第31話 キュウに授乳?

 馬車を停めたところまで戻り、ひとまずポーションを大量にコピペして魔力を満タンにすることにした。


 ……あ!


「おばあ――シモーネ様。このポーションって、キュウにも飲ませられます?」

「お主はバカか」


 はい。俺はバカです。もうバカ、バカって、散々言い飽きたでしょう?

 それにしても、金髪幼女のシモーネさんは、黙っていればそこそこ愛くるしいフォルムなのに。


「ポーションというのは、人間が飲む薬のようなもんじゃぞ。どうして魔獣が回復すると思うんじゃ!」

「……だって」

「そやつらは捕食しあって生きておるんじゃ。必要なら倒した魔物を食うはずじゃ」


 ええっ!?

 キュウがあんなグロい生き物を食べるなんて。ちょっと嫌だな。ポーションが効いたらいいのに。


「あとは、お主が分け与えるかじゃな」

「え? 俺の魔力や体力を分けてあげることができるんですか」

「契約しとるんじゃ。お主の思うようにできるわ。じゃが、そやつ。鉱物を好んで食っておったな。他とは違う回復の仕方をするのかもしれんぞ」



 ……あ! そういえば。


 キュウは鉄を食べて魔力をアップさせたんだった。

 今度街に寄ることがあったら、大量にストックを持っておこう!



 ということで。まずはポーションを大量にコピー。ええと。いくついるんだ?

 暗算は苦手なので、地面に書いて計算すると、魔力は十三本、体力は四本必要。

 魔力は、倍、倍、倍で十六本あれば足りると。倍の倍の倍が続くと、もう果てしないよねー。

 体力の方も使い切らないように、念の為八本までコピペと。


「言っただきまーす!」


 なんかこの、アンプルみたいなのをグビグビ立て続けに飲んでいると、相当ヤバいことしている気分。

 ……でもま。ふっふー。これで体力も魔力も満タンだ。



「キュウ。こっちにおいで。ええと。何て言えばいいのかなー? ヴァンパイアじゃないんだから、俺の首筋にカプッと食いついて血を吸うのとは違うよね」


「キュウ!」

「おぅあっ!」


 キュウが興奮気味に、ぷにょんと俺に飛びついてきた。もう抱っこは癖になっている。

 腕の中で、むにょんと甘えるキュウに頬をすりすりしていると、なんかスーッと血の気が引いていくような、不思議な感覚に襲われた。


「キュッキュウ!」


 ……あ。やられた。

 どうやったのかは分からないけど、多分、キュウが俺の魔力と体力を吸っちゃってるっぽい。

 これって――ある種の授乳じゃない?


 あー。なんかヘロヘロ。

 すっごい疲れるんだけど。


「キュウ。そ、そこまで。もうダメ。ダメだからねー」

「よしつねー。キュウの中がパンパンになったでしゅ」

「今度からは、俺が、『よし』って言ってからにしてね。それまではダメだからね。勝手に取り込んじゃダメだよ」

「キュウ――」


 そこまで落ち込まなくても!

 キュウが涙目でボトンと地面に落下した。


「わー!! キュウ!!」


 ショックのあまり気を失ったとかじゃないよね? 怒ってないよ。怒ったんじゃないよ。

 俺って、あんまりステータス気にしていないからさ。減りっぱなしにしちゃうことがあるんだよ。

 


「キュウ。戻っておいで」


 手を伸ばしてやると、キュウが思いっきり、ぷにょんと飛んできた。



「キュウ。いい子だからねー」


 キュルルルー。


「キュ?」


 あははは。なんかもう俺のお腹は、お約束って感じで鳴るよねー。



「おう。そう言えば腹が減ったな。お主。この前のアレを出してくれ」


 シモーネさん。俺の腹の虫は食事の合図じゃありませんから。

 とはいえ、朝と昼を抜いているからな。



「食事は落ち着けるところで取りたいんで、俺とキュウはちょっと場所を変えて休んできます。シモーネ様にはこの前と同じやつを出しますから――」

「ワシも連れていくのじゃ」

「え?」

「その落ち着けるところとやらに、ワシも連れていけ!」


 えーと。キュウは契約しているから一緒に来れたんだよね?



「それがですね。そうしたいのは山々なんですが、俺の特殊なスキルを使うので、契約魔獣じゃないと一緒には連れていけないと思うんですよ」

「ワシを誰だと思っておる!」


 大賢者のロリっですよねー。ほとんど力が残ってないんでしょ?

 そんなこと言うと、バシバシ小突かれるんだろうけど。


  バン! バン!


 シモーネさんが枝で俺を思いっきり叩いた。右に左にしなった枝は、ごっつい金属の棒くらい重くって、あまりの激痛にうめき声が漏れた。


「ううぅ」

「お主の考えなんぞ、口にせんでも分かるわ! 全部、顔に出ておるんじゃ!」


 うっそーん。

 俺ってそんなに分かりやすいの?

 にしても、加減ってものがあるでしょうが!


「ワシほどになれば、お主のスキルに弾かれたりせんわっ」

「そ、そうですか」



 んじゃ、ま。ついて来られるならどうぞ。


「ステータスオープン」


 キュウは俺がやろうとしていることを察知して、ポケットに潜り込んできた。

 それを見たシモーネさんまで俺にしがみついてきた。え? そういうことなの?


 ま、いっか。

 武将の湯をポチッ。


 よっと。

 はい、到着。


「キュウ! キュッキュッ」


 そう言えば、キュウはここを気に入っていたよね。


「ほう? 面白いところじゃのう」


 うわっ。シモーネさん、本当について来たんだ。え? じゃあ、俺に触っていたら一緒に来られるってこと?


「ええと。じゃあ、あっちでご飯にしますか」


 この前の休憩所に向かって行った――のは俺一人で、キュウもシモーネさんもついて来ない!

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