第32話 遅めの昼食

 二人、いや、一匹と一人は、「キュッキュ」、「ほうほう」、と言いながら、あちこち覗いて回っている。



「もう。お腹空いているって言ってましたよねー?」


 シモーネさんは、幼い子が何にでも興味を示すみたいに目を輝かせている。


「なんじゃ、ここは! ワシらしか入れん結界の中なのか? この大きなのは何じゃ!?」


 ああそれは、マッサージチェアというものです。でも、ちびっ子サイズじゃフィットしないから無駄ですよ。



「これは何じゃ?」


 それは低反発マットですけど、シモーネさんは軽過ぎてあんまりへこまないから、有り難みが分かんないかもね。



「ほう? なんじゃこの魔法は。ゆっくり沈んでおるぞ!」

「キュウ!」


 キュウはマットの上で跳ねているだけで、ちっとも沈まない。


「キュウ。お前はそこにちょこんと座っていればいいから。ほら。じっとしていなさい。シモーネ様もいいですね。まずは腹ごしらえですよ」

「うるさいやつじゃ。そんなに言うなら早く出さんか! ほら、さっさとせんか!」


 ああいるよねー。こういう人。わいわい騒いだ張本人なのに、「そんなことより次」って仕切る人。

 ま、いっか。本当にお腹が減って死にそう。



「ステータスオープン」


 ふっふー。

 こうしてデリバリー館のメニューを見ている時の幸せってばないよね。



「この丸いのは何じゃ?」


 シモーネさんはピザに目を留めてヨダレを垂らしている。

 知らない料理にもそんなに食いつくなんて、相当な食いしん坊だな。



 バシン。


「痛っ」


 また小突かれた。


「だから、お主の考えていることなんぞ、全部お見通しじゃと言うておろうが!」


 だから、いい加減に小突くのやめてってば。


「いちいち枝で俺を小突くのやめてもらえませんか。ものすっごく痛いんですから」

「ふん」

「それより、これでいいんですね? この前の魚のやつじゃなくて?」

「おう! これじゃ。これを食うてみたいんんじゃ!」


 はいはい。ポチッと。


「うおー!」


 なんだか新鮮なリアクション。

 そっか。このピザの箱もこっちの世界じゃ見ない形だよね。


「どうぞ。熱いから気をつけてくださいね」


 フタを開けてシモーネさんの前に差し出すと、彼女は肌身離さず持っていた枝をほっぽって、手づかみでピザにかぶりついた。


 あっははは。ま、そうなるよね。

 杖――大事だと思うけど。おもちゃを投げるみたいな扱い。それよりも今はピザなのね。ふふ。



 じゃ、俺はビールを注文っと。あ、サイドメニューからフライドポテトも頼んでおこう。あと野菜も取らないとね。

 シーザーサラダっと。なんか甘いもんも欲しくなってきた。チーズケーキも頼もう。シモーネさんも食べるかな? 絶対に食べたいって言うな。じゃ、二つと。



 注文した料理がボトンボトンと落ちてくる度に、シモーネさんは「なんじゃ!」と声をあげて中身を見たがった。


 俺がビールを飲んで「プハー」と言った時には、もうピザが二切れしか残っていなかった。


「シモーネさん。こっちの一切れは俺が食べますよ。足りなかったらもう一枚頼みますから、いいですよね?」

「おう! 一切れくらい分けてやるわ。その代わりすぐに次を寄越すんじゃ!」


 なんで上からなの。


「はいはい。はぐ。おおっ。久々のピザ、んまっ」

「次じゃ!」


 早っ! もう食べちゃったの?

 今のがマルゲリータだったから、うーん。スパイシーなのにしようかなー。いや、チーズ三昧でもいいか。あ、テリヤキでもいいかも!


「早よせんか!」


 ああもう。おっほ。俺の好きなやつ、見っけ。ポチ。


「なんじゃこれは?!」


 あ。この世界にカレーはないですか? えへへへ。


「まあ食べてみれば――」


 俺が言い終わる前にシモーネさんが頬張っていた。口の周りの汚れも気にならないくらいにがっついている。

 うわー。母親がいたら「行儀が悪い」って注意するところだよね。ま、俺にはできないけど。



「うまいぞっ。なんじゃこの味!」


 そうでしょ。そうでしょ。


「あ! 俺の分も半分は残してくださいよ!」


 そんなちっちゃな体でよく入るなー。


 結局シモーネさんの食欲に負けて、シーフードのホワイトソース系とチキンナゲットも追加した。



 

「はあ。幸せ。もう食べられない」


 こうしてお腹が満たされると幸福感でいっぱいになる。

 そういや俺、キュウに魔力渡した後、どんくらい残ってるんだろ?


 ステータスを確認すると、キュウが満タンになった分だけ――補充してやった分の八掛けか九掛けくらい? ――減っていた。



<俺のステータス>

Lv:25

魔力:33,270/75,960

体力:21,980/22,600

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、武将の湯、魔力ポーション(3)、体力ポーション(4)、72,102ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム


<キュウのステータス>

Lv:28

魔力:47,560/47,560

体力:1,090/1,090

属性:水

スキル:感知、水球、氷刃、水結界、???

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