第4話 既視感を覚える

 マリィは戦士としての急なレベルの上昇に振り回されつつ、表面的には問題無く旅を続けていた。

 

 初の戦いが厳しかったので、焦って訓練らしき事をしている。


 訓練らしき事を繰り返しながらも、物資が尽きないのは[確認]での採取が物資を支えているからだ。 

 

 目的地さえわからない旅に、マリィの精神は限界を迎えていた。


 訓練もよくわからないので、上手くいっていない。


 滝を見つけてキックで割ってみたら、反動で吹き飛んだり。

(支板だな)

 雑な素振りが音速を超えたらしく自爆したり。

 好意的に見て、レベルアップにより上がった出力の確認にはなっている。

 だが、あと一歩が身にならぬ修行をしていた。

(惜しい)


「ス、スキルが増えない。私は天才ではなかった……?」(???)


 先達が居ないのだから当然だ。

 その時の理屈は、しっかりと有ったのだけれど、今更ながらマリィは人と関わるのを避けたことを後悔していた。

 行くべき道を知らぬものは、暗闇を彷徨う事になるのだ。


 〜〜〜マリィ視点


 何かを振り払うように走り出す!


 人! 人に会わなければ!


 レベル5戦士とやらの脚力で、街道を疾走する。

 沢山の足跡の残る石畳の一番上に、私の足跡が残される。


 流れる風景を眺めながら、この沢山の足跡の主も同じ風景をを眺めたのだろうかと想像する。


 私と同じようにこの道を駆け抜けたんだ。


 まるで過去の痕跡たちと一緒に駆け抜けているような気持ちになった。


 落ち着いてきて、足跡達の後をついていき街道の拓けた場所――祠を包む大樹の影で眠る。


 今までで一番、安らかに眠ることが出来た。


 〜〜〜


 翌朝目が覚めると街道に戻り、再び、走り出す。 (よくきた)


 安らかな眠りに体調が整ったマリィは、訓練を再開した。

 良い天気に街道を飛び跳ねながら、空中を蹴って飛び上がるという2段ジャンプ風の謎の足場を蹴る練習中だ。


 高さは力だ。


 あの猪もこれで翻弄できるに違いない。

(いいぞ)


 他の街道が合流する地点にて。


 少し先の大木に止まっていた鳥が、ボボンという複数の爆発音で一気に逃げ出した


「魔法ってやつ? 戦士も使えたりしないかな〜」

(やめとけ)


 のんびりした言葉とは裏腹に、マリィは今まで出したことのない速度で音源に接近する。


 様子が……見えてきた。


 3台ほどの馬車の車列が2頭の狼に襲われている。


 遠くから連続して火炎弾が撃ち込まれる。


 火炎弾を打ち込んでいるのは赤色の狼だろうか?


 馬車からの反撃に弓が射掛けられるが、狼は用心深く回避に集中している。


 馬車側は、遠巻きに別方向から火炎弾を撃ち込んで牽制する戦法に苦戦しているようだ。


 無詠唱・高威力・生きてる限りは連打可能。


 魔物の魔法は真面目に生きてる人間が馬鹿らしくなるバランスだ。

(人間なめんな)


 マリィが以前倒したアーマーボアも、ひたすら身体強化魔法を重ねがけしていたのだ。

 金属製の体で目にも止まらぬ突進攻撃……どれだけの人間が対応できるだろうか。


 〜〜〜マリィ視点 


 すごく……見覚えのある光景です……。


 画面越しに何度も見たことのある光景に、マリィは顔を引き攣らせた。


 色々と、考えたかった。


 だが、間髪入れずに馬車から顔を出した商人から協力の要請が来る。


「ひい〜! ひい! 助けて!」


 金髪の商人ちゃんが、火の付いた馬車に魔法で必死に水をかけている。


 馬車って結構な財産だから……。


 目の前に選択肢でも見えそうな状況だ。


 知っている状況だとしたら、迷うことさえ出来ない。


「私は戦士! 大木側一匹貰います!」 


 剣を抜き、声を上げた。


 言葉でのコミュニケーションは、人間の武器だ。

 素早く即席の連携が組める!


「こちら弓使い! スキル攻撃で牽制をかける! そのまま足止めを頼むぞ!」


 一拍後、一本の矢が飛び出したと思うと大量の矢にに分裂した!


 アローレイン、回避の難しい制圧攻撃スキルだ。


 狼が怯んだ!

 隙だらけだ!!

 フワリと跳び上がるとキックの応用で、謎足場を蹴りつける。


 そのまま水泳の蹴伸びのように。

 空中を水平気味に滑り。


 こちらに腹を向けていた狼へ飛び込む。


 頭から飛び込むような低姿勢で短剣を突きこみ。

 地面を擦る靴を一瞬踏み込むとそのまま体を回転させ、腕と勢いの力での斬り上げを体当たり気味にぶつける!


「穿て」


[スタブ・スラッシュ]が 火炎狼を破壊!


 斬撃跡が光り抉られ、連撃に矢傷だらけの赤い狼が消える。

 真っ赤な火の魔石が残ったので回収、立ち上がり、もう一匹を見る。


 馬車付近で牽制していた護衛の戦士が飛び出していく。


 全員からの矢が集中してハリネズミ状態になった狼を遠くに引きずってトドメを差していた……。


 弓使い怖……。


 傍から見ていてもストレスの溜まりそうな展開だったため、歓声が上がっている。


 単純なスキルの発動パターンでも空覚えだったが体の調子が良かったからか成功して助かった。


 何でこんな自爆じみた攻撃をしたかというと、魔法や火炎ダメージは受けたことがないので、怖かったのだ。


 それに服が燃えたりしたら嫌だし。


 だがその危険を冒した価値はあるはず。


 この戦いの旨味は3つあって


 まずは、傭兵ギルドへの紹介による試験パスでの身分の確保。


 更には火の魔石でお金を確保。


 一番重要なのは、商人からの直接依頼で生活基盤を確保できる。


 美味しすぎる……少し遅れると弓使い達が消耗と引き替えに蜂の巣にするから時間がなかったんだ。


 ……さすが弓使い、育成に金のかかる高級職だ。


 この状況はアクションRPG〜大戦士は行く〜の最序盤とそっくりなんだ!

 うまいこと主人公の立ち位置に滑り込んだはず。



 何故にそんなに大胆な事をしたかといえば、

 主人公の立ち位置ってひたすらハクスラしていればいいから単純な上、ここの活躍で商人からの支援が受けられるか否かがゲームの難易度を変えるのだ!

 

 ・ダンジョン


 ・闘技場


 ・戦場


 の3つのメインコンテンツプラス各種ミニゲームのフィールド探索、直接依頼もだが。

 商人は特別なスキルを持つ荷物持ちくんを派遣してくれたり、更には戦地に支援物資を送ってくれる。

 闘技場のパトロンにもなってくれる描写もあった。

 かなり良くしてくれるはずなのだ。


 商人ちゃん万歳だ。


 ……元の主人公が居ないのは気になるが、まずは信用を得るために直接依頼に邁進しようと思う。





[確認]火の魔石_魔石_魔法触媒_火属性強化



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