメントだけおかしくねーか」


「はい、次の服いきまーす」


 再び配信が暗くなり、その間に柊彩は次の服を渡される。

 それはまさに今回探していたスーツ一式であり、着てみると何から何までピッタリだった。


「え、たまたま?」


「バカ、見ただけでわかんだよ。ほれ、カメラ映すぞ」


 日聖がカメラを動かし、今度はスーツを着た柊彩が映し出される。


〈誰?〉

〈別人?〉

〈誰?〉

〈ヒロを返して〉


「俺だよ!失礼なコメント多すぎるだろ!」


 先ほど緊張していたところを突っ込まれたせいか、この配信では柊彩をいじる空気ができあがりつつあった。

 だがその一方で、バッドエンドはとても真面目に配信を続ける。


「ウチは普段からカジュアルな服は贔屓にしてもらってるからな、今日はフォーマルな方を推していきたいと思ったんだ、ほら」


 バッドエンドが選んだスーツは柊彩によく似合っており、普段より二割増でカッコよく見えた。

 軽くワックスで髪を立たせており、ネイビーのジャケットに薄水色のシャツ、そして赤いポルカドットのネクタイがアクセントとなって、全体的に調和している。


「人間第一印象はすごく大事だ。だからこそフォーマルな場での第一印象、つまりスーツを着た時の見た目ってのはすごく重要なんだよ」


 バッドエンドが解説する中、暇を持て余す柊彩はスーツのまま少しポーズを取ってみる。


〈変な動きやめろ〉

〈コイツ邪魔じゃね?〉


「邪魔とかいうな!これ俺の配信だぞ!」


「ま、こんな奴でもカッコよく見えるのがスーツだ。正確には“ウチ”のスーツな、てことで興味があったらぜひ買いに来てくれ!」


〈今度行ってみます!〉

〈他にもファッションのこと教えてください!〉

〈すごいためになった!〉


 配信は概ね好評だった。

 そして当初の予定ではこれで終わり、だったのだが。

 日聖がカンペをめくると、そこには『抜き打ちファッションチェック!』と書いてあった。


「は?抜き打ちチェック?」


「それじゃあ最後はヒロのファッションを採点して終わります!」


〈マジか⁉︎〉

〈楽しみ!〉


「おい、聞いてないぞ!」


「ほれ、早くさっきの服に着替えろ」


 再びカメラが止まり、何も聞かされていなかった柊彩は日聖とバッドエンドの協力によって無理やり次の企画に参加させられる。


 そして手袋を中心にこれでもかというほどにダメ出しを喰らい、3点という悲惨な点数が言い渡されたのだった。

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