第20話 季節イベントはうまい

 季節イベントはうまい


 ~~~

 都市アテナ、アイギスの盾上

 

 赤とんぼの集団が、空を飛び交うアテナの秋空。

 都市アテナの風物詩が近づいてきていた。


 ドラゴンパピーの集団暴走である…


 都市アテナはガルド王国の南部にあり、元々ドラゴンの来訪は多いのだがこの時期になると、アギア連邦の山々で独り立ちして飛べるようになった春生まれのドラゴンパピーが川の上を飛んで渡る虫を追って飛び立ち、それに他のドラゴンパピーもついてくるというスタンピードじみた事態が引き起こされる。

 ちなみにウォータードラゴンパピーは干物になり消える。

 


 それを遠くで倒すために編み出されたのが、爆発魔法を封入した魔道具をこれまた飛行する相手に当てるために誘導の魔道具で制御するという高級複合魔導兵器。


 誘導弾だ。


 魔導鎧にも積んであるが、こういった都市の緊急事態か本当にピンチの時しか使われないような高級品だ。


 緊急事態時は都市からの監視付きではあるが都市の金で撃ち込めるので魔導鎧を持ってる人たちがアイギスの盾の前面に展開していた。


 その中には、開拓仲間と一緒になって魔導鎧を装備したマリィもいる。

 今回はバックユニットにマリアを背負っているようだ。


 ~~~マリア

 バックユニット上


 今までと違い、しっかりしたシートと、金属補強された風防に守られてマリィに乗せてもらっている。


「座席の調子はどう?マリア」 


 10レベルの戦士、大戦士マリィが気を使ってくる。

 大戦士になっても変わらないのね、なんて内心で思いつつ大らかな相棒に返答する。


「大丈夫よ!凄い光景ね!」


 目の前の光景に呆れる。

 渡り鳥の群れのように、子供とはいえドラゴンが飛んでいるのだ。

 こんな重武装をしていても、だれも反乱を疑わない理由には十分だった。

 強力すぎる武装があっても危険だ…ここの特に魔法使いには!

 強力で誰でも使える魔導鎧を輸出しないのはここにはそんな余裕が無いからで身を守るための当然の判断だ。

 こんな風に趣味人の強者にはプレゼントしているが結局少数だし、アテナには協力的になってくれるだろう、横流し回避に正式入手の登録もしている。

 武装が全て消費式の弾薬で、正式入手した者にしか運用しにくいようにアテナ以外では弾薬も高額だ。


「シールド氏から聞いたんだけど!活躍次第で魔導鎧の限定報酬もあるんだって!楽しみだね!」


 陽気な相棒にも呆れる。

 この都市に来てから機械に毒されすぎでは無かろうか?

 確かに執着していた綺麗な大剣を自由に扱えるようになったのはうれしいだろうけど、ごつい装備を飾って磨いて喜ぶのは女の子としてどうかと思う。


 教育が必要なんだろうか…


 そんなことを考えていると、元凶その1が来る。


「秋の撃墜祭りはアイギスの盾のサブシステムの履歴で戦闘評価されます! 高評価のコツは墜落したパピーへのトドメと誘導弾でたくさんのパピーを巻き込むことです! チームごとに評価されますので私たちのチームはABC+2Mチームといった所ですね! どうも、マリィからお話は伺っていますマリアさん! 開拓科のエリスです。 マリィの開拓に機械担当で同行する予定です。 この撃墜祭りはレベル7からの参加なので、参加は初ですがよろしくお願いします。」


 一息で自己紹介と、現状の説明をしてくれた青い髪に黄色い眼の女の子がエリス。

 マリィからは話を聞いている。

 魔導鎧が大好きな女の子で、大体の知識はこの子経由で得ているようだ。

 アテナの試練の冊子もこの子からもらったとかで魔導鎧の布教に余念がない。


「俺は開拓科のバレットだ!よろしく頼む!マリィさんよ?飛行型は魚型と違って肉体強度が弱いから機械槍の狙撃モードが大活躍!競争しようぜ!」


 元凶その2がやってきた。

 機械槍の事は大体、この赤髪青目の男児から教わっている。

 マリィも自信満々だったのに、全然知識が無くて壊す寸前だったようだ。

 初日に機械槍を見せびらかしに行ったのに、すぐに動かなくなって泣きついたのがきっかけでいろいろと教えてもらっている。

 お気楽なことを言いながらも顔のこわばりは隠せていない。

普通の反応だ。


「二人とも、いつもマリィがお世話になってます。 あたしがマリア、マリィの相棒ね。 今日はよろしくお願いするわ。」


 二人とも…いいえマリィの仲間は全員レベル8。

 これは途轍もないことで急にアレスの衛兵隊が生まれた同然。

 あたしもレベル9だから、遅れは取っていないけど、上昇速度に焦りを覚える。

 もしかしたら、マリィの周囲は英雄で囲まれる運命だったのかもしれない。


 味方ならいいけれど、敵もだったら…

 今までマリィは栄有る戦いに恵まれ続けている。

 嫌に現実味があって、あり得てしまいそうな未来だ。


 単純に喜ぶ気持ちもある。

 あたしの目的はマリィを英雄にして、この国の状況を良くすることだから。

 だけどそれ以上に心配な気持ちもある。


 風防越しにマリィの嬉しそうに周りを見回す顔を見る。

 何もなかった女の子、あたしが戦術のことを教えれば湯水のように吸収した。

 何も知らなかった女の子、あたしが物事を教えれば何を知っても喜んでいた。


 あたしが英雄になる様に教えた。


 あたしの向かわせた生きる道はこの子を幸せにするだろうか?


 あたしが育てた女の子が幸せになる様に支える。


 英雄のごとき敵が何だ。

 この子の生きる道の険しさはあたしが選ばせた。

 力の能う限り支えるのは当然だ。

 今までのことを思うと地獄も生ぬるいだろうけれど、それが責任ってものだろう。


 あまりの光景にそんな遠い未来のことを考えていると味方に動きがあった。


 最前面に展開していた衛兵隊のマリィと同じ魔導鎧が私の乗る席の代わりに乗せていた箱を腕につかむと盾のように前方に突き出した。


 連続して噴射音が響く、例の魔導兵器だろうか?

 次々と飛び出した豆粒に見えるものは同じ方向に打ち出したのに次々と空を飛ぶ別のドラゴンパピーへ飛翔していく。


「アイギスの盾のサブシステムでシールド学園長が誘導の魔法に干渉。 最も効率的な位置で炸裂させることが出来ます!」


 エリスが解説している。

 何百もの魔法を個人で操って…

 すさまじいことだ。

 最高の制御力を持つシールド氏ならではの攻撃補助だ。


 衛兵隊の誘導弾が炸裂して次々、ドラゴンパピーが降ってくる。

大きな落下ダメージにのたうち回っている。


 マリィが大剣を私の座席の横に固定されている鞘に納刀すると反対側に固定されていた機械槍を外そうとして手間取っている。

 外すのを手伝ってやり、手渡す。


「守りと回復は任せなさい!死なない限りはあたしが回復してあげるから!」


 渡しながら言えば口の端を上げながら


「こんなところで被弾はしないよ!暇だったらゴメンね!」


 なんて返してくる。


 久し振りの強敵との戦いだ! 手綱のようなマリィと繋がるひもと座席の手すりを握りながら私も集中する。


 マリィは低空をジグザグに跳ね上がり、墜落してもがくドラゴンパピーに向かっていく。


 激しい動きでも常に敵に向けた機械槍を構えて。


「まずは一匹!」


 低空を滑る少女の機械槍が火を噴いた。


 ~~~発火器

 マリィの魔導鎧の胸元で


 これで8匹目だ。


 もがいている所に首を踏み砕くように蹴りを受けたドラゴンパピーが消え、マリィが着地する。

 

 彼女が爆発音に上を見上げると誘導弾を受けたドラゴンパピーが降ってきた。


 クラリス嬢の援護で行動前に撃墜したみたいだ。


 降ってきたドラゴンはバレット君が撃ち抜き消えていく。

 手を上げて親指を立ててくる。


 マリィも頭上に親指を立て返して飛び立つ。


 少し飛び回ると狙いやすい相手を見つけた。コン

 撃ち落とされたようだが、立ち直って飛び立たんと翼をフリフリさせてるのだ。

 それを見たマリィが無慈悲にに機械槍の狙撃をバスバス撃ち込むと、致命傷になったのか消え去った。


「ブデホー!」(美しい!)


 瞬殺に、浮かれ気味に低空を徘徊しているとマリアに手綱を引かれたのか落ち着いて索敵し始める。


 …カン


 面倒なことに元気なやつに補足されたみたいだ。

 急降下で吹き掛けられた炎のブレスを地形と岩を盾にして凌ぐと、岩影から機械槍で反撃していく。


僕が思うにこの腕なら、火力さえ確保できたらこれだけでいい。


 空中にいる相手に、次々と直撃させていくマリィにマリアが呟いた。


「本当に上手に当てるわね。」

 ドヤ!っとマリィが自慢げだ攻撃は止まらない。

 相手も回避しようとジグザグと動くのだが、余りに連続で直撃するので、すぐにボロボロになって恐慌を起こしマリィからの被弾面積を最低限に背を向けて逃げ出す。


「隙を見せたな!」

その姿が爆発に消えた。

 そのマリィ以外の動向を無視した背中に、誘導弾を当てたのはデビット君だ。

 危なげなく対処するマリィの後詰めにジッと待機していたんだろう。


 マリィはデビットにも親指を立てると、デビットも立て返してくる。


「皆でワイワイ、ボス連戦♪」


 マリィが喜んで歌っていると通信が入る。

=M this is Agis Mに大物を任せたい!もっと君の戦いが見たいんだ! over!

=アイギス デスイズ M 任されよう!アウト!


 どうやら、どうにでもなる遠くに大物がでたのでシールド氏がマリィの戦いを見たがってるみたいだ。

 機械槍をマリアに固定してもらいながら美しい結晶大剣を引き抜いて了承する。

「やってみせなさい!まずくなってもあたしがついてるわ!」

 地味にマリアが機械槍の装弾をしている。

 機械に興味なさげなのに上手だな!?


~~~発火器

主戦場から少し離れた場所

アレか

…コン

成体の大きさか?

確認しておこう。

…ピカ

普通のドラゴンみたいだな…通信だ。


=M this is Agis Mの高空飛行を一時許可するんだ!over!

=アイギス デスイズ M 飛行許可確認! コンタクト!


飛行許可直後にマリアの加速の奇跡で一気に上昇して不思議な動きの後に大剣で正面から切りかかる。

すると…

「流れ撃ち」

宣言の後に高速でドラゴンを切り裂き回り込んだ!?

早すぎる!後ろを取ったぞ!

急な展開にドラゴンはキョロキョロしてる。

鈍いやつだな。 仕方ない…のか?

これは例の追撃スキルか?

美しい結晶剣が輝いていく。


「乱れ撃ち」


 光り輝く大剣が次々と光を放射して翼を切り裂いた!

切り裂いた翼から光が滲んでいき内部から炸裂した!?

これは…これでもう飛べないだろう。


 初手に大技だ。

前に暴発したらしい大技を今のは完全に制御していた。

 僕が思うに、物にしたということだ。

 高度だと思われる技を素晴らしい習得速度だと感じる。


 陸に落ちた相手にするのは、堅実な引き撃ちだ。(いいね!)

 そうだね!リスクを取る理由がないよね!


 最後にとんでもなく大きなドラゴンが来たけど、シールド氏のドレッドノート型魔導鎧の大型キャノン全門開放で爆散した。


うん、遠距離攻撃が一番だね!アレハイタイ…


 ~~~発火器

 学園前の噴水広場で


 シールド氏がドレッドノート型魔導鎧の腕にコンテナをつかませてやってきた!

学園の倉庫から徒歩一歩!

凄い装備も使い方次第でお役立ち重機だ!

エリス嬢もめったに見れないドレッドノート型魔導鎧の雄姿に感動している。


「今日秋の撃墜祭りに参加してくれた皆の報酬を僕が直接配りに来たんだ!」


シールド氏も楽しんでるんだね!


「マリィの特別教室の皆は大健闘だったから、開拓に役立つ最新装備を用意したんだ!」


ドレッドノート型魔導鎧の頭の前面にあるセンサーをテカテカ点灯させている!

流行っていたのこれ?もしかして、人前でピカピカしても良いんじゃ?

マリィが釣られるからダメか…

既に目がキラキラだ…コンと止める。


「1つずつ説明は大変だから一覧を作ったんだ!みんなで見てほしいんだ!」


シールド氏のドレッドノート型魔導鎧の指先に指先に比べたらとても小さい普通の紙をつまんで渡してくれる。

本当にすごい制御力だ。

身内のお茶目行動にアリスの顔が真っ赤だ!


「!?ありがとうございますわ!みんな!教室に行きますわよ!」


銀の長髪を振り乱して教室へ駆けていくアリスに皆でついていく。

とんでもない事らしいけど、皆はレベル9まで上がったらしい。

ドラゴンとの戦いで、マリィもレベル11マリアもレベル10に上がった。

皆、特別教室を用意してもらえるレベルだそうだけど、実家に援助の迷惑はかけたくないみたいでマリィの仲間として開拓に行く意志は固いみたいだ。


 マリアに関しては、レベル10になったために実家に挨拶に行く必要があるので相棒のマリィには、大事な話もあるので実家へついてきてほしいそうだ。


 …


実家に挨拶!?


[確認]連装式誘導弾発射機_鉄製_バックユニットコネクタに接続_[誘導弾]

 



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