男の信念
「おはよう。既に全員知っていると思うが、先日奴隷を狙った組織的な盗みと魔導具店への強盗があった。どれも王都内での事だ」
やあ、僕の名前はヘレシー!
レティーシアにボードゲームでボコボコにされつつも素質を認められた僕は、いつか彼女にリベンジを果たす事を誓いつつあの有名なヴァリエール召喚師学園に通っているんだ!
今日は学園内の闘技場に移動して先生の話を聞いているよ!
強盗っていうのは昨日の買い物中に見たあれかな? 犯人が捕まっているといいね!
「詳しい情報は降りてきていないが、関連する事件に生徒が巻き込まれる、または直接狙われる可能性が十分にあるというのが学園長の考えだ。そこで、この国の未来を担う召喚師である諸君らを守るために学園側でも警邏や護衛に一部の人員を割く事になった」
へー、思ったより大事になってるみたいだね! 昨日のあれが王都の日常風景じゃなかったみたいで安心したよ!
それにしても、まだ資格も取れていない生徒に護衛を付けるなんてよっぽど召喚師を大切にしているんだね! まぁ単純に貴族層に向けたアピールなのかも知れないけど!
「これはあくまで一時的な対応だが、全員に護衛を付ける訳にもいかん。そこで、今日は諸君らの自衛能力を確認するために召喚獣を使わず模擬戦を行ってもらうことにした。前に呼び出した召喚獣の能力に関しては既に記録しているので、残った召喚師本人の力を確認する事で総合的な自衛力を割り出そうという訳だ。それらの情報から優先度を決定して効果的に人員を配置していく。家が大きく十分な戦力の護衛を既に付けている者も、今後の授業の参考にするため今日の模擬戦には参加してもらう」
なるほど、今日は召喚師本人が戦うみたいだね! ……召喚師学園なのに? そんな事ある?
闘技場に集合した時点で嫌な予感はしていたんだけど正直この授業内容は予想できなかったね! 流石はヴァリエール召喚師学園、いつも僕の想像を超えてくれるなぁ!
「一応確認しておくが、この中で魔法を使えないものはいるか」
「はい!」
「いるのか……」
え、正直に答えたら引かれちゃったんだけど……もしかして魔法が使えないのって召喚師として結構ヤバい? でも差し支えがあるんだったら入学前に確認するべきだよね。
召喚術が使えるだけの魔力を持っている人は幼い頃から魔法も習うのが普通なのかな? 確かに僕も自称門番のお婆さんに教えてもらった事があるよ! 残念ながら使えるようにはならなかったけどね!
「……現代戦闘において、敵魔導師への対抗手段はほぼ必須だ。今からでも訓練を受けて魔法を使えるようになるか、少なくとも防御用の魔導具を揃えておくべきだろう。護衛はまずお前に付ける事になりそうだな……」
なんだか正論で諭されちゃったけど、先生が言ってる事は理解できるよね! 召喚獣がどれだけ強くても召喚師本人がやられたら意味ないし!
もう一度魔法の習得に挑戦するっていうのは考えた事がなかったよ! ずっと自分には無理だって諦めてたけど、王都には魔導師学園もあるし、魔導書だって書店に充実してるし、この恵まれた環境で頑張ったら意外と習得できるかも知れないね!
「では、今から二人ずつ中央に出て模擬戦を行ってもらう。これはあくまで自衛能力を確認するための特別な行いであり、勝敗が成績に影響するような事は無い。誰か最初に名乗り出る者はいないか? 好きな相手を使命していいぞ」
「先生、ここは
「レイチェルか。いいだろう」
先生がそう言うと、一人の女の子が元気よく手を上げたよ! レティーシアとコン子さんが契約した後すぐに召喚に臨んでいた子だね! 彼女が契約したのは確か大きめの鳥さんだったかな!
黙っていればクールに見えるレティーシアと違って、レイチェルさんはイメージ通りに貴族貴族してる感じのお嬢様ですわよ。
「私は……レティーシアさんとの対戦を希望しますわ!」
「おお……っ」
「すごい……」
お嬢様はレティーシアと戦いたいみたいだよ! 何か因縁でもあるのかな?
他のクラスメイト達はその対戦カードに驚いているね! 格上への挑戦を讃えて……というよりは、単純にレティーシアに戦いを挑んだ事自体に驚いている感じかな!
もしかしてレティーシアって友達少ない?
「ええ、私は構わないわよ」
「感謝しますわ。訓練の成果をお見せします。今日こそ努力が才能を上回る事を証明してみせますわ!」
「なんだか久々ね。貴女とのこういうやりとりも」
お嬢様の挑戦をレティーシアが受けた形だね! 過去にも模擬戦の経験があるっぽい口振りだけど、二人の関係性はよく分からないや!
お嬢様の努力がレティーシアの才能を上回るか、みたいな話をしているけど、レティーシアだって努力はしてると思うよ! 言いたい事は分かるけどね!
模擬戦用の装備置き場から、お嬢様は両手持ちで頭の小さいハンマーを、レティーシアは首から下を覆い隠せる大盾を選んで取ってきたよ! ……なんか初っ端から異色じゃない……?
ただの模擬戦だし好きな武器を使ったらいいとは思うけどさ、二人ともちょっと尖り過ぎかな……。
「よろしくお願いいたします! 【アクアショット】!」
「ええ、よろしくお願いするわ。【アンチ・アクアマジック】」
「【サンダーアロー】!」
「【グランドフィールド】」
二人の模擬戦が始まったよ! まるで魔導師同士の戦いみたいだぁ……。
クラス全員がこんな感じの戦い方をするんだとしたら、僕もレティーシアみたいに盾を持った方がいいかもね! 魔法を防ぐ手段が無いと勝負にすらならないよ!
「【ブレイズマイン】! いきます!」
お嬢様が回り込みながら飛んでいくタイプの炸裂魔法を複数放ってから間合いを詰めにいったよ!
あのハンマー、当たり方によっては洒落にならない威力になると思うんだけど、頭に直撃でもしたらどうするんだろうね? レティーシアの家にはお抱えの治癒師がいるとは言っていたけど、実際に怪我させたら親御さんに滅茶苦茶怒られそう!
そういうリスクもあってレティーシアに挑戦しようとする人が少ないのかな? お嬢様には是非ともこのまま彼女の友達でいてあげてほしいね!
「【アイスウォール】」
「! それを待っていましたわ!」
炸裂魔法とお嬢様に挟撃される形になったレティーシアが魔法を使って氷の壁を周囲に展開すると、お嬢様が勢いよく床を蹴ってその氷壁に向かっていったよ! なるほど、守りに入ったレティーシアの氷を壊すためのハンマーだったんだね! 過去の対戦経験から対策を考えたのかな?
透明度の低い氷が邪魔でレティーシアの様子が見えないけどそれは相手も同じ事だろうし、不意をついて一撃を入れるチャンスだね!
「はあっ!」
お嬢様が炸裂魔法より先に氷壁に取り付いたよ! 大きく振りかぶったハンマーがレティーシアの氷を捉えて──
「【
「なっ!? ぐぅ……ッ!」
──と思ったけど、ハンマーが直撃する寸前でレティーシアが大盾を氷壁に叩きつけて、内側から氷を割ってお嬢様を吹き飛ばしたよ! 氷壁は魔法を防ぐためだけじゃなくて、相手を迎え撃つための目眩ましでもあったんだね!
大盾で強く打ち据えられたお嬢様は、何度か床を転がってからすぐに体勢を立て直して魔法を構えたよ! 根性あるね!
「あ、【アクアショット】……!」
「【
「っ……!?」
なにあれ。レティーシアが氷の上で踊るみたいにスルスルと移動していくよ! 摩擦とか慣性を無視しながら優雅に床の上を滑走する姿に頭が追い付かなくて混乱するね!
咄嗟に放った魔法も避けられて、お嬢様はハンマーで防御姿勢をとったまま固まっちゃってるよ! 大盾みたいな金属の塊が高速で迫ってくるのって普通に怖いよね。
「き、今日は勝ちを譲りますが、私は決して諦めませんわっ! いつの日か──」
「【
「み”ゃっ!」
あ、飛んだ。最後まで言葉を紡ぐ事さえできずにゴロゴロとこっちに転がってくるお嬢様を見てると何ともいえない悲哀を感じるね!
レティーシアの容赦の無さは美徳だと思うけど、これじゃクラスメイトに引かれちゃうんじゃないかな。同じ学び舎で顔を合わせる仲間だからこそ互いを尊重する意識が大切だと思うよ! やり過ぎには気を付けよう!
「流石レティーシア様! 魔法だけでなく戦技も一流だ!」
「必要以上の手の内を見せずに勝利する……難しいな……」
「お、俺も頑張るぞ……っ!」
あ、そういう反応なんだ。意外に肯定的でビックリだね!
勝てば官軍ってことなのかな? お貴族サマらしい明快な判断基準だと言えるね!
「げほっ、げほ…………っ、また……届きませんでしたわ……!」
お貴族サマの思考の難解さに頭を悩ませていると、足元に倒れていたお嬢様がゆっくりと動き出したよ!
見たところ外傷は無さそうだけど、骨とか内臓に損傷があったら大変だよね。一応声を掛けておこうかな。
「えっと……大丈夫? 随分と派手に吹き飛んでたみたいだけど」
「えぇ、ありがとう。ですが問題ありませんわ。目標として……ライバルとして……いつか彼女を越えてみせますわ……!」
お嬢様はゆっくりと立ち上がってレティーシアの方を見ながら気丈に笑ったよ! その不屈の精神は僕も見習っていきたいね!
お嬢様は戦いで、僕はボードゲームで、どちらもレティーシアに挑む立場なのは同じみたいだ! 僕の知らない癖や弱点なんかを教えてもらえれば勝利にグッと近付くだろうし、ここは是非とも協力関係を築いていきたいところだね!
◇ ◇ ◇
「うわ、すごい猛攻だね」
「マリードさんの長所はあの素早さですわ。あれは決まったでしょうね」
お嬢様とレティーシアの戦いを見て気合いが入ったのか、それから次々に模擬戦が行われていったよ! 見世物でも眺めているような感覚で気楽に観戦していたけど、残りの人も減ってきたしそろそろ自分の事も考え始めないといけないね!
僕と同じく相手がいなくて余ってるっぽい庶民の人が少し離れた所に座ってるから話し掛けに行こうかな! いつも教室では逃げられちゃうんだけど、今みたいに強制的に誰かと二人組にならないといけないタイミングならそうもいかないよね! 拳を交えつつ庶民トークで盛り上がろう!
「お、おい庶民! 俺と勝負しろ……っ!」
「……ん? あー、君かぁ」
庶民の子に狙いを定めて腰を上げたところで聞き覚えのある声が近付いてきたよ! この男の子はあれだね、ジェイド君の取り巻きの一人だね! 名前は確か……カイゼル君だったかな?
校舎裏に呼び出された時にコン子さんから精神攻撃を受けちゃったみたいだから心配していたんだけど、今ではすっかり元通りみたいで安心したよ!
「俺が勝ったらジェイド様について知っている事を全て吐け。……そして、あの校舎裏で会った女性を紹介してくれ……!」
「……なんて?」
あ、元通りになってないね! コン子さんの影響が残ったままだね! 可哀想に!
これって法的にも色々と駄目な状態だと思うんだけど、契約者であるレティーシアの責任問題になったりしないのかな? それともクレセリゼ家の発言力で握り潰される?
「分かっている。あの
「いや、契約者に直接言った方が話が早いと思うんだけど……」
「馬鹿が。レティーシア様の召喚獣だぞ? 俺なんかが下手に近付いて妙な誤解でもされようものなら家ごと潰されかねん。無論こちらに下心など無い。下心など無いが……向こうがどう感じるかは別の話だからな」
「まぁ、何事も受け手の気持ちが大切だよね」
「そこでお前だ」
「どこで僕?」
ちょっと考えが読めないんだけど、リスクがあるのが分かっているのに親しくなろうと画策している時点で魅了の影響が残っちゃってるのは明らかだよね! 今度コン子さんに会ったら治してもらえるように頼んでおくよ!
「不自然にならない程度に俺を紹介するだけでいい。別に、あの
「へ、へー……」
うわぁ、なんだか話を聞いていると体がむず痒くなってきたよ!
まるで恋する少年の青春物語みたいになってるけど、どうせ魅了が抜けてなくて暴走してるだけだろうからここで変に後押ししちゃうと後でカイゼル君が大変な事になりそうで怖いなぁ。召喚師は貴重らしいから簡単に消されちゃったりする事はないだろうけど、歴史の裏側に回される可能性は十分にあるよ!
ただでさえジェイド君が出席してこなくなっちゃったのに、この短期間でもう一人いなくなるのはマズいよね。クラスの中に悪い奴でもいるのかと思われちゃう!
なんとかカイゼル君にコン子さんを紹介しないようにして、彼を権力者の魔の手から守ってあげよう!
「うーん……話は分かったけど、勝った時の要求が二つもあるのは欲張り過ぎだよ。君にとって本当に必要な方だけにしてくれないかな」
「ぐ……なんて卑怯な……!」
そんな歯ぎしりして悔しそうな顔されても……。
そもそも僕、君の話に乗ってあげてる側なんだけど?
「……………………ならば是非もない。ジェイド様の情報を教えろ」
「まぁ、そうなるよね。分かったよ」
お、意外に冷静。ジェイド君の取り巻きとしての自覚が見受けられるね! 単に時間経過で魅了が弱まっているだけかも知れないけど!
これで勝っても負けてもカイゼル君にコン子さんを紹介しなくて良くなったね! 僕は今、一人の学生の未来を守ったよ!
それにしても実際は何も知らないジェイド君の情報を空売りできるとは思わなかったね! ジェイド君の取り巻きに対しては今後も同じ手口が使えるかも?
こういうのが王都の交渉術ってやつなのかな? あくどいね!
「あ、そうだ。僕も教えて欲しい事があるから、君が負けた時はよろしくね」
「はぁ? 馬鹿にするのもいい加減にしろ。そんな事は万に一度も有りはしない」
「まぁまぁ。そういう条件を付けた方がきっと盛り上がるよ。一方的な勝負じゃ君だって面白くないでしょ?」
「……フン、いいだろう。大口を叩いた事を後悔させてやる」
ついでにこっちからも条件を出してみたけど、結構チョロい……じゃなくて快く応じてくれたね! なんだか故郷で聞かされていた話よりノリがいいんだよね、ここの貴族の人って。おかげでストレスなく勉学に打ち込めているよ!
ちなみにもし僕が勝ったら例のボードゲームのコツを教えてもらおうと思っているよ! 流行ってるゲームらしいしカイゼル君もやってるよね?
「行くのね。貴方の剣がレティーシアさんに届き得るものかどうか、同志としてしっかりと見させていただきますわ」
「いや、そんな目線で見なくていいから」
カイゼル君との話を聞いていたレイチェルさんが変な事を言い始めたんだけど……もしかして僕も一緒に剣や魔法でレティーシアと戦うとか思われてたりする? ボードゲームで勝ちたいんだって観戦中に説明したよね?
これが貴族ジョークなのか、それとも僕の話を全く聞いていなかったのか、ちょっと判断がつかないなぁ。丁寧に説明してボケを殺しちゃうのも悪いし、ここは触れないでおこうっと!
「カイゼルの相手は……ヘレシーか……? カイゼルよ、その者が魔法を使えないという話は聞いていたな?」
「はい。そのような人間に魔法を使うなど魔力の無駄です。剣技のみで圧倒してみせます」
「ならば良し。始めるがいい。ただし、あくまで自衛力を確認するための模擬戦だという事を忘れるな」
ペアになった事を先生に伝えに行ったんだけど……何故か僕だけじゃなくてカイゼル君も魔法を使わない流れになってるよ! ラッキー!
負けても実質的に失う物が無いとはいえ、僕がジェイド君の事を実際は何も知らないってバレたら怒られそうだし、ゲームのコツを聞き出すためにも勝てるなら勝ちたいもんね!
武器は……どうしようかな? 故郷で害獣駆除をした時の印象だと、人型の生き物には鍬がやりやすいと思っていたんだけど用意されてないんだよね!
どうせ訓練用の武器に刃なんて付いてないんだし、適当な重さのある棒ならなんでもいいや! ご立派な戦術なんて僕は知らないし、畑仕事で身につけたパワーを単純に振るうだけだよ! この大きな剣なんか丁度いいんじゃないかな?
「……ふん、両手剣か。型を修めているかも怪しい素人がどうやって扱うのか見物だな」
「型……型ね……」
ないよ! そんなもの!
魔法と同じで害獣駆除の仕方も自称門番のお婆さんから教わったんだけど、あの人感覚派だから言ってる事が何一つ伝わってこないんだよね!
「冷たい感じがしたら体の芯を持ち上げる感じ」とか言われても僕には全く分からないよ! ちなみにこれは戦技を使うためのイメージ……みたいに聞こえるけど、ただの走り方のコツらしいよ! 冗談きついね!
カイゼル君が選んだ武器は使いやすそうな長剣! 他のクラスメイトも同じ得物を使っている人が多かったよ! 王国剣術の基本なんだろうね!
「おい、初手は譲ってやる。好きに打ち込んでくるがいい。それが開始の合図だ」
闘技場の中心に移動して向かい合うと、カイゼル君はどこかで聞いたような言葉で僕に先手を促してきたよ! 流石はジェイド君の取り巻きをやってるだけの事はあるね!
剣を横に構えているって事は、まさか一発目は避けずに受けるつもりなのかな? こっちは両手剣だから結構な重さがあるんだけど……随分と防御力に自信があるんだね!
「じゃあお言葉に甘えようかな。いくよー」
両手で大剣の切っ先を天高く掲げながら一歩ずつ近付いていくよ! 絶対に相手が攻撃してこないって分かっているからこそできる隙だらけの構えだけど、一撃を重くする方法としては理に適ってるんじゃないかな!
「お前……なんだその滑稽な構えは……」
「おい見ろよ、あの庶民の剣の持ち方!」
「ハハハ! あいつ本当に何も知らないんだな!」
あ、カイゼル君が呆れてる! 遠くで見守ってくれてるクラスメイト達も楽しそうに盛り上がっているね!
そのままゆっくり歩き進めると、両手剣なら大きく踏み込めば攻撃できそうな距離になってきたよ! やっぱりリーチの長い武器ってそれだけで優位性を感じちゃうよね!
重いから単純に振り下ろすだけでも強力だし、害獣駆除のトドメっていう用途に限れば素人でもある程度の仕事ができる武器種だと思うよ!
「舐めやがって……俺が本当の剣の振り方というものを教えてやる! 来いッ!」
「はいはい」
僕は頭上に掲げた両手剣はそのままに、一息で距離を詰めてカイゼル君の腹部に蹴りを叩き込んだよ! お貴族サマに来いと言われたら行く。庶民として理想的な働きだね!
「ッ!? がハ……っ!」
突き刺した足を前方に振り切ると、カイゼル君は長剣を手放しながら吹き飛んでいったよ! これで試合開始って事でいいんだよね? 相手が体勢を崩している間に追撃しよう!
自称門番のお婆さんが「血が出る生き物は腹を刺せば死ぬ」って言ってたし、カイゼル君は血が出る生き物だから腹部を狙おうかな!
「ゴボ、ごほっ……エ、【エアフィールド】……!」
「おおっと」
両手剣を持ち直して跳び上がると、カイゼル君が使った魔法にぶつかっちゃったよ! 透明な空気の層に阻まれて全然前に進めないんだけど何これ? 魔法ってやっぱり不思議だなぁ。
こうなると僕はもうお手上げだよ! 召喚できない召喚師なんてこんなものだよね!
「ふむ。魔法を使ってしまったようだが……どうする、カイゼル。まだ続けるか?」
「ッ……いいえ、俺の負けで構いません。しかし、クソッ! なんて卑怯なやつなんだ……」
あ、降参してくれた。間違って咄嗟に魔法を使っちゃったから勝ちを譲ってくれたんだね! カイゼル君が両手剣の方ばっかり見ていたからつい蹴っちゃったんだけど、なんだか不意打ちしたみたいで悪いなぁ。
でも勝ちは勝ち! これで知りもしないジェイド君の情報を空手形にした事はバレずに済みそうだね!
「庶民が……汚い手口で……」
「カイゼル…………人柱……」
「やはり……の信………手段を選ばない……」
特に技量を競う展開にならなかったからか、クラスメイト達も盛り下がってヒソヒソ話を始めちゃったね!
でもこれってカイゼル君がうっかり魔法を使っちゃったのが原因であって、別に僕が悪い訳じゃなくない?
「おめでとう。流石貴方だわ」
「うわ」
気が付いたら後ろにレティーシアが立っていたよ! なんで足音消してたの? 心臓に悪いからやめてほしいな!
僕がレイチェルさんと一緒に模擬戦を観戦していた時もチラチラとこっちを見ているようだったけど、何か用事でもあったのかな?
「どうしたの?」
「模擬戦をしましょう。今の試合内容ではきっと消化不良でしょうから、私がその欲求のはけ口になってみせるわ」
「絶対に嫌だけど……」
何言ってるのこの子。どこか誇らしげな表情で駆け付けてくれたのは結構なんだけど、短杖とバックラーに持ち替えてガチの魔導師スタイルやめてくれない? 僕達召喚師だよ? 大盾どこやったの?
魔法を使われたら何もできない僕と魔法を使う気満々のレティーシアじゃ模擬戦っていう体裁すら保てないだろうから悪いけど他を当たってほしいな!
「そう……貴方が勝ったら昨日言っていた無料の食事券を渡そうと思っていたのだけれど……」
「! ……いや、やらないよ。僕はあのゲームで君を越えるって決めたんだ。他の手段で目的を達成したとして、それは僕にとっての勝利じゃない」
「連戦で疲れているでしょうから、貴方は私の体に一度でも触れたら勝ちで構わないわ」
「違う、違うよレティーシア。手加減されて拾った勝利に意味なんて無いんだ」
分かってないね……男ってのは一度自分自身で決めた事は譲れないんだ。精密に組み立てられた論理よりも、熱く燃える気持ちを優先したくなる生き物なんだよ……! 他人からすれば不器用に見えるかも知れないけど、自分の信念には逆らえないし、逆らっちゃいけないんだ!!!
「最初の十ターム(約十秒)、私は一歩も動かないわ。魔法も使わない。どうかしら」
「よし、やろうか。丁度体を動かしたいと思っていたところなんだ。短剣に持ち替えてくるね!」
ラッキー! 魔法使わないんだって! 申し訳ないけど全力でやらせてもらうよ!
正直この条件でも勝てるかは分からないけど、今のところボードゲームよりは勝機を感じるよね!
『
え、何? ハッピーも応援よろしくね!
テンション上がってきたなぁ! もし勝てたらハッピーにも美味しい果物をいっぱい買ってあげるからね!
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