第5話 「んっ」

 アイスは二人とも定番のソーダ味アイスキャンディーに決定。夏に屋外で食べる氷菓にラグジュアリー感はいらないのだ。


『ねーねー、ついでにコンドーム買って水風船にして遊ぼうよ』


 ってスマホで伝えたら【いや普通に水風船買えよ】ってマジレスきた。ぴえん。もうちょっとこう、私が避妊器具に抵抗なく振れたことに突っかかりやがれ。


 うーん、相当直接的なアプローチしてるんだけどな、まだ駄目ですか。


 はいはい、どーせ私はまだ彼女じゃないですよー。たまたま出会ったなんか変なアクティブ系女子高生ですよー。私が望もうとそうじゃなかろうと友達以上恋人未満ですよーだ。


「いぃー」


『こんだけやってんだからそっちから告白してよ察してよ私ビビりなんだよバカ』


 手に持ったアイスが溶けないうちに、本音を表情に乗せてぶつけてみた。


 自分から告白して失敗するのが怖いなんて私らしくないけど、正直な気持ちなんだから仕方がない。はず。でもバカは言い過ぎたかな?


 「音」に乗ったかはわからないけど、私がやけに女の子的に戦闘モードなのは伝わっててほしいな。今日はちゃんとしたパンツ履いてきたのはもうバレてるし。……だからわざと見せたわけじゃないってば。


 そもそも、もっとおとなしい系の女の子の方が好き、とかないよね? 耳が聞こえないとか一切関係なく、私みたいな髪染めててスカート短い系女子あんまり、みたいな? メイクサボってて薄化粧だから、そこら辺私も名誉清楚系ってことで何とかならないですかね? だめですかそうですか。


『うーん、頭の中がグルグルし始めた……』


 ふと、君は私の様子をうかがう。アイスを舐める女の子をそんなに見てくれるな。


 ん? いや熱中症じゃないから大丈夫。もー、心配性だなあ。


 本当に体は大丈夫。それでも、日が陰ってきてもなおまだ暑さが続く帰り道を、君の優しさを感じながら歩くのはそれでも自称ヒロイン冥利に尽きる。もしかしたらわかっててやってるのかな? 女の子はちょっとしたやさしさに弱いってなんかで読んだりしたでしょ。そういうとこはちょっとズルいぞ。


『結局、また君が好きだって再確認しただけになってしまいましたとさ』


 恋愛感情とかよくわからない、って一年位前までは思っていた私は過去に置き去りだ。こんな風に誰かを好きになるなんて考えもしなかった。


 そういえば君の好みとか、あるいは私自身の好みとか全く考えたことなかったな。私は、気が付いたらこんな感じになってた。よく言われることだけど、交通事故みたいに君を好きになってたから、理屈じゃなかったよね。


【今更だけど、どんな女の子がタイプなの?】と、液晶から文字列を発射する。ホーミング機能付きだぜ、逃がさないよ。


 唐突に話題を変えてみると、君は一瞬不思議そうにした後、『どうした急に』のスタンプを張ってきた。


 なんとなく、気になって。


『適当に誤魔化してしまえ、本音など明かしてなるものか。こちとらビビりやぞ!』


 私は緩やかな坂道を滅茶苦茶ゆっくりと下る。君はペースを合わせて歩いてたけど、この返信を考える時だけ少し私より前を行く。


 ねぇー待ってよ、と袖をちょいっとつまみに動くその瞬間。スマホが震えた。


【明るくて、行動的で、グイグイ引っ張ってくれるタイプ】?


 あれ?


 メッセージを見終わってふと顔を上げると、君の顔がすぐ近くにあった。


「足音」なんて聞こえないから、近づいて来ているなんて気づかない。


 肩をそっと抱かれた、気がする。もう意識が飛びそうだ。


「んっ」


 そう思った時には、もう私の唇は塞がれていた。



 

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