冷酷男に"一日だけ"彼氏役をしてもらうはずだった

凪@執筆休息中

第1章

第1話 義兄が来た

 あーもう、、私のバカバカバカ!!!何であんなこと言っちゃったの?!

 私の周りにたくさん彼氏持ちの友達がいるから、私も当然いるよみたいに

 見栄張って穂波ほなみ柚葉ゆずはに、


『今度彼氏連れてくね〜!』


 って言っちゃったよ…!!!年齢=彼氏いない歴なのに!!でも、あの二人だけは

 ぜっったい誤魔化せないんだよなぁ…。そうすると、今日は連れてこれなかったって言い訳はそこまで長く持たないよねぇ…。特別気になっている人もいなければ、周りに義理彼氏になってくれそうな人もいない。


香菜かな。ちょっと話したいことがあるから1階に降りてきてくれるー?」

「は、はーい!」



 お母さんからの話というのは、母の再婚相手についてであった。もちろん、お母さんが再婚するということは数ヶ月前から知っていた。だけど、相手のことは何も聞かされていないまま式もせずに入籍だけしていたらしいので、今日、今初めて知ったのだ。


 私はお義父さんの横にいる男の子を見たとき、時が一瞬止まった気がした。私と同じ高校にいる、モテ男なのにとても冷たい男で、皆には『冷酷男』『毒舌男』とか呼ばれている。その冷酷男が、私の義兄…になるのだ。当然血は繋がっていない。

 昔はやんちゃしていたそうだし、それに…元ヤンだとか…。とても、『お兄ちゃん』と呼べるような存在ではないだろう。


 だけど、私はあることを思い出してしまった。この冷酷男こと、渡辺晶人わたなべあきとを、として二人の元へ連れていけるだろうか。いやっ…さすがに、何十回もの告白を全て『あっちいけブス』と言って断っている冷酷男が、義妹に、しかもクラスメイトに楽々と『じゃあ今日から香菜は俺の義理彼女だな』とか言うはずがない。もし言ったら、ちょっと病気を疑う。


「ほら晶人。今日から妹さんになる香菜ちゃんに挨拶しなさい。」


 お義父さんがそう言うと、晶人のスマホ触る手が止まった。ゆっくりと下を向いていた顔が上へと上がってくる。嫌だろうなあ。女の子ってだけでも嫌だろうに、その上クラスメイトだなんて。ごめんなさいごめんなさい。私だってなろうと思ってあなたの妹になったんじゃないのよ…。


「お前…ださくら香菜か?」

桜田香菜さくらだかなです!!ださくらじゃない!!」


 晶人は、クラスの中にいても、ださくらと呼んでくる。まあそう呼ばれてしまってもおかしくはないだろう。ドジだし、頭悪いし、運動できないし。それに比べ、晶人は頭が良ければ、運動もできる。ましてや男子によるとあの冷酷さで料理も得意な男らしい。ほんっとに、人は見かけによらないな。だから、モテんだよ、くそが。こちとら、告白すらされたことないっつの。いつも友達止まりで恋に発展したことがないっつの。…だけど、毎年晶人の下駄箱に入ってるミニショコラは私の手作りなんだけどね。バレンタインの日に好きな人には絶対に美味しいものをあげたくて、普通のチョコだと物足りないから、私が大好きなショコラを自分の手で作れるように、今はもう旦那さんのとこに行って独り立ちしたお姉ちゃんに教えてもらった。


 姉妹というのは本当にすごいもので私と全く同じことを高校生の時考えていたらしい。姉の言うことは時折嘘に感じるが、嘘だとしても姉はあたかも本当のことのように話す。それがまた、私の姉の好きなところ。今でも、お姉ちゃんとは時間のあるとき会いに行ったり、食事したりしている。旦那さんは困らないらしい。旦那さんは姉の理解者で、旦那さんにも妹がいたらしいのだが、妹さんがちょうど私ぐらいの年齢のときに持病で他界してしまったのだそうだ。そのことがあって、『今笑っていられる幸せな時間を妹ちゃんに預けてきなさい。僕とはそのあとまた会えるんだからね。』と、私が姉に会いたいと言うと、そう毎回言うらしい。そういうことで、別に妻が妹と出かけることは気にしないし、むしろ楽しんでくれと思っているらしい。


「おい、ださくら。お前が俺の妹になるのか?」

「だからださくらじゃないって…。まあ、そうみたいだね、晶人が私の兄になるみたいね。」


 私がそう言うと、晶人は下を向いたあともう一度上を向いた。するといきなり大きな声を発した。


「やったあああ!!!!!初めての妹だあああ!!!!!!!」


 私は思わず、


「は?」


 と言ってしまった。あの冷酷男が、喜んでいる?初めての妹だと気分が上がっている?え?今、世にも奇妙な物語始まってる?ちょっと意味分かんないかも。


「晶人、病院行ったほうがいいよ」


 また思わず口に出してしまった。


「え?なんでだよ?ひどくねえか?気分が上がっている俺に病院に行けだなんて。」

「そこまで言われたら少し申し訳なかったなとは思うよ?だけどさ、あんた知ってるでしょう?あんたがみんなから冷酷男と言われていること。」

「ん?ああ。兄貴のことか。兄貴は確かに、冷酷男って呼ばれてる。」


 え?ちょっと待って。お兄さん…?この子、何言っちゃってんのかしら。頭でもおかしくなったのかしら。


「ねえ、兄貴って…なに?」

「兄貴?青杜あおとのこと?青杜は、俺の双子の兄貴。めっちゃ顔似てんだよね。たまに、父さんでさえも見分けがつかなくなるんだぜ?どんだけ似てんだよって話だよな。」


 あーダメだ。なにも状況がわからない。今ここにいるのが、晶人で、今ここにいいないのが青杜って人?なんで今はいないの?青杜さんはなにをしているの?ということは、私はいきなり三兄弟になったってわけ?でも、年は皆ほとんど変わらないのよね。なんだろう。年の変わらない三兄弟って。なんか嫌だな。そんな事を考えていると、青杜さんらしき人物が顔を出した。

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