零距離ブーメランドッジボール
「いらっしゃーせー……おー? あの時のお客さんじゃん。どしたのー? また何か買っちゃう?」
やぁ、僕の名前はヘレシー!
学園施設の復旧がスムーズに進んでいるっていう話を聞いて授業の再開を待ちきれずに教材の点検をしていた僕は、その途中でハッピーに預けたままだった草刈り鎌の事を思い出して状態を確認してみる事にしたんだ!
そしたら刃が欠けててビックリ! ……いや、あの使い方をしてこの程度で済んでいる方が凄いのかな? 何にせよ修繕が必要な状態だったから、鎌を買った武具屋さんに持ち込む事にしたよ!
昼過ぎの中途半端な時間だからか他にお客さんはいないね! もしかしたらすぐに直してもらえるかも?
「こんにちは。実は前に買った鎌が刃こぼれしちゃってさ、少し見てもらえないかな」
「げ、修繕かあ。今から休憩しようと思ってたのに」
「悪いね。代わりと言ったらなんだけど、美味しいお菓子を持って来たから後で食べてよ」
そう言って僕が店員さんの目の前に置いたのは、昨日の喫茶店で結局奢ってくれたコン子さんが持たせてくれたお土産の残り!
殆どは夜にハッピーと食べちゃったんだけど、途中で勿体なく感じて残しておいたのが役に立って良かったよ! 貧乏性も偶には役に立つね!
「え、ホント? わざわざ? しかもそれめっちゃ高級そうなやつじゃん。……もしかして、あたしの事口説こうとしてたりする?」
「この鎌が役に立ったからそのお礼だよ。間接的にだけど、色んなひとを助けられたから」
『子飼い』さん曰く、あのまま草刈り鎌を使わなくてもフィリエルさんは処理できたらしいけど、少し時間が掛かる状態になってたのは確かだったみたい! どうもこの世界はフィリエルさん側を味方するように大きく偏ってるんだってさ! ただの善良な田舎農民である僕達に対して随分と厳しい世界だよね!
あの時はジェイド君が一階で溺れてて危なかったし、草刈り鎌で時短できたのは本当に助かったよ! よっ、貴族を救った女! 天使殺し!
「ホントにそれだけかなー? あたし結構モテるからなー。こう見えてちゃんとした格好してたら外でも声掛けられちゃうからなー。お客さんが惚れちゃうのも仕方がないっていうかー」
「いらないみたいだからこのお菓子は返してもらうね」
「あー! いるって! もー冗談じゃん。前店に来てくれた時にお客さんがそういう人じゃないのは分かってるから。ほいじゃ、その鎌見せて?」
素早く回収されていったお菓子の箱と入れ替えるようにして鎌をカウンターの上に置くと、店員さんは眠そうだった目を見開いて真剣そうにそれを観察し始めたよ! 武具と向き合う時に雰囲気を一変させる様子はまさに仕事人って感じで格好いいね!
「ホントだ、欠けちゃってんねー……え、ていうかこれ……柄の方がヤバくない……? 【アナライズ】」
おー、魔法使ってる。魔力を持ってる専門職の人は仕事内容に応じた魔導具を使う事があるらしいけど、目的に沿った魔法が自前で使えるなら更に便利そうだね!
なんだか店員さんの顔が一気に怖くなっちゃったけど、そんなに雑に扱ってはいないんだけどなぁ。ハッピーは農具の使い方が上手いから任せても安心だよ。
「お客さん、ちゃんと答えてね。これ、自分で使った? 誰かに貸した?」
「……友達に貸したよ。そんな事も分かるんだ? 魔法って凄いなぁ」
「属性なんかじゃない……気とか、神秘とか……なんかそういう、あたしが見て取れる範囲にない何かがこびり付いてる。それも、とびきり悪いやつが」
「……魔法って凄いなぁ」
「本当だからね? 事情がありそうだし今日はこのまま研いであげるけど、早く清めてもらった方がいいよ」
そう言って分厚い手袋型の魔導具を装着した店員さんは、それを鈍く光らせながら鎌を持って店の奥へと消えて行ったよ! 仰々しい防具を着けて丁寧に運んでくれるのは道具の持ち主として嬉しい事だよね!
僕は待っている間に店内でも眺めて時間を潰そうかな! 農具だけじゃなくて害獣駆除用の武器なんかも買って帰れば故郷で人気者になれるかも! この剣とかピカピカで格好いい……あ、絶対無理な値段!
「おまたせー。どーよ、これで文句ないっしょ」
商品の値札を見て一喜一憂していると、店内に鳴り響いていた大きな音が止んで、眠そうな目に戻った店員さんがカウンターに戻ってきたよ!
早速鎌の状態を確認すると刃こぼれがバッチリ無くなってるね! 研いだ分だけ短くはなっているんだろうけど、素人目には分からないなぁ。修繕用の魔法を使ってくれたのかな?
「おおー、流石。凄く綺麗な仕上がりだね」
「っしょ? ま、結構色々使っちゃったけどね。フツーはここまでやんないんだけど、お客さんはお菓子くれたから特別ってコトで」
「ありがとう。持ってきた甲斐があったよ」
手を腰に当てて得意気に胸を張ってる店員さんはとっても上機嫌そう! さっきまでの険しい表情が嘘みたいだね! 修繕作業を進める中で、僕が草刈り鎌を雑に扱った訳じゃないっていう事が分かってもらえたのかな?
「なんだか表情が明るくなったように見えるけど、奥で何かあったの?」
「ん? んー、別にそういう訳じゃないんだけど……やっぱ力一杯仕事したらスッキリするからそう見えるのかも? おりゃーって感じで」
「力一杯……神様なんかいらないって念じながら?」
「そーそー、神なんていらねーって思いながら力任せに……って危なっ! 何言わせようとしてんの!?」
「いや、前に自分でそう言ってたよね……?」
鎌を買った時に店員さんが語ってくれた話だよ! あの時はその破天荒っぷりに驚いたものだけど、店員さんがそんな人だからこそ鎌に特殊な性質が宿った訳だし今は感謝しているよ!
一見関係がなさそうな誰かの行動でも、巡り巡って自分の役に立つ事もある。今回の件では色々と勉強になったね!
「……言ってない」
「え?」
「あたしは神様がいらないなんて……言ってない。きっとお客さんの聞き間違いだよ」
「いやいや、そんな訳……」
「神様がいらないワケないじゃん! お客さん、冗談にもさぁ、言っていいのと悪いのがあるんだよ? もー、勘弁してよねー」
「……」
あれ、もしかして店員さん……ついにどこかの教会から怒られた? 実は今も監視が付いてて、発言内容によっては消されたりする感じ?
それとも本当に改心したとか……それはないか!
「にひひ。まぁ聞いてほしいから勿体ぶらずに言っちゃうんだけどー、実はこの前久々に会った昔の友達に誘われて、人生で初めて賭け事で遊んでみたんだよねー。そしたらどうなったと思う? 何かよく分かんないけど大勝ちしちゃったの! んで、そん時に思ったわけ、神様いるわって。あたしの神様は賭け事の神様だったんだって。っぱ信じるべきは神様よ。神様サイコー。しかもその友達から『才能があるから次はもっと大金を賭けられる所に行こうよ。私の知り合いがやってる店だから安心だよ』ってまた誘われてさー、二つ返事で約束しちゃったんだー」
「あっ……」
うん、改心は全くしてないね! というか別の問題に巻き込まれてる気がするね! 人生楽しそうで羨ましいなぁ! でも付き合う相手は選んだ方がいいよ!
友達に危ないレールに乗せられそうになってる店員さんの自慢話(?)を決して肯定せず程よく相槌を打ちながら代金の支払いを済ませた僕は、キリのいいところで店を出る事にしたよ! 用事が済んだのに長居していたら迷惑になるからね!
「それじゃあ僕はそろそろ帰ろうかな。今日は本当に助かったよ」
「へ? んー、そう? 了解りょうかーい。そっちこそ差し入れありがとね。また何かあったらよろしくー」
「うん。じゃあまたね」
「ありあとやっしたー。……あーっ、お客さんちょっと待って!」
背を向けて歩き出そうとしたところで店員さんに呼び止められたよ!
なんだろう、お金の計算が間違ってたとか?
「すっかり忘れてた。最初に言ったその鎌に悪いモノが付いてるって話。それちゃんとした方がいいからね、ホントに!」
「あーそれね。うん。忠告ありがとう」
「ちょっとー? 放っておくつもりでしょ。本当にヤバいんだって。柄の部分に黒くて怖い何かが染み付いてんの。友達に貸してからそうなったんだよね?」
「まぁ……そうだね」
「お客さんって人間関係に疎そうだから教えたげる。付き合う相手は選んだ方がいいよ」
えぇ……? それ言われるの僕の方なんだ……?
そっくりそのまま店員さんに忠告したい内容なんだけど……人間、自分のことを客観的に見るのは難しいって事なのかな?
「悪い言い方になっちゃうけどさー、その人絶対に怪しいからこれ以上付き合うのは考えた方がいいよ。自分の目では優しい人にしか見えなくても、他の人からすればヤバいってすくに分かったりするもんだから」
「あの……うん。そうかもね」
店員さん、もしかして鏡に向かって喋ってる?
◆ ◆ ◆
「ハッピーは……僕の家族だよね」
『
武具屋さんを出てから少し買い物をして、寮に戻ったのは夕暮れ時! 片付けを済ませた僕は『母胎』さん達と会食した時の謎空間にお茶を持ち込んでハッピーと一服する事にしたよ!
誰も怖がらせず彼女と顔を合わせられるこの場所は本当に便利だね! 王都に来てから色々と気を遣わないといけない事が増えたから、守護獣と一緒に寛ぐだけでも一苦労だよ!
「いやぁ、今日の武具屋さんもそうだけど、最近になって故郷では疑問にも思わなかったような事を聞かれたりするからさ。何か僕の認識がズレてるのかもって不安になっちゃって。僕とハッピーの間柄は家族って事で間違いないよね?」
『
「ハッピーは僕の事どう思ってる?」
『
「おっ、言ってくれるねぇ」
『
ハッピーが生意気な口を利いてくれたお返しに、近くにあった二つの頭をぐりぐりと乱暴に撫で回してあげたよ! 溶けて柔らかくなってる部分が血と空気を吐き出しながら沈み込んでいく感覚が懐かしいね!
実家ではよくこんなじゃれ合いをしてたなぁ。作業の時間になっても遊んでて母さんに怒られたりしたっけ。母さん、武器屋のお爺ちゃん、自称門番のお婆さん……村のみんなは今頃何をしてるんだろう。
「……ねぇ、ハッピー。今日は久しぶりに一緒に寝ない?」
故郷の事を考えてると少し寂しくなっちゃったよ。ここまで長い期間村から離れた事なんてなかったし、学園を卒業するまで当分の間は帰れないからね。村長さんも慢性的に胃を痛めてるから心配だよ。
でも、こんな気持ちになっても僕には同じ思い出を共有できる家族がいる。常に一緒にいてくれる守護獣がいる。これはとても幸運な事だと思うよ。
『
「ありがとう。じゃあ僕は部屋に戻って着替えとお菓子を持ってくるね。ハッピーもまだ果物食べるでしょ?」
『
「おっ、いいね。やろうか」
ちょっとしんみりしちゃった僕を元気付けようとしてか、ハッピーがゲームに誘ってくれたよ!
僕の希望を聞いてくれつつ、気持ちが落ち込まないように明るい話題も提供してくれる……彼女は昔から本当にこういう気遣いが上手だよね!
◆ ◆ ◆
『
「……」
でもさ、励ましてくれるんだったらもう少し手心というか、なんというか……うん。別に手加減して勝ちを譲ってくれとは言わないけどさ、その……うん。
……ハッピーってまだ少し子供っぽいところがあるよね!
そういう無邪気さも彼女の魅力ではあるんだけど、兄代わりとしてはこれからも彼女が精神的に成長していけるように見守っていこうと思うよ!
────────
【あとがき】
これで書き溜めていた分は終わりです。
お疲れ様でした。
タイトルが長過ぎるので変えようかと考えたりもしましたが、一度タイトル回収というものをしてみたかったので変えないでおきました。
勘違いモノという事で終盤の構成にかなり苦労しましたが、タイトルが回収できて気持ちがよかったです(小並感)。
感想、レビュー、いいね、ありがとうございます。
内容が内容なので大して読まれないと思っていたのですが、温かく見守ってくれた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
ハーメルンさんの方でサイト機能を使った登場人物のアンケートを置いていたりします。
興味のある方は覗いてみて下さい。
召喚学園の生徒だけど守護獣が異形すぎて邪教徒だと疑われてます だぶすと @kirisame_24
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