Case3-18 少女

 わかっている。いるはずがない。

 今までもそうだったのだ。この、ビルがひしめく青い都市に、あの生き物を見かけたことなど一度もない。

 何も不安に思うことなんてない。

 わかっている。


 わかっているはずなのに、

 それなのにもかかわらず、

 少女は自分でもわからないままおびえ続けた。

 それは何故か。


 少女は一つ、大きな勘違いをしていた。

 確かに、蛇は怖い。あの得体の知れない体の動き、そして、思い出すほどに痛みが大げさになっていく牙のイメージ。

 だが違う。それではないのだ。そんな表面的なものではない。

 少女は自分でも気づかぬ間に、心の奥底で、「蛇」に対して、蛇なんかよりももっと強い恐怖を抱いていた。

 その恐怖とは、「死」そのものである。

 少女は、蛇という存在を通して、その先にある「死」を感じ取っていたのだ。


 あの夜にて、産まれて初めて、死ぬという根源的怖れがその小さな体に鋭く刻み込まれた。それは蛇に対するものとは比べものにならないほどに支配的だ。

 ただ少女は、幼いが為にその感情の名を知らなかったにすぎない。だから無意識に蛇という名をつけざるを得なかった。


 突如姿を現し、理不尽にも命を連れ去っていく――少女にとって、「蛇」とは正に、「死」の象徴と化していた。

 この恐怖は、どこへ逃げても、影と等しくまとわりつくもの。

 いずれ鈍感になることはできたとしても、少女がこの恐怖を忘れることは、少女が生き物であり続ける限り、未来永劫不可能みらいえいごうふかのうなことなのだ。ちょうど、あなたと同じように。

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